2-08 オルガナはお節介さん
バスケットを手に掲げて調理場を出ると、外ではオルガナが待ち構えていた。
「お勉強に必要なものを揃えたから持ってきたのよ。直接手渡したくて、ここまできちゃった」
「ありがとうございます」僕は手提げ袋を受け取って、お辞儀をする。
「相変わらずお節介ですこと」マーガレットさんが笑う。
「そんなことないわ。自分で手渡すのが一番確実だからよ。ご主人さまだってそう仰るわ」オルガナは丸い頬を膨らませた。
「まずは行動すること、ですね」
僕は首を傾げた。
「行動し、その結果である経験こそが至宝であると、ご主人さまはよくおっしゃっているの」オルガナはにっこり微笑んで、僕の頭を撫でた。「あなただってそう。いろんな経験を積ませることが必要なんですって」
「あなたはきっと、私の」と言いかけて、マーガレットさんは言葉を変えた。「私たちの気持ちを最も深く理解できるようになるはずよ」
僕たちはオルガナと別れて、ご主人さまの部屋へと歩き始めた。学校へ行く準備のお手伝いをしなくてはならないのだ。
歩きながら、マーガレットさんが言う。
「あなたが同行する女学院について、どのような場所かは聞いているでしょう」
「はい、特に高貴な方々が、教養をつけられるための場所です」
「創立三百年弱の女性による女性のための勉学の場です。未だに、特別な日以外の男性の受け入れはなかったのです。あなたが認められたのも、全てはご主人さまのお力によるもの。以前、こちらで一度面談を行ったでしょう? あの時にいらしていたのが校長先生ですよ」
「そうだったのですね。ぼ、私は、何も喋りませんでしたよ。大ご主人さまが淡々と話を進められていましたので、私はあの方には体つきを検分されただけでした」
「良いですか、高貴な場所には、それにふさわしい振る舞いが必要です。あなたなら大丈夫でしょう。私がしっかりと教育しましたので。その場にふさわしく侍従らしい振る舞いがあなたを助けるでしょう」
「はい」
「混乱を招くようなことはくれぐれも行わないように。あなたはエヴァンジェリンお嬢さまの侍女、その前に淑女です。首元のチョーカーに恥じぬよう、勉学に励みなさい」
僕は唾を飲み込み、しっかりと頷いた。
だが、よく考えてみればおかしなことだ。
侍女なのに、一緒に勉強しなくちゃならないなんて。
体を動かして覚えたりするのは、問題なくできる。
でも、誰かと一緒に文字を書いたり、何かを謎を解き明かしたり、そういうことは未経験だ。
「大丈夫、あなたなら」と彼女が言う。「血と素質があります。今朝、鏡を見たでしょう? 無い胸を張って歩きなさい」
「はい!」
彼女のエールは人をやる気にさせる。
できるような気がしてくる。
不思議なものだな、と思ったのだった。
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