2-07 お弁当を作る

 マーガレットさんは、昼食のお弁当について質問をするようにとご主人さまからの指示を受けた旨を伝えると、気持ちのいい笑顔で台所に誘い入れてくれた。


「いつもどおり、サンドイッチですよ」と彼女は言った。「冷たいものがお好きですからね」


 僕は感心して頷いた。

 頭の中のご主人ジャーナルに一項目作らなくては、と思う。


 マーガレットさんが僕の肩を叩く。


「今日はあなたが作りましょうか」


「僕が?」


「私が、でしょう?」彼女はいたずらっぽく笑い、調理場の奥へと進んでいく。「何のための特訓ですか」


 僕は言い返すこともなく、彼女の横で立ち止まった。


 そして、覚悟を決めたのだ。


 料理の特訓は半年間続けていたとはいえ、ご主人さまの口に入るのは今日が初めてだ。


 僕は表向きエヴァンジェリンご主人さまの前では、庭師として住み込むことになっていたし、いままでのお弁当は、すべてマーガレットさんに任されていた。


 料理人の仰々しい食事を嫌い、気楽に食べられるものを好むご主人さまにとって、マーガレットさんの作るサンドイッチは、日々の楽しみになっていることだろう。


「お嬢さまは、とにかく熱いものが苦手なのよ」と彼女言って、微笑む。「大丈夫、あなたにも作れますよ。重要なのは、愛情を込めて丁寧に作ることです。あなたの包丁さばきには、少し剣を振るうような野蛮な部分がありますけれども」


 このお屋敷にある食材はとても良いものだし、貴重な調味料だって揃っている。

 あとは、僕の腕次第なのだ。


 僕は腕まくりをする仕草をして、真剣な面持ちで頷いた。


「腕前よりも、愛情が大切ですよ」マーガレットさんが言う。


 僕は彼女の手本を真似ながら、パンに食材をはさんだ。湿ったタオルに包んで馴染ませた後、よく切れる包丁でパンの耳を切り落とす。


 出来上がったサンドイッチを三角形に切って、バスケットに詰めていく。


「記念すべき第一日目なのですし、もう少し手を加えましょうか。お嬢さまは、本当に冷たいものがお好きですから」


 僕が首を傾げて見上げると、彼女は胸を張った。


「まあまあ、見ていなさいな」


 バスケットのふたを閉じて、僕は彼女の後ろをついて歩いた。

 調理場の奥へ入っていって、食料庫の中から、小さめのりんごを三つ取り出す。

 それから地下室に貯めてある大きな氷の塊を引っ張り出した。


 僕は彼女の指示通りに、食器棚から銀の容器とカップを持ち出した。

 バスケットに仕切りをして、そこにりんごを詰めた。

 銀の容器には氷を大きめに砕いて入れておく。


 カップとブランデーの小瓶をうまい具合に詰めてやると、彼女は言った。「フルーツナイフを入れておきますから、気をつけてくださいね」


「はい」


 僕は皮むきの修行を思い出し、ちくりと指先に痛みを感じたような気がしたのだった。

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