淡々とした語り口で、無味乾燥な日々との別れを言うのだ。

 淡々とした文章で、非日常を語る作品。
 主人公はピッキングを得意とする少年。そんな少年と同じ高校の少女が出会うことから、物語は進んでいく。しかし、この少女との出会いが、主人公がさらなる非日常へ歩み出すきっかけとなる。
 淡々と語られる日常へはもう戻れない少年と少女の出会い。しかしこの出会いは主人公と少女の心に、緩やかではあるが確かな想いを芽吹かせる。互いを必要とすることは、弱さなのか。何かを手に入れれば、失うリスクを伴うから、これまで諦めていたことにしてきたのか。
 「事実の軽量化」という言葉が本作には繰り返し登場する。使えば使うほど、その言葉の意味が剥落して行き、砂礫と化すかのような、乾いた思考。もしかしたらこの少年と少女は、「事実の軽量化」をすることでしか、生きて来られなかったのかもしれない。それでも、出会ってしまった二人は、お互いを探すようになる。帰って行きたい場所が出来てしまう。その場所は主人公にとって、少女がいる場所だった。少女を失うリスクを持った少年は、最後に、一つの決断をし、実行する。
 最初から最後まで淡々として、起伏が感じられない文章だったが、それが主人公たちの無味乾燥な日々によく合っていて、読みやすかった。

 是非、ご一読ください。

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