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九月への応援コメント
わたしなりに真剣に読んでみました。長くて失礼な文章かもしれないです。申し訳ありません。
◆ 緩慢な自死について
オオミズアオはごはんが食べれないんですね。それは驚きです。
彼女は、美しくて、食べることを拒絶して、短く死ぬ生態に憧れているように見えます。それこそラジオで語ってしまうほどに。
本人は若く、美しく、才能もあるんですよね。でも人間として生きることを根っこから拒絶して、計画的に身体破壊を続けるので……それってゆっくりとした自死みたいです。陰惨な肉体破壊っていうのは、きっとそういう世界があるんでしょうけど。身体欠損に執着する人たちとか。彼女の行為は、そういう変態フェティッシュの世界じゃなくて、偽りなくシンプルな、人間としての死を感じさせます。生物としての死でもあります。月からの迎えなんてくるわけないので。自殺願望と表裏一体となった生まれ変わり願望を連想します。内心では死ぬことがわかっている、実際には自殺だとわかっている。でも自死ではないと自分に言い訳できるような何かです。耳をエルフに改造しちゃうような身体改造フェチとも違うものです。そんなに安全じゃないですもの。それは明確に死に向かうもので、ファッションとはほど遠いものです。
淡々と死に向かっていくのです。他の解釈などありえません。だって死亡届まで出すわけですよね。他の読み方というのはないのかな、少なくとも99%の人はそう読むのかな、と思いました。
◆ 彼女は人間味のないモンスター?それともまだ何か残ってる?
その破壊過程の出来栄えを彼女はどう思っているか、というのが気になるところです。行われている自身の身体の破壊については、淡々として、満足して受け止めている描写なのは明確です。その解釈への反証は文章としてはほとんどありません。なので反証したいのであれば、そこを想像で補うの必要がありますが、ちょっと難しいです。誰もが羨むような綺麗な身体を破壊している。医者もできる範囲以上のことをしている。彼女も淡々として満足しているような描写ばかりである。誰から見たって、彼女の恐るべき行為は、自分の世界観に限りなく忠実です。ほとんど信じがたいですけど、ほんとうに有言実行しているというのは明らか。そこに矛盾はない。あらゆる描写がそれを裏付けます。
でも、それでも彼女は「あの蛾はあざとい」と言います。一読者としてはここにすがりついたわけです。これは、蛾の生態をあざといと言えるほどに、それだけ、自分の行為が徹底していて、蛾をも越えていっているという意識なのか。それとも、ここまで徹底しているにも関わらず、身体破壊までしているにも関わらずですよ?それでも自分に向かって「あざとい」、まだ足りない、といっているのでしょうか。
なんとなく後者の気がします。月人が食べるのにふさわしい和菓子じゃなくて、蜂蜜クッキーを中の上って思ってしまっている自分が出てきますし。これは未練というよりかは、失われていく人間としての自分への、ちょっとした感傷、のように見えます。そうじゃなかったら、もし前者だったら、完全にホラーな主人公ですよね。どうだろう。やっぱり前者なんでしょうか。
この1行「ママ、今では後悔してるよ。あの蛾はあざとい、ご飯を食べないなんて自己欺瞞だ。蜂蜜クッキーはお菓子のなかでは中の上だったよ」で主人公を読者が感情移入できる対象に寄せているのでしょうか。でも、もしそういう意図での表現ならあまりに短すぎないでしょうか。気付けないですよね。そのように思い込もうとして読む自覚的な読者ですら、怪しむぐらいなので。
どっちかわかるほどのヒントはないので、わたしを含めて読者は後者の解釈をしたくなりそうです。
あるいは……「あざとい」の対象は蛾であり、同時に自分であり、しかしその批判の内実は「食べないという姿勢そのものがポーズにすぎない」ということなのかも?オオミズアオは口がないから食べられない。それは生理的な不可能であって、拒絶ですらないですよね。だから拒絶の美学みたいなものはもともとなくって、ないものをでラジオでしゃべって人気を得た、蛾の生態を利用してる、みたいな。蛾はあざとくないのに、あざといものとして消費した自分があざとい。
◆ 生活感とのギャップ
肉体破壊にフェティシズム的な執着がある描写もなく、身体改造マニアでもなく、淡々と死のうとしていることは明らか。でも、実は淡々としているのは言動だけであって、実際には徹底的に身体を破壊していきます。緩慢だけれど過激な死。でもその死を世界に向けて公開するわけでもなく、アイドルというのがそこで伏線として機能することもない。
完全に淡々としていない平板さがちょっとだけ破れるのは、「あざとい」という表現ぐらい。
では、主人公はどことも接地していない化け物なのかというと、和菓子屋さんのコミュニケーションをはじめとして異形になっても普通に生活しています。この生活の淡々としたところは、主人公の心の起伏の平坦さなのかもしれないです。だけれど、普通に生活していて友人ともコミュニケーションが取れていて、でも壊れている、というのがどんな風にわたしの心に入ってきたかというと、モンスターさ加減が浮き彫りになるというよりかは、わかりあえる普通の感性のままで、でも彼女がどんどん向こうにいってしまうという切なさでした。
ホラーな主人公のようにも見えるのですが、やっぱり読者も人間なので、どうも、こう、なんていうんでしょうか。相互理解が不可能な存在として、じゃなくって、細かいポイントポイントで、解釈の方向が、自己破壊が止められない切なさよりになります。これはきっと、才能のあるアイドル、という設定のおかげもあるのかも?一般人じゃないですよね、作者は「あえて」若くて美しくて才能のあるアイドルの破壊をしているわけです。そこには何らかの狙いがあるはず。だって主人公なので。男か、女か、その美醜は、若いか年老いているか。偶像を破壊することを選んだのは自覚的なはず。
◆ ラストについて
これが現実である、もしくは想像である、ことを示すヒントや兆候はなさそうでした。彼女も淡々としていて「これから死ぬらしい」というだけです。月人が迎えに来なくてもそこには一切の感情の揺れがありません。もう死ぬしかないし、そもそも死亡届出しているし、彼女が死のうとしていることはずっと明らかでした。他の解釈の余地はないようにしてきましたよね。一切の仄めかしはなかったです。これはずっと描かれてきた予定調和的な結末です。
でもここで迎えがくるシーンが記述されました。ここは正直、びっくりしました。積み上げたものをすべて破壊したわけですから、入れ子の円環構造なのかな?とも思いました。つまり、彼女が自分を淡々と破壊していく、ただ美しく死ぬのではなく、尊厳を徹底的に破壊しつくしてから死ぬ、という行為が、この小説そのものを、全部台無しにして破壊するという、なにかメタ的な展開なのかな?と思ったのです。
わたしが知らないだけで、こういう風に全部なかったことにする、そういう美学や作風があるのかもしれません。ラストが夢オチ的な表現なのだけれど、これは夢オチではなく SF です、みたいな露悪的な方向性です。
あるいはこれがその、新しい表現なのかも。
あとは、アイドルを自死に向かわせるわけですから、若い女性を消費する文化に対する強力な批判、みたいなものは読み取らざるを得ません。
物議を醸しそうなラストの演出とか、アイドルを主人公にして徹底的な自己破壊を行わせる、という流れは、独特ですし印象に残るのは確かです。
でも、露悪というのは、物語そのものに対してであれ、主人公に対してであれ、なにかに回収させる仕掛けがないと、なにか解釈の余地がないと、読者もちょっとどう捉えてよいのかよくわからなくなります。毒のかたまりの顔をしていれば、それは全然構わないです。でも全方位に解釈が可能というか、まったく何も提示されないと困るというか。どう読めばよいのか困りました。だから、それが目的であれば成功ですし。うーん。
でも、いろいろと読み込みたくなる、素晴らしい作品でした!
作者からの返信
安曇さん
お久しぶりです! たいへん丁寧に読んでいただきありがとうございます。
私自身は物書きとして、自作の解釈を読者にあまり強制したくなく、むしろ読後に溢れ出る不思議と不条理に痺れていただければなと思っています。自分でも、物語以外の形では言語化しきれないニュアンスもあるような気がしています。
物議を醸しそうなラストの演出については、そうですね……。ある意味、こりゃ賞レースとしては博打だなとは思いつつ、改稿を重ねた末にこの形で完成した感触がありました。もっとも、露悪的などんでん返しになったのは自分でも驚きましたが、「夢想エンドであってはならない」というのだけははっきりと感じていたことです。
あとは、そうですね。深読みする楽しみの時間を提供できただけでも幸甚ですが、もし私の与えたい解釈があるとすれば、「主人公本人の意志」を拾いながら読み直していただけると、ある程度は伝わるのかなと思います。本人が一度でも「自分は月人だ」という主張を曲げたか、現在形で「死を望んでいる」と言ったか。彼女の世界観は間違いだったのか? オオミズアオへの共感と、「あざとい」に至る最近の評価の変化も、真相はそれに収束していくのかなと思います。
こちらが唸らされるような考察でした。どうもありがとうございます! 精進しますので、今後もよろしくお願いいたします。
わきの
九月への応援コメント
拝読しました。確かに、ファンタジー味の終わり方ではありますね!
うさぎになりたい元アイドルと外科医の生々しいやり取り、最後のファンタジックなギャップ。私は大好きなんですけどね、これ!!!創元SF短編賞、なにがハマるのか全くわからない。。😭
恐れながら、強いていえばの点があるとすると、最後の方はとても筆が乗っている印象があるのですが、五月六月くらいはちょっぴり事務的な感じがあるかもと思いました。でも正直本当にそれだけです……!🙏
作者からの返信
伊藤さん
わかりやすいフィードバックありがとうございます!! 今まで短編ばかり書いてきたので、文章の均一化は課題です……。
(最近は数日にいっぺんしかカクヨムを開いておらず、恐縮です)。
わきの
九月への応援コメント
コメント失礼します。
月、アイドル、シューティングゲーム、旬じゃない野菜の天丼、ゴッホ……
痛みで駆動する文学……と感じながら文章の美しさにゾクゾクしつつ読んでいたのですが、結末で気持ち良くぶっ壊されました!
現実の意味や定義に問いを突き付けられた、という点でとってもSF! と感じました。
これが一次落ちとは厳しいものですね……(他の応募作品を拝読していないので何ともいえませんが……)
とても面白かったです。ありがとうございました!
作者からの返信
D先生
出してないんですか……? 出しましょう!!
意見が二分しそうな感じの作品ですが、楽しんでいただけて良かったです。
精進します!
わきの
九月への応援コメント
なんと! 本当にお迎えが?!
「あー、モルヒネで死んで終わりか。悲惨なラストだな。まあ生き残っても苦難ばかりの人生だし、それがむしろ幸せか。。」って思っていましたw
あ、まあ、それだとSFにならないのか。ただの変な女の話になってしまうのか。
わきのさん、これ、相当面白いですよ。一次選考で落ちるの、ちょっと信じられません。
わたくしから、オダジマ賞を差し上げますから、元気出して下さい!
作者からの返信
小田島さん
お久しぶりです!!
オダジマ賞確かに受け取りました。毎年受賞していきたいと思います!
まあ、顔面を本気で変えるだけでもSFかもしれませんが、それじゃ悲しいだけですからね。人類はその気になればみんな兎なのです(支離滅裂)。
わきの
四月への応援コメント
拝見しました。かきなれた印象。それとぶっ飛んだ印象です。
良い物語に育って行くといいですね。
作者からの返信
ありがとうございます。……完結済みです!