第2話 ゆるふわ美少女

(……いや、そんなわけない。雪村さんがあんなところにいるわけないでしょ)


 ゼミの終了時間だというのに、怪訝な表情をした柚月は頬杖をつきながら動かない。

 ある一点を見つめた。

 視線の先には──プリントの束を机の上に配布しながら歩き回る、フランス人形のような美少女。

 ふわふわとしたゆるく巻いたロングに小さな身体、白皙の肌は桜色に染まっている。

 くるんとした長いまつ毛に覆われたぱっちりとした二重の目は、涙が潤んでいるかのように愛らしく、小さな唇は薔薇の花びらのよう。

 萌え袖のようになっているセーターとミニスカートは典型的すぎるほどあざといが、彼女くらい美人だともはや苛つきもなくなる。

 次第に「手伝うよ」なんて四、五人の男子生徒が彼女をわらわらと囲っている。軒並み、鼻の下を伸ばしてでれでれとしていた。


「分かる、分かるよ柚月。あの……雪村ゆきむら可憐かれん。あいつ、あざといよね」

「うわ!?」


 彼女──雪村可憐を見つめていると、明那が隣から声をかけてきた。思わず柚月は仰け反る。


「び、びっくりした……」

「ねえあれ見てよ。あの男子たちの目とかにやけ顔。鼻の下伸びすぎ。ワンチャン狙ってるみたいでマジキモ」

「明那、声大きいって……」

「雪村さんの服やば。今時萌え袖なんて着る? あざとすぎ」


 明那は心底嫌そうに、吐き捨てるかのように言う。慌てた柚月はしっ、と人差し指でジェスチャーして咎めた。しかし、明那は音量を下げずそのまま愚痴を続ける。


「つかあんな量の少ないプリントくらい一人で配れるだろ。なんかさー、ちやほやされて人生イージーモードって感じでいいよね。ああいう女って絶対女友達いないよねー……」

「だ、駄目だって。そんなこと言っちゃ聞こえる……」

「柚月って、あの女と話したことある?」

「まあ、あんまり……挨拶くらい、かな?」

「だよね。私もだわ。男しか興味なさそうだし、男としかつるまなさそうだよね、雪村さんって」


 柚月はチラリとプリントを配布し続ける可憐を見る。すると、目が合ってにっこりと天使のような微笑みを向けられた。

 なんだかばつが悪くなりながらも、柚月は愛想笑いをして会釈した。


「まあいいや。柚月、プリント貰ったらもう帰ろ」

「う、うん……」


 明那の言葉で帰り支度をする。

 ふと、先程の言葉を反芻した。


『男しか興味なさそうだし、男としかつるまなさそう』


 ──なら、なんであんな場所に? 私たちなんて、メンバーみんな女の子なのに……。


 柚月は疑問を抱きながら、バッグに教科書や筆記用具を詰めた。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る