第5話 レクサスと、僕のなかの「第4の関節」
地下街で、頭を下げ続ける40代を見かけた。
彼は電話の向こうの相手に、自分の魂を「お中元」として差し出しているようだった。
僕はすれ違いざま、彼の肩に、僕の脳内で一番尖った「見えないナス」を突き刺した。
「……そこ、第4の関節ですよ」
とだけ言い残して。人間には関節は3つくらいしかないが、無理をしている人には必ず4つ目が現れる。知らんけど。
コインパーキングで、僕のレクサスが待っていた。
日本が世界に誇る、静寂の塊。
だが、僕はあえてこの高級車の**「後部座席」**に乗り込んだ。
もちろん、運転手はいない。
僕は一人で後部座席に座り、自分で自分に「どこまで行かれますか、お嬢様」と問いかけ、低い声で「次の面接会場まで、スキップと同じ速度で」と答えた。
これが、僕なりのレクサスの正しい嗜み方だ。
結局、運転席に移動してエンジンをかける。
レクサスの静寂は、僕のなかの「年収500万への執着」を、綺麗な砂利道に変えてくれる。
「さて、次の面接官は、僕のこの『レクサスの助手席にキャベツを乗せている姿』を見て、何を思うだろうか」
助手席には、さっきスーパーで買った、ずっしりと重いキャベツがシートベルトを締めて座っている。
500万を稼ぐということは、このキャベツを、いつか銀色のキャベツに進化させることなのだろうか。
いや、違う。
年収400万でヘコヘコして、白髪部長に「キャベツの千切りの仕方が甘い!」と怒鳴られる人生を回避するために、僕は今、この静かな空間を走らせている。
僕は、信号待ちの間に、バックミラーに映る自分の顔を見た。
「あ、今、鼻の穴が左右で違う曲を歌ってる」
そんな独創的な気づきこそが、僕の三割のプライドを支えている。
次の面接会場は、ここから車で10分。
僕はレクサスのハンドルを、まるで「眠っている巨大なインコ」の首を撫でるような優しさで回した。
もし、次の会社の取締役もヘラヘラしていたら、僕は持参したキャベツを無言で差し出し、
「これで、僕の年収の不足分を補填しておいてください」
と言ってみようと思う。
さあ、第二ラウンドだ。
レクサスのタイヤが、アスファルトの上で「カクン」と鳴った気がした。
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