歌姫革命譚-異世界で無能と鉱山送りにされたオタクたちと共に歩んだ姫の物語

麺類大好き

ハルト召還編

一日目 ――「無能と断じられた鉄オタ。絶望の鉱山へ」

1 陽斗、鉱山に降り立つ


 

陽斗は荷馬車から降ろされた瞬間、膝が揺れた。

 熱いのか冷たいのかわからない風。

 上空を舞う粉塵。


 削られた岩肌と、朽ちかけた支柱が無数に立ち並ぶ灰色の世界。

 逃げ場も壁もない。


 ただ、どこへ行っても鉱山が続いている。

(……ここが……鉄鉱山……?なんで鉄オタだからってこんなところに……

 異世界に召喚されたと思ったらいきなりこんなところへ追放って……

 嘘だと言ってよ…………)



 兵士は陽斗を置き去りにするように背を向け、呟いた。

「後は鉱山管理者に聞け。俺たちの仕事はここまでだ」



2 絶望の始まり


 残された陽斗の前に、ひょろりとした中年男が歩いてきた。

 鉱山管理者。服は綺麗だが、眼だけが濁っている。


「新入りね。……あー、また若いのが来たか」


 男は陽斗の全身を、あからさまに値踏みする。

「何したのか知らんが、王都に逆らうとこうなるのさ。

 理由なんてどうでもいい。ここまで来たら、みんな同じだよ」


 陽斗が口を開きかけると、管理者は手をひらひら振った。

「言い訳は要らん。どのみち、ここは“帰れない場所”だ。

 逃げる気が起きないくらい遠いし、仮に歩き出しても……まあ、死ぬだけだ」


 淡々と告げられる事実。

 その軽さが余計に陽斗を締めつける。

「とにかく働いてくれりゃいい。

 使えるなら使うし、ダメなら……まあ、自然に消えるだけさ」


 笑顔でも怒りでもない、乾いた声。

 陽斗の胸の奥が、すっと落ちた。

(……俺は……ここで死ぬのか?)

 頭の中で、何かがゆっくりと崩れていく。



3 ディラン登場


 管理者が続ける。

「今日からお前は――」


「――おい、もういい」

 横から静かな声が入った。


 陽斗も管理者も振り向く。

 煤に汚れた作業服の男が歩いてきた。

 大柄で、だが動きは柔らかい。眼は鋭くも温かい。


「初日に追い詰めてどうする。働かせるのは俺たちだ」


「……またお前かよ。立場をわきまえろ、ディラン」


「わきまえているさ。だから言っている。

 新入りがいきなり潰れたら、お前の帳簿も面倒なことになる」


 嫌味ではなく、理屈を静かに述べるその態度に、管理者は顔を歪めた。


「……好きにしろ。ただし、逃げ出したら責任を取れよ」


「ここから逃げられる者などいない」


 管理者はつまらなそうに肩をすくめ、引き上げていった。



4 希望か絶望か


 残された陽斗に、デイランが優しく声をかける。

「大丈夫か?」


「……あ、あの……」


「怖いか?」


 陽斗はうなずくことすらできなかった。

 頬が強張り、声は喉で震える。


「その反応でいい。普通はそうだ。

 ここに来てすぐ笑える奴の方が異常だからな」


 デイランは小さく笑い、陽斗の肩に手を置いた。


「まずは休める場所へ案内する。

 水と飯もある。人間らしい生活の最低限くらいは、俺たちで守っている」


「……俺、ここでどうやればいいのかって……生活できるかどうか不安で……」


「そうか。なら、ゆっくり学んでいけばいい」


 陽斗の目に、じわりと涙が滲んだ。

 初めて会ったばかりなのに。

 この絶望の中で、唯一“人”として扱ってくれる言葉だった。


 デイランは続けた。

「名前は?」


「……陽斗。カガミ……ハルトです」


「ハルト。いい名だ。

 ここでの生活は厳しいが――お前は一人じゃない」


 陽斗は目を伏せながらも、小さくうなずいた。


 それが“革命の最初の火”だと、まだ誰も知らない。

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