1・購入するにあたって

 ペットショップ〝龍の住処〟

 町外れにポツンと佇む何の変哲もないペット専門店だが、ココは知る人ぞ知る世界で唯一のドラゴン専門店なのである。


 「いらっしゃいませー」

 

 カランコロンとカウベルを鳴らして店内に入ると、まず驚くのはペットショップでありながら肝心のペットの姿が見当たらないこと。

 普通のペットショップであれば店内所狭しとケージが並び各動物が展示されている、あるいは動物の稚児が遊びまわるサークルを用意して購買意欲をかきたてるかのどちらかであろう。ところが〝龍の住処〟にはケージもサークルも一切なく、店の大半はドラゴンをモチーフとした各種雑貨の置かれたファンシーショップ的雰囲気。

 ぬいぐるみ、キーホルダー、マグカップ、ステッカー、果てはドラゴン型の栓抜きまである。壁にはタペストリーやカレンダー、セール品のワゴンには「ドラゴンのしっぽクッション」「ドラゴンの爪つきミトン」など、用途不明のファンシーグッズの類が所狭しと並んでいる。

 初見でここがペットショップだと判る人はまずいないだろう。むしろドラゴングッズ専門の雑貨屋と言われたほうがしっくりくるほど。客層もこの手のグッズを好む若いOLや中高生が圧倒的で、黄色い歓声が飛び交う中エプロンを付けた売り子のバイトが元気よく接客をしていたりする。


 ドラゴンを飼育しようと購入に訪れた顧客の大半は、まずこの店の空気感に戸惑いを覚える。


「若い女の子と雑貨だらけで、場違いな雰囲気があるでしょう?」

 

 イメージと真逆の店舗に面食らう購入客に、店主が穏やかに声をかける。

 年齢不詳で物腰が柔らく、どこか引退したスポーツ選手を思わせる落ち着いた佇まいでありながら風格も感じられる。


「これは巷に流布するドラゴンの悪評を払しょくしたかったのと、生体販売の保険でグッズ販売をしたら望外の繁盛となった結果なんです」


 苦笑交じりに「庇に母屋が乗っ取られちゃいました」店主が説明。

 いや、それを言うなら「立場が入れ替わった」じゃないですか? と指摘すると「そうですね」と焦って訂正。意外と脳筋の気質があるのか「後でネチネチ言われそう」と小声でブツブツ呟いていた。

 

「とにかくご案内します」


 咳払いをして慇懃な雰囲気を取り戻すと、店主自ら店舗奥の商談室に案内してくれる。 

 ゆったりとしたソファーに控えめな観葉植物に囲まれた空間は、まるで宝石店の上客用ラウンジのような佇まい。入ってすぐにある雑貨スペースとの落差が大きく、とても同じ店内だとは思えない。まあそれもドラゴンの販売という特殊性ゆえだろう。


 なにせドラゴンの価格は高い。

 購入が信頼できる人への紹介制ゆえに正確な価格は公表されていないが、漏れ聞こえてくるところによればビンテージな高級スポーツカーに匹敵するとか? 

 単に財力があるだけでは購入は不可能で、飼い主の氏素性が資するところは会員制クラブにも似たステータスを感じさせる。

 奥の部屋に貴方が通されたということは、ドラゴンのお眼鏡に叶ったということなのだろう。


 芳醇なコーヒーの香りに暫し浸っていると、店主が改めて1冊のカタログを差し出してきた。


「こちらが本日ご用意できるドラゴンの一覧にございます」


 渡されたカタログは黒革張りの表紙に金の箔押しという重厚かつ豪華な装丁。期待に胸を膨らませつつページを開くと、そこにドラゴンの写真は1枚もなく、なぜか卵の写真のみが複数枚載っている。

 白磁のように滑らかなもの、火山石のようにざらついたもの、宝石めいた光沢を放つものと3種の卵があり、それぞれに簡単な説明文が記されている。

 価格の記載がないからおそらくは〝時価〟なのだろが、気になるのは価格ではなくなぜに卵?


「ドラゴンは孤高の生き物であり、幼体であろうとも基本誰にも懐きません。ただし孵化直後から世話をすればその限りではなく、当店が卵のみを販売する理由でもあります」


 いわゆる刷り込み現象〝インプリンティング〟があるとのこと。ただし鳥類に見られるような〝孵化して最初に見た存在を親と思い込む〟ことはない、卵に魔力を注いだ相手が主として認知されるのだ。


「なので、どんな〝仔〟と巡り合うかは運の要素も多々あります。が、不思議とアン・マッチングな例は聞いたことがありません」


 知性ある生物だけに飼い主の志向に合わせるのではないか? とのこと。

 熟考したうえで1個を選ぶと、店主が実物を持ってきてくれた。

 大きさとしては鶏の卵以上ダチョウの卵以下、重さが凡そ1㎏前後だろうか。白地に茶褐色の紋様があり、単なる卵でありながら神々しさを感じる。


「こちらの卵で宜しいでしょうか?」


 店員が最終確認してきたので「これで」と頷くと、売買契約書と一緒に数多くの申請書が渡される。

 ドラゴンを飼うともなると、金額もさることながら手続きも煩雑なのだ。

 書類一式を書き終え会計手続きを済ませると、いよいよ貴方のドラゴンライフが始まるのだ。

 



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本作品はカクヨムコンテスト11短編にエントリーしています。

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