盗まれた女王と、異世界から来た俺

@8963

第1話 貧乏王国の女王様

目を覚ましたとき、俺は草の上に寝転がっていた。


 空が、やけに青い。

 雲が近く、太陽は眩しいほど白い。


「……どこだ、ここ」


 起き上がろうとして、違和感に気づく。

 体が、軽い。


 いや、軽いどころじゃない。

 自分の手を見ると、細い。明らかに若い。


「……は?」


 混乱する頭で立ち上がると、そこは見知らぬ草原だった。舗装路も電線もない。聞こえるのは風の音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。


 その瞬間、脳裏に理解が落ちてきた。


――異世界転移。


 理由は分からない。トラックも神様もいない。

 だが、否定できない確信だけがあった。


 そして、試しに手を前に出す。


「……出ろ」


 次の瞬間、空気が震え、俺の掌から光が溢れた。

 火、水、風、雷――すべてが同時に渦を巻き、寸前で霧散する。


「……チートかよ」


 苦笑いが漏れた。


 魔力の底が見えない。

 理解するより先に、体が「できる」と知っている。


 そのときだった。


「きゃっ!」


 遠くから、女性の悲鳴が聞こえた。


 反射的に走り出す。

 草原を抜け、丘を越えた先に――小さな馬車が見えた。


 いや、正確には壊れかけの馬車だ。


 護衛らしき兵士は二人。装備は古く、明らかに貧相。

 そして、黒いローブの盗賊が三人、剣を向けている。


「金物を置いていけ」


「……この国に、そんなものはありません」


 そう答えた声は、凛としていた。


 馬車から降り立ったのは、金髪の少女。

 豪華とは言えないが、丁寧に繕われたドレス。背筋を伸ばし、盗賊を真正面から見据えている。


 その瞬間、俺は息を呑んだ。


 ――女王だ。


 理由は分からない。

 だが、彼女が「王」であることだけは、はっきりと分かった。


「でしたら――私を連れていきなさい。民には、指一本触れないで」


 護衛が叫ぶ。


「陛下っ!」


 盗賊たちは顔を見合わせ、下卑た笑みを浮かべた。


「いい度胸だな、小国の女王様」


 次の瞬間、俺は前に出ていた。


「そこまでだ」


 全員の視線が、俺に集まる。


 年下の少年。武器もない。

 盗賊の一人が吹き出した。


「なんだガキ、死にたいのか?」


「いや」


 俺は一歩、踏み出す。勇気を出してこう言った


「その人を、離せ」


 女王の瞳が、驚きに見開かれた。


「あなたは……?」


「通りすがりの町芸者」


 盗賊が剣を振り上げる。


「邪魔するなら――」


 言葉の途中で、地面が砕けた。


 俺の足元から衝撃波が走り、盗賊たちは吹き飛ばされる。剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。


 静寂。


 護衛も、女王も、言葉を失っている。


「……二度言わない」


 俺は盗賊たちを見下ろした。


「逃げろ。次は、容赦しない」


 盗賊たちは這うように立ち上がり、森へと逃げていった。


 その場に残ったのは、俺と、彼女だけ。


「……ありがとうございました」


 女王は、深く頭を下げた。


「私はアリエル。アストファル王国の女王です」


 アストファル王国。

 聞いたことのない名だが、彼女の声には誇りがあった。

彼女が名前を聞いて来たので、俺は咄嗟に

「レオ」

俺の名前はレオ・アカツキ


 名乗りながら、気づく。

 彼女のドレスは古く、馬車は壊れ、護衛は最小限。


 ――この国は、貧しい。


 だが。


 目の前の女王は、決して弱くない。


「よろしければ……王都までご同行願えませんか?」


 不安と期待が混じった瞳で、彼女は俺を見た。


 その瞬間、胸の奥が静かに熱くなった。


「分かった」


 俺は頷く。


 この出会いが、

 俺の運命を――そして、この国の未来を変えると、まだ知らずに。

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