2.瀧上高校大量殺害予告事件
2-1.
――六月三日、午後四時ごろ、東京都
武蔵野警察署の署長、
「何だ? これは……」
悪戯かもしれない。悪戯だとしても、性質の悪い冗談だ。だがしかし、悪戯ではなかったとしたら……。様々な考えが彼の頭を過り、念には念をと考えた彼は、生活安全課課長の
「悪戯、でしょうか……?」
「しかし、万が一というのもありますし……。もし本当なら、千人近くの犠牲者が出ることになります。本当にそれだけの殺人が起これば、歴史に残る大事件になりますよ……!」
事情を聞いた二人も判断しかねるといった様子で、三人で画面を睨みつけていると、新たな通知が届いた。新着メールの通知だった。メールの差出人は先ほどと同じ。その恐るべき内容に、三人が三人、目を見張った。
『さっきのメールは悪戯ではない。君たち警察に本気で挑んでもらうために、一つ、余興を見せよう。場所は東京都武蔵野市
宮波はすぐに、近辺を警ら中のパトカーに急行するよう無線を飛ばす。桶田も爆弾処理班の手配を試みるが、間に合いそうにないと見るや、近隣住民の電話番号を片っ端から調べ上げ、避難を促す電話掛けをするよう部下に指示を出した。あと五分で爆破されるという切迫した事態に、もはや形振り構ってはいられない。署長の岩田はメールの送信元に、要求は何だ、待ってはもらえないかと交渉を試みるも、返事が返ってくる様子はない。
そして、予告の五分が過ぎた。と、警ら中のパトカーから連絡が入る。予告通り、当該場所にて爆発音とともにビルが崩落したとのこと。幸い、近隣住民には被害はなく、爆発というよりはビルの崩落に留まったようだ。しかし、肝心の中に拘束されているという男子高校生はどうなっただろう。もし本当にいるとすれば、存命は難しいように感じられた。程なくして到着した消防隊員、救急隊員により、中から三人の男子高校生が発見されたが、いずれも瓦礫の下敷きになり、身元の確認も難しい状況で、即死で間違いないという。
「くそっ! 何だってこんなことに……っ!」
苛立ちを隠せない岩田の元へ、再度、新着メールが届く。
『これでわかってもらえただろう。警察の威信にかけて、本気でかかってきたまえ。追伸。三人の高校生を救えなかった情けない警察諸君への慰みとして、彼ら三人の身元を紹介しよう』
そのメールに添付された三枚の画像は、それぞれ死亡したとみられる男子生徒の学生証だった。後の司法解剖の結果、死亡した三人は添付された学生証の生徒と合致することが判明した。
「……もはや我々だけで対処できる問題ではない。SIRへ捜査協力の依頼を、本庁に要請しよう」
* * * *
予告状
愚かなる警察諸君へ
君たちを私のゲームへと招待しよう。
来る七月二十五日、東京都武蔵野市にある、東京都立北上高等学校の全校生徒を一人残らず殺害する。君たちが阻止できなければ、全校生徒八七三人の命はない。もし阻止できれば、私は武蔵野警察署へ出頭すると約束しよう。期日までに私の正体を突き止め、確保した場合も、君たちの勝ちだ。
ただし、休校措置や短縮授業などの措置で、生徒が通常の学校生活を送れなくなった場合には、先に述べた期日に関係なく生徒一人ひとりを殺害し、合計八七三人の生徒を殺害する方針へと変更させてもらう。
この予告状について、私からマスメディアへの公表はしない。公表するかどうかは、君たち警察が選ぶといい。
では、互いの健闘を祈る。
* * * *
――六月六日、午後二時頃、警察庁。
「本日、東京都知事、警視庁刑事部長、警察庁刑事局長、都立北上高校学校長との間で会合が行われた。そこで決定した事項だが、まず、この予告状のことは公表しないことになった。もちろん、北上高校の生徒、保護者たちにも、だ。その上で、極秘に捜査、警備を行うことになった。東瀧上市の警備体制を強化するとともに、北上高校に常時警備員を配置。そして、事務員として警視庁捜査一課の刑事が潜入捜査に当たる。我々SIRからは、
武蔵野署に届いた大量殺人予告は、当然のようにSIRにも捜査協力の要請が回ってきた。しかし、事態の重要性を鑑みて、彼らの直属の上司である警察庁刑事局長、
「えっ、わたし、学校行っていいの?」
「ああ。犯人が外部とも限らない以上、生徒との接触は必須だ。年齢的にお前が適任だと判断された。もちろん、別で護衛をつけることにはなったが」
“スクール”の研究施設で生み出され、十六年間、施設の中に閉じ込められて育ってきた彼女には、叶わないとわかっていても抱かずにはいられない願望があった。その一つが、学校へ通うことだった。同じ年頃の者たちに上手く混ざることなどできないことはわかっている。それでも、同じ年頃の子供たちが当たり前のように過ごす生活を、自分も体験してみたかったのだ。期せずして、今回それが叶ったことは、科乃にとってこれ以上ないくらい嬉しい報せだった。
そんな彼女の心中を痛いほど察せてしまうから、
「わかってると思うが、仕事だからな? 自由が与えられたわけじゃない。それは肝に銘じておけよ?」
「もちろん、わかってるよ。それで、わたしはどんな生徒でいればいい?」
彼女は遺伝子レベルで造られた“天才”。当然、普通の子供たちとは比べ物にならない頭脳の持ち主で、素のままではあまりにも目立ち過ぎてしまう。今回のような潜入捜査では特に、あえてレベルを落として周囲に上手く紛れる必要がある。
「既に北上高校の校長とは話をつけてある。平均より少し上くらいの生徒を演じてくれ。テストの点数で言うと、平均点より十数点高いくらいの学力の生徒と考えて良さそうだ。資料として、これまでの定期考査の問題と解答をもらってきたから、後で目を通しておいてくれ」
他にも、学校で使う教科書やノート、筆記具などの必要品を受け取り、彼女は興味津々といった様子で早速 物色し始めた。
「いいなぁ、しなのん。学校ってことは制服でしょ? いいなぁ。あ、でも、アタシはもうさすがにキツイか……」
「いやいや、レオだってまだまだいけるでしょー?」
すると、
「制服は私が採寸して発注しておきました。合わなければ直しますので、言ってください」
箱の中身は学校の制服で、灰色と青のチェック柄のスカートと、濃い紺色のブレザー、鈍い水色に明るい青のラインが入ったネクタイと、黒い靴下、白いブラウスだった。
「え、ちょっと待って。ハッチーが採寸したって、わたしの制服を? どうやって?」
司の言っている意味がわからないというように聞き返す科乃に、司はさも当たり前のように返す。
「しぃちゃんは普段から薄着ですから、目測で大体わかりますよ。身長、体重、肩幅から腕周り、股下、スリーサイズまで」
「えぇ……怖っ」
恥ずかしいとは思わないが、プライベートな情報を盗み見ているような彼の行いに、科乃は少々蔑みの眼差しを送らずにはいられなかった。
「科乃、明日から早速任務に当たってもらう。いいな? くれぐれも……」
「わかってるって。自分の役割は忘れてないよ」
そうウインクすると、科乃は軽やかな足取りで居住区の自室へと戻っていった。
「だといいんだが……」
「大丈夫だって、しなのんなら」
「そうですよ、硝ちゃん。私達も、万全の支援をしましょう」
「……そうだな」
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