3話「歩む先は、酒の匂い」

襲撃があった翌日。

木漏れ日が顔に差し込み、思わず眉をひそめる。


「そういえば、森を出た後はどこに行く予定なんですか?」


日丸が歩きながら問いかけてくる。


「あー、元々ひとり旅だったからな。日丸にゃ合わねぇかも」

「できれば教えてくれた方が、対策できるんですけどねぇ」

「いやいや。対策しねぇ方が楽しいこともあるのさ」

「私は万全の方が好きなんですけど……」


呑気な会話を交わしながら進めているのは、完全に日丸のおかげだ。

地形の把握も、魔物の気配の回避も完璧。

……不謹慎だが、襲撃があったから一緒に行動することになったんだよな、と思ってしまう。


日「さぁ、ここを抜ければジャンヌトコ平原ですよ!」

墨「あいあい」


生返事をしつつ、左腕を服で覆う。

見せているだけで、面倒事の火種になるからな。


森を抜けると、一気に視界が開けた。

風に揺れる草原が、地平線まで続いている。


墨「おー!これがヘンナトコ平原か!」

日「ジャンヌトコ平原です!!!」


やかましい子だこと。


「墨確か……あっちの方面だったはず……」

日「あちらは――あっ!」


日丸が声を張り上げる。


日「酒飲みの聖地、シャブルイじゃないですか!

 絶対行かせませんからね!お金がなくなっちゃうでしょ!」

墨「ざーんねーん。方角、もう覚えちゃったもんねー!」

日「あー!置いていかないでくださいよ〜!」


 


割と近かったみてぇだ。

日没前に到着できたのは万々歳。


日「ま、待って……」


弱々しく嘆く日丸を背負って、宿に放り込む。


日「いいですか!絶対にお酒は飲まないでください!

 一緒に旅する上で金銭管理はとても――」

墨「へいへい、わかったわかった。それじゃな〜」


叫ぶ日丸をベッドに置き去りにして、

俺は堂々と“ソロ名酒ツアー”に出発した。


 


墨「……えぇー!?酒、ないの!?」


村「誠に申し訳ない、旅の人よ。

 だが今ここシャブルイでは、酒が不足しておるのじゃ」


墨「聖地だってのに、なんでまた?」

村「この谷を流れる水を加工して酒を作っておるのだがな……

 最近、上流に魔物が住み着いてしまってのう」


村長らしき老人が、深くため息をつく。


村「我ら酒豪派としては、看過できん事態じゃ。

 じゃから旅の人、突然で申し訳ないが……魔物を退治してくれんか」


墨「いや〜、酒は飲みてぇが、そこまで体張らんでも――」


村「……6割」


墨「んぁ?」

村「解決してくださったなら!

 この村のすべてのサービスを、永久に6割引にしよう!」


俺は老人を見つめ、ゆっくり笑った。


墨「……おいおい、爺さん」


左腕の感触を確かめながら、一歩前に出る。


墨「俺がその邪智暴虐な怪物、退治してしんぜよう」

村「おぉ〜!では任せたぞ、旅の人!」


――こうして俺は、

酒のために命を張ることになった。

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