008 世界で一人、二人きり ②

白い光が収まると、そこは“何もない”空間だった。


上下も奥行きも曖昧な、ただ広がる虚無。


そして、その正面に──巨躯のシルエット。


輪郭こそぼやけているのに、存在だけは圧倒的だった。


次の瞬間、その化け物じみた影が喋り出す。



『おまえには一つ、異能力を与えてやる。異能力はお前しか持っとらん。どのようなものかは──授かれば分かる。じゃあな』



一方的に話を切り上げられそうになり、思わず声が出た。


「ちょっと待て!」


立ち去ろうとしていたソイツが、露骨に面倒くさそうに振り向く。


『……なんだ。文句でもあんのか?』


あるに決まってる。

だが、ここでキレたら絶対に損をする──直感でそう理解した。

一度息を整え、できる限り冷静に言葉を選ぶ。


「質問がある。」

『ふん……一つだけなら聞いてやってもいいぞ?』


意外にも話は通じたらしい。

いちいち偉そうなのが癪だが、ここは我慢だ。


「どうして俺だけに能力をくれるんだ? 俺じゃなくてもいいだろ。」


影は一瞬だけ考え込み、それから低く笑ったような気配を漂わせた。


『どうして……か。強いて言うなら──一番“面白そう”だからだ』

「っ……!」


その続きは、さらに冷たかった。


『せいぜい面白くして見せろ。この世界を。できなかったら……まあ、この世界が滅ぶとでも思っていればいい』


次の瞬間、影は本当に消え去った。

すると空間全体がひび割れ、粉々に砕けるように消失していく。


______________________________________


目が覚めた。


大量の汗。


息は荒く、心臓は脈打ち、全身が“危険”を思い出している。


あれは……夢だったのか?


いや、夢にしては鮮明すぎる。


早く目が覚めすぎたせいか、頭はぼんやりしていた。


ひとまず汗を流そうと、ふらふらとシャワーへ向かう。


気づくと──

俺は風呂場から出て、無意識のままトーストを焼いていた。


(……異変じゃない。ただ緊張しすぎただけだ。うん、多分)


慌てて焦げる前に食パンを取り出し、皿に乗せてかじる。

だが、パンは妙に味が薄く、喉を通りづらかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る