006 終わりの始まりの、始まり ④
星野が来てから、二時間が過ぎようとしていた。
起きたことといえば──
黒川の突然の叫び声に星野がビクッと肩を跳ねさせるか、
何かがうまくいったらしい星野のガッツポーズと、その拍子に彼のモニターが視界の端に入り込むか。
だいたいその二択だ。
とはいえ今日は、陽介自身もプログラミングを使って取り組んでいる作業があるので、時間は意外なほど早く感じた。
何をしているのかといえば──簡単なゲーム作成だ。
コンピュータ部では毎年、学園祭までに全員で一つの作品を仕上げるのが恒例。今年のお題は「操作性があり、ある程度のプログラミング技術が必要なゲームの作成」。
役割分担も決まり、陽介はメインロジックとUIを任されている。
プログラミングはできても、ゲーム制作となると話は別だ。だからこそ、今のうちに少しでも経験しておこう──そんな気持ちでキーボードを叩き続けていた。
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部室に静かなタイピング音だけが続いていたところで──。
キーンコーンカーンコーン。
放課後の終わりを告げるチャイムが鳴り、三人とも同時に手を止めた。
星野が背伸びをしながら、明るい声をあげる。
「わっ、もうこんな時間なんですね! 今日めっちゃ早かった気がします!」
黒川と言えば、鼻を鳴らしながらコード画面を保存している。
「……区切りいいし、続きは明日でいいだろ」
陽介もファイルを閉じ、無言で席を立った。椅子が三つ、同じタイミングで軽く音を立てる。
片付けを終えて部室を出ると、部員のざわめきや廊下の靴音が遠くへと消えていく。
校舎を抜け、三人で並んで自転車置き場へ向かった。
夕焼けが色づく空の下、黒川がいつものぼさぼさ頭をかきながら言った。
「じゃ、俺帰るわ。バグの対処法は家で調べとく」
「あぁ、よろしくー」
「僕も帰ります! 影浦先輩、黒川先輩、また明日!」
星野は元気よく手を振り、自転車を引いていく。
黒川も片手を軽く上げて歩き出した。
二人の背中を見送り、陽介は自分の自転車を押しながら静かに息をつく。
ペダルを踏み込むと、タイヤが柔らかく地面を掴んだ。
校門を抜け、涼しい風が頬をかすめる。
夕暮れの街を、陽介はひとり、ゆっくりと家へと走り出した。
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