第四章:ブックカフェの距離感
19時、翔平と待ち合わせたブックカフェは、落ち着いたインテリアが特徴的だった。
「ミクさん、こっちです!」
「翔平くん、おまたせしたかしら」
21歳の翔平は文学部の大学生。
前回会ったとき、ミクがふと「最近面白い本ないかな」と呟いたのを覚えていて、この店を教えてくれたのだ。
「ここ、蔵書がすごくて…ミクさんが好きそうな海外文学もたくさんあるんですよ」
「まあ、よく覚えててくれたわね。嬉しいわ」
席に着き、それぞれコーヒーを注文する。ミクはわざとメニューを選ぶのに少し時間をかけ、困ったような表情を一瞬見せた。
「どれにしようかしら…翔平くん、おすすめある?」
「えっと、僕はいつもブラジルかコロンビアを…」
「じゃあ、それにしようかな。翔平くんと同じので」
ほんの少しの依存。
さりげない「教えて」のサイン。
年下の男子は、こうした「頼られる」瞬間に弱いことを、ミクは知っている。
会話は本の話から、大学の授業、将来の夢へと広がる。
ミクは聞き手に回り、時折深くうなずき、感心した表情を見せる。
相手の話を引き出し、褒め、認める――これもまた、男受けする振る舞いの一つだ。
「ミクさん、すごく話しやすいです。同年代の女の子って、なんかこっちが話す前に決めつけてきたりするけど…」
「ふふ、それは翔平くんがいい話し手だからよ」
ミクは微笑みながら、そっとコーヒーカップを手に取った。
カップを持つ指を、わざと少し優雅に曲げる。小さな仕草の積み重ねが、全体の印象を形作る。
2時間後、店を出るとき翔平が言った。
「また、来週も会えますか? 今度は別の面白い店、見つけておきます!」
「ええ、楽しみにしているわ」
振り返らずに去る翔平の背中を見送りながら、ミクはほんの少し笑みを浮かべた。
距離感とタイミング――今日もまた、うまくいったようだ。
(続く)
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