第56話 望まない共闘

無い野の足元で、蒼黒が爆ぜた。


 狂気と理性が、無理やり溶かされたような――

 歪んだ終点。


「……来るか」


 蒼気が低く呟く。


 無い野は、胸の前で両手を組み、

 自らの身体に叩き込むように蒼黒を流し込んだ。


「――MODE終点」


 次の瞬間。


 無い野の身体が、砕けるように再構築される。


 骨格が軋み、

 筋肉が不自然な動きで隆起し、

 皮膚の下を蒼黒が這い回る。


 顔が歪み、

 笑っているのか、苦しんでいるのか分からない表情になる。


 ――マヂキチ野。


 翔馬の喉が、音を立ててゴクリと鳴った。


(……あれは……MODE終点……!)


「ここからは……」


 マヂキチ野が、首を傾ける。


「本気で行かせて貰う。」


 一歩、踏み出す。


 地面が、踏んだ場所から消える。


「良いだろう……無い野!」


 ――消失。


 次の瞬間、蒼気の眼前。


 反応する暇すら与えない速度。


 蒼気は蒼の気を全開で放出し、

 衝突に備える。


「――来い!」


 拳と拳が、激突。


 ドォォォン!!!


 衝撃波が、空を引き裂き、

 雲が円状に吹き飛ぶ。


 蒼気の足が、空中で数メートル押し戻される。


「……っ!」


 蒼気の表情が歪んだ。


 マヂキチ野は止まらない。


 殴る、蹴る、叩き潰す。


 動きは滅茶苦茶――

 だが全てが最適解。


 理性を捨てた分、

 身体が“最短距離”しか選ばない。


「着いてこれないか!?」


 マヂキチ野の拳が、蒼気の防御を貫く。


 蒼気の拳が砕け、

 即座に蒼の気で修復されるが――


 修復が、追いつかない。


(……終点で出力を上げ続けている……)


 蒼気は距離を取り、

 蒼の気を一点に圧縮する。


「――蒼式・界壊そうしき・かいかい。」


 蒼の光が、線ではなく面となり、

 空間ごと押し潰しにかかる。


 マヂキチ野は、正面から受けた。


「――ッッ……!」


 身体が、一度バラける。


 蒼黒が散り、

 肉体の輪郭が崩壊しかける。


 だが――


「この程度で……!俺は死なん!」


 蒼黒が、強引に再接続される。


 終点の力が、

 壊れた分だけ強度を上げて再生する。


 蒼気の目が、僅かに見開かれた。


「……!キリがない……!」


「持久戦だ……蒼気。」


 マヂキチ野が、両腕を天に掲げた。


 蒼黒が、空を覆い始める。


「これは……!?」


「収束。」


 無数の人格の“断末魔”が、

 一点に圧縮されていく。


 蒼気も、構えた。


「……なら、こちらも」


 蒼の気が、神の領域に踏み込む。


 空間が、完全に静止する。


「――蒼式・天断そうしき・てんだん」


 両者の大技が、同時に放たれた。


 蒼と蒼黒が、正面衝突。


 ――世界が、白に染まる。


 音が消え、

 光が遅れて爆発する。


 衝撃波が、遥か彼方まで届き、

 廃墟となった町の残骸すら粉塵に変える。


数秒後。


 光が晴れる。


 そこに立っていたのは――


 膝をついた蒼気だった。


(馬鹿な……一時的とはいえ押し負けている……)


 息が、乱れている。


 蒼の気が、明らかに不安定だ。


 一方。


 マヂキチ野は、立っている。


 身体はボロボロ。

 蒼黒が漏れ、

 再生も限界に近い。


 それでも――前に出る。


「ほら……どうした……蒼気……」


 笑う顔は、完全に狂っている。


「さっきまでの余裕は……?」


 蒼気は、ゆっくりと顔を上げる。


「……なるほど」


 口元に、薄く笑み。


「才能の怪物……か。」


 だが。


 その眼は、まだ折れていない。


「……だがもう遅い、野神様に目をつけられた時点で貴様らは詰みだ。」


 蒼気の蒼が、さらに深い層へ沈む。


 マヂキチ野は、嗤った。


「馬鹿かお前は……」


 一歩、踏み出す。


「その野神様を殺すんだろうが!!」


「お前には殺せん!!絶対に!!」


 ――戦況は、

 確実に蒼気を追い詰めている。


 だが同時に、

 無い野自身も、限界の淵に立っていた。


蒼気の蒼が、質を変えた。


 量でも、圧でもない。

 空間そのものが、彼の呼吸に合わせて軋み始める。


「100%だ!!塵となれ無い野!」


 低く呟いた瞬間、

 蒼気の背後に幾重もの蒼の輪が浮かび上がった。


 マヂキチ野が舌打ちする。


 次の瞬間。


 蒼気が消えた。


 ――否、空間が折れた。


 視界が歪み、

 マヂキチ野の腹部に、既に蒼気の膝が叩き込まれている。


「――がっ!」


 空気が肺から叩き出され、

 マヂキチ野の身体が地上へ叩き落とされる。


 だが、落ちきる前に――


「舐めるな!!」


 蒼黒が爆発。

 無理やり姿勢を立て直し、

 蒼気へ拳を叩きつける。


 ドォン!!


 互いの一撃が直撃。


 蒼気は空中で踏みとどまり、

 マヂキチ野は数十メートル吹き飛ばされる。


 立ち上がるマヂキチ野。


 だが――足が、僅かに震えている。


(……終点の再生が……遅れている……!タイムリミットが近いか……)


 蒼気はそれを、見逃さない。


 蒼気が腕を振る。


 蒼の刃が、無数に生成され、

 四方八方からマヂキチ野を切り刻む。


「――ぐっ……!」


 防ぎきれない。

 蒼黒が削れ、

 人格の悲鳴が、頭の奥で響く。


 一歩、また一歩。

 確実に――押されていく。


 蒼気は距離を詰め、

 止めの構えに入る。


「……死して野神様に詫びろ。」

 その瞬間。


「――まだだッ!!」


 蒼気の背後で、

 光り輝く蒼が炸裂した。


「!?」


 横殴りの衝撃。


 蒼気の身体が、初めて大きく弾かれる。


 空中で体勢を立て直した蒼気が、

 信じられないものを見る。


「……翔馬……?」


 そこに立っていたのは、

 蒼の気を全身に纏った翔馬。


 MODE何転 何も野。


 息は荒い。

 蒼の気は万全ではない。


 だが――立っている。


「2人でやれば勝てる……!無い野!今だけでいい!協力してくれ!」


 翔馬は、無い野の隣に立つ。


 マヂキチ野が、歪んだ笑みを浮かべる。


「……チッ、誰が俺の劣化版と……と言いたい所だが……この状況……どうやらそれが一番の得策のようだな。」


「行くぞ……無い野!」


 二人の蒼が、重なる。


「足を引っ張るなよコピー。」


「分かってる!」


 蒼気が、目を細めた。


「まだ分からんようだな……雑魚共が……」


 静かに、だが確かに――警戒の色。


「くどいようだが……俺には勝てんぞ!!」


 次の瞬間。


 二人が同時に踏み込んだ。

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