第5話 ウルフと、エタルナの異変

「さて、今日は出るかな…レッドゴブリン。」


昨日は夕方までダンジョン1階層を歩き回ったけど、結局、目当てのレッドゴブリンは出現しなかった。


「グリーンゴブリンばかりで飽きるわぁ。」


ユミエル…飽きるほど倒していないと思うけど。

放つ魔法は強烈だけど、どうにも的を外す。


「やっぱり…今日も入らなくちゃダメかな?…ダンジョン。」


ガタガタと震えながら言うエタルナ。

相変わらず…盾役なのに背後から応援の声を送るだけの係りだった。


「報酬よ!ギルドマスターからの報酬の為に頑張るのよ!」


だから…実際にゴブリンを倒しているのは、ほぼ私なんだから。

ユミエルが言うのは、やっぱりおかしいと思う。


とはいえ…倒せているのは、肩に乗るこの光る球体が、私の身体能力を上げてくれているおかげ。


…多分、だけど。


「とにかく行きましょ。レッドゴブリンは1階層でなかなか出ないって話だから。」


「そうね早く報酬が欲しいわ。」


ユミエルは、あっさりと言ってくれちゃってるけど、レッドゴブリンってば、グリーンより強いわよねぇ。


階層の下に行けば行くほど出現するモンスターは強くなるっていう話だし。


そして何よりも…

光る球体…今日もちゃんと、応えてくれる?


「うぅ…今日も1階層だけにしとこうな。」

願いを込めたエタルナの声が背後から聞こえた。


でも…お昼までにレッドが出なかったら。


私は振り返るとニコリとエタルナに笑顔を向け、返事はせずに歩き出した。


昨日、ダンジョン1階層を経験したおかげか、随分と気持ちは楽だ。

グリーンゴブリンなら、球体の助力で倒せる事が分かっているのも大きい。


それだけで心の余裕が違う。


「ふっ、ゴブリン達、どうやらウチら"ラビットイヤー"に恐れを抱いたみたいね。」


今日は、なかなか出現しないゴブリン達。


腰に手を置きながら言うユミエル。

随分と大きく出たわね。


ちなみに"ラビットイヤー"っていうのは私達のパーティー名。

可愛すぎるから嫌だって私は言ったんだけど、他に案が無かったから、結局そのままになった。


「昨日で全部、倒しちゃったのかなぁ?」


確かに、他のパーティーは素通りする中、私達は1日中ずっと1階層で戦っていた。

もしかしたら居なくなるまで倒しちゃったのかも。


「エタルナ…2階層に行こうか。」


お昼までは1階層でと思っていたけど、何も出ないんじゃ仕方ないわ。


「うーん…アンジュ、頑張ってね。」


「エ、エタルナも…頑張ろうね。」


2階層への階段は昨日のうちに見つけておいた。


ギルドマスターから地図を貰っていたので、初めからだいたいの位置は分かっていたんだけどね。


降りるつもりなんてなかったから、確認していなかっただけ。


「にしても分かりやすい階段ね…」


壁には、矢印と共に2階層という文字が思いっきり書いてある。

この文字を見ると緊張感が薄れ、何となく安心出来る。


「他のトレジャーハンターにとっては1階層、2階層辺りは散歩コースぐらいのイメージなのかも。」


ユミエルの言う通りかもしれない。

このダンジョンも最近、発見された割に、既に15階層まで踏破されているとの事。


「アンジュちゃん、早速来た!」


階段から降りてすぐにユミエルが叫ぶ。


あれは…バーニングウルフ!


1匹だけならともかく…後ろからさらに2匹!


狼型のモンスターが3匹…

群れで行動するタイプね。


「えっと…そのウルフは、火魔法が効かないから!」

「ユミエル、水魔法ね!」


「ウォーターキャノン!」


おぉぉ水魔法!

あってる!ユミエルの魔法が、ちゃんとあってる!


「ウォーターキャノン!ウォーターキャノン!ウォーターキャノン!」


魔法の連撃!

凄いじゃないの!見直したわ!


でも…当たらないわね…


えっと…エタルナは?

相手は3匹、こちらも3人で戦わないと!


「エタルナ、槍!槍を構えて!」


槍を前に構えたけど、ダメだわ…足が震えちゃってて動けないわね。


光る球体…

お願い、私に力を貸して!


『感覚アップ2倍…筋力アップ2倍。』


身体が軽くなる。

世界の輪郭が、くっきるとする。


「アンジュ、行きますっ!」


一匹ずつ…確実に…


まずは、この左側のバーニングウルフを倒す!

さっきまでは素早く見えたウルフの動きが、強化のおかげで遅く見える。


相手が突進して来たところを…ここ!!


ザンッ


「ギャンッ!」


剣が胸に突き刺さる感覚。

骨の抵抗と熱を感じ、わずかに手が震えた。


倒せた!


次は…あっち!


視界に捉えた2匹目のウルフに向け、走り寄る。

大きくジャンプするのを…


かわして…


「えいっ!」


よし、一撃!

残るは…あと、1匹!


「キャッ!」


え??


叫び声を上げたのはユミエル。


バーニングウルフの攻撃を受けた様子で左腕から出血している。


「ユミエル!大丈夫!?今、助ける!」


「ガルルルル…」


唸り声か…


って、この声…ウルフからじゃない!?


…背後から聞こえる。


エタルナ!?


ダンッ!


大きく床を蹴り出し、ウルフに向けて突進!

え?こんな動き…本当にエタルナ?


槍も盾も…投げ捨てた。


「エタルナ!」

「エタルナちゃん!」


まるでスローモーションのように映る光景。


「え?素手!?」


思わず声が出る。


エタルナはバーニングウルフの体を素手で殴りつけた。


その顔は、私の知っているエタルナのものじゃなかった。

ヨダレを垂らして…まるで獣のような目。


「ギャンッ…」


拳によって、バーニングウルフは後方へと大きく吹き飛ぶ。


倒した…


エタルナがモンスターを素手で殴り倒した。

背筋が凍る。

喜ぶべる筈が無い。


仲間が…獣のようになっている。


「おかしい…」


私の方にエタルナは向き直した。


「ちょっ…エタルナ。」


突進。


ドンッ


うっ、重い…攻撃。

左腕に装備した円形の小型盾で、どうにか防いだ。


こんなの球体による強化が無かったら受けられなかった。


左、右、左、右!


エタルナの拳から繰り出される攻撃を防ぐ。


「エタルナ!私よ、アンジュ!」


あきらかに正気を失っている。


牙のような歯。

血走った目。


『感覚アップ3倍…筋力アップ3倍。』


頭の中に声が響く。


「3倍…来た!!」


「落ち着けって言うのーーーー!」


あまりの激しい攻撃に耐えきれず、突き上げた。

顔面直撃。

エタルナは吹き飛び、床に倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


息が…呼吸を整えないと。


「アンジュちゃん、大丈夫!?」


負傷した腕を押さえながら、ユミエルが駆け寄って来た。


「何とか…ユミエルは?」


「うん、ちょっとカスッただけ。それよりも…エタルナちゃん、どうしちゃったの?」


「分からない…けど、尋常な様子じゃなかった。まるで狼…狂った狼のようだった。」


「そんな…エタルナちゃん、元に戻る?」


「そう願いたいわね…とりあえず、少し距離を置いて休みましょ。」


ユミエルと二人、近くにあった岩場に座り…

倒れたままのエタルナをじっと見つめる。


光る球体を見ると、ただ宙に浮かんでいるだけ。


「…今回は、違う。」

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