第4話 ギルドからの依頼と、アンジュの剣
「どうすんのよ、アンジュちゃん…ダンジョンの入り口まで来ちゃったじゃないの!」
「ユミエルがノリノリで報酬額の上乗せ交渉したからでしよ!」
まったく…
ギルドマスターから提示された報酬額。
それに、上乗せ交渉したのはユミエル。
なのに、どうして今回のダンジョン行きが私のせいになるのよ。
まさか…
「やっぱり行きません」
なんて言える空気じゃなかったわよ。
「行きたくない…行きたくない…行きたくない。」
エタルナが呪文のように同じ言葉を繰り返している。
「あのぉ〜、レッドゴブリンって、1階層にいますか?」
ダンジョンの前に居た別のパーティーに声をかける。
「あー、たまに出るくらいかな…3階層だったら確実に出るよ。」
ギルドマスターのドワルクから提示された依頼は、レッドゴブリンの討伐。
ぶっちゃけ、サービス依頼なのは分かってる…
…3階層か。
ダンジョンなんかに入った事が無い私達にとって夢…まさに悪夢よ。
「聞いた?1階層でもたまに出るって!」
「私、運が良い方だからさー、きっと出くわすに違いないわ!」
ユミエルの自信がどこから来るのか謎。
「あたしは…運が悪い方だから…プラマイゼロとなる。」
エタルナは逆に自信が無さすぎね…
「とりあえずさー、1階層をちょっと覗いてみようよ。」
「ユミエル、凄い自信だな…あたしは後ろを歩くよ。」
エタルナってば、ユミエルの後に隠れようしても無理よ…
どう考えてもエタルナの方が大きいわ。
「そうね…ちょっと覗くだけなら…」
私は手に持つ剣をギュッと握りしめた。
「じゃぁ、行こう…ユミエル。」
「うん、1階層なら…太陽も近いから何とかなる筈。」
「ん?太陽?何の話?」
「え?あ、こっちの話だから気にしないで。」
…今、何か変な言い回しじゃなかった?
「エタルナも…大丈夫?行くわよ。」
「2人が行くって言うのなら…仕方ない。」
仕方ない、って言葉が重い。
「よし、決まりね。」
ダンジョンの内部は思ったよりは真っ暗じゃなかった。
壁の所々にはランプが吊るされ、最低限の明るさが保たれている。
とはいえ、勿論…暗いのは暗い。
「…なんかジメジメしてるわね。」
ユミエルが、私のすぐ後ろで呟く。
滑らないように足元…注意しないとね。
「…なんか変な音が聞こえるよ。」
え?
変な音?
そんなの聞こえないけど…
エタルナってば、幻聴?
怖さのあまり聞こえない音まで聞こえるようになった?
だけど…
何故か…胸の奥がざわついた。
「ちょっと、歩きにくい…2人共、近すぎっ!」
気が付けば、完全に私が先頭。
「仕方ないじゃないの!初ダンジョンなのよ!」
ユミエルは、しっかりしてそうな感じだけど、実際に戦闘になるとトンチンカンな事をしまくる。
「だって…暗いんだよ…狭いんだよ…」
一番年上はエタルナだけど…体の大きさの割に気弱でとても頼りになるお姉さん的な雰囲気じゃない。
…消去法で、私がリーダーか。
「モンスター…来ないね。」
エタルナが言う通り、けっこう歩いた気がするけど静かすぎる。
静かすぎて、逆に怖い。
何でもない通路が不安に思えてしまう。
「さっき入って行ったパーティーが1階層のモンスターを全部、倒しちゃっているのかも。」
ユミエルとエタルナを落ち着かせる為、そう言ってみたけど…頭の中に声が響いた。
『右から…来る』
え?右?
この声、知っている。
…私の右肩に浮かんでいる光る球体だ。
「ストップ!何か来る!気をつけて。」
…壁にかかるランプの炎が揺れた…
「来た!」
「ファイアアロー!!!」
「ちょっ!」
ユミエルってば、何をいきなり魔法をぶっ放しちゃっているのよ!
同じトレジャーハンターだったら、どうすんのよ!
背中に、ぶはっと熱い息。
エタルナ、私の後に隠れるのはヤメて…普通、前に出るのは盾役だから!
「プギャッ!」
炎に包まれたのは…モンスター。
良かった…人じゃなくって…
って、安心している場合じゃないわ。
モンスターよ、ダンジョンで初モンスターに出くわしたわよ!
「凄い!ユミエルの魔法でモンスターを倒した!」
目の前に倒れたモンスター。
が…ゆっくりと立ち上がる。
「ウチの火魔法を受けて立ち上がるとは…やるわね。」
「よしっ!次はアンジュちゃんの番よ!よろしく!」
えー、私?
「いやいや、ユミエルに任せるわ!」
「魔力が無限にある訳じゃないのよ!次はアンジュちゃんかエタルナちゃんの番よ!」
そう言われると…断れないわね。
『感覚アップ…筋力アップ…』
え?何?
頭の中に響く声…アップってば、何??
「あぎゃーーー!」
近くに来て分かった…モンスターはゴブリン!
手に持つ棍棒を振り上げる。
ダメ…ヤラれる!
身体が…自然と動いた。
右足を大きく前へと踏み出し体制を低く…剣を振る!!
ザンッ!!
剣が軽いんじゃない。
私の身体が、剣についてきてる。
「凄い!」
「凄い凄い!」
ユミエルとエタルナが歓喜に沸いている。
目の前に居たモンスター…ゴブリンの体は真っ二つに分かれ、完全に動かない。
「…わぉ。」
声が漏れた。
「アンジュの剣、見えないくらいに速かった…いつの間にそんなに強くなった?」
エタルナの言葉に先程の"声"を思い返した。
分からない。
でも、あの声が…私の”できる範囲”を、少しだけ広げた。
「このモンスター…もしかして討伐対象のレッドゴブリン?」
「ゴブリンだけど、レッドゴブリンじゃないわ。グリーンゴブリンよ。」
エタルナの質問に返した。
「アンジュちゃん、詳しいわね。」
「昔、お父さんに色々と教わったから…」
モンスターも絵に書いて教えてくれたの。
「英才教育ってヤツ?」
「単なる遊びの延長だったわ。」
ユミエルは英才教育だなんて大袈裟な事を言った。
けど…違うと思う。
お父さんは不器用な人だった…
多分、私と遊ぶ方法にそれを選んだだけ。
豊富にあったモンスターの知識…そこから絵を描いて見せてくれたのだろう。
私が喜んだのは…お父さんの絵が、なんか面白かったから。
「で、このゴブリンは売れるのか?」
「ゴブリンは…あまり素材価値が無いらしいわ。」
エタルナの質問にユミエルが答えた。
ユミエルは売買面に関して詳しい。
価格交渉も…頼りになる部分。
調子に乗るから、本人に向かっては口に出して言わないけどね…
そう言えば…
ユミエルってば、どうしてこんなに商売に詳しいのに商売の道を歩まずに魔法使いになっているのかしら?
「せめて…食べられないかな?」
「いや…無理でしょ!」
おもむろにエタルナが口にした言葉に思わず反論する。
怖がりなのに…エタルナも謎すぎ。
私は剣を見下ろす。
…この剣。
そして、右肩の温もり。
ダンジョンの奥は暗闇が続いていた。
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