お祓いクリニックへようこそ

白玉蓮

第1話 眼鏡先生との出会い①

「また落ちた。……これで十連敗」


エレベーターの鏡面に映る自分の顔を見つめて、小さく息を吐いた。

さっきの面接官は「では、一週間以内にご連絡します」とにこやかに言った。

――分かってる。それ、“お祈りスマイル”だ。


嫌で辞めたわけじゃない。むしろ前の会社は好きだった。

なのに、ある朝ふつうに出社したら――会社そのものが消えていた。


看板は外され、デスクも書類も、私のロッカーも跡形もない。

壁の社名プレートまで剥がされていて、そこだけ色が違って見えた。

残っていたのは「経営が傾いていたらしい」という噂だけ。

――つまり、夜逃げ。


笑えない理由で失職して、就活を始めたもののこの体たらく。

一人暮らし。貯金は底。齧れる親のスネなんて、そもそも存在しない。


「はぁ……」


一階。扉が開く。吐いた息だけが先に外へ出ていった気がした。


気分を変えようと、近くのコンビニに寄る。

温かいコーヒーでも飲んで、せめて心だけでも温まりたい。

――そう思った矢先だった。


「わっ!」


勢いよく入ってきた学生の鞄が腕をかすめ、紙コップの中身が跳ねた。

熱い液体が手の甲にかかり、思わず声が漏れる。


「あつっ……!」


次の瞬間、背後から腕をつかまれた。

反射的に身を引こうとして――できなかった。

握られた手が、妙に迷いがなくて。


「火傷ですね。まずは冷やしましょう」


低く落ち着いた声。水の音。

気づけば私は、その人に引かれるままコンビニの洗面台へ連れていかれていた。


鏡に映った彼は、見上げるほど背が高い。

長い黒髪をひとつに束ね、丸眼鏡の奥の瞳は穏やかで――

穏やかなのに、どこか人を射抜くみたいに鋭い。

モデルみたいな体型なのに、纏う空気は医者か研究者のそれだった。


「赤みは引きましたね。まだ痛みますか?」

「え? あ、ちょっと……」

「ふむ」


彼は顎に手を当てて少し考えると、私の腕を軽く取った。

そして当たり前みたいに店を出て、歩き出す。


「えっ、ちょ、ちょっと!?」

「僕の診療所がすぐ近くにあります。念のため、処置しましょう」


“すぐ近く”って何。というか診療所? 今?

そう言いかけるより先に、彼はにっこり笑った。


押しの強さと、不思議な安心感を同時に持つ笑顔。

初対面なのに、有無を言わせない――そんな“圧のある笑顔”。


気がつけば私は、彼に導かれるように、見知らぬ診療所の椅子に座らされていた。


「……え? なにこれ。なんでこうなった?」

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