第14話 説明できないものが、残っていた
現場は、交差点だった。
だが、アシメが知っている“事故現場”とは、
決定的に違っていた。
「……何だ、これは」
瓦礫。
血痕。
歪んだ信号機。
ここまでは、事故だ。
問題は――。
「同じ人が、二箇所に倒れている」
鑑識の声が、震えていた。
制服の女性。
顔も、服も、完全一致。
片方は、即死。
もう片方は、
数メートル離れた場所で、
別の傷。
「複製……?」
「違う」
アシメは、即座に否定する。
「“重なった”んだ」
ORACLEの画面が、
何度もエラーを吐く。
『時間軸、特定不能』
『因果関係、循環検出』
『分析中断』
AIが、
初めて解析を放棄した。
アシメは、しゃがみ込む。
地面に、
靴跡が残っている。
同じ靴。
同じサイズ。
だが――
進行方向が、
三方向。
「……同時に、別の選択をした」
そうとしか、考えられない。
空気が、妙に軽い。
音が、少し遅れて聞こえる。
まるで、
世界が一拍遅れで動いている。
「ここ、何回起きた?」
鑑識が、唾を飲む。
「……五回、目撃証言があります」
全員、
言っていることが違う。
だが、
全員が本当のことを言っている。
アシメの脳裏に、
一人の青年の顔が浮かぶ。
(ユズル……)
だが、
これは彼一人の仕事じゃない。
規模が、違う。
現場の端で、
アシメは気づいた。
ひび割れたガラス片。
そこに、
血で書かれた文字。
『確定』
短い。
だが、
異様に重い。
その瞬間、
頭痛が走る。
映像が、流れ込む。
――同じ交差点。
――何度も跳ねるトラック。
――膝をつく青年。
アシメは、
自分の頭を押さえる。
「……見えてないのに、分かる」
説明できない。
だが、
理解してしまった。
「ここで、誰かが、戻れなくなった」
そう呟く。
現場は、
“選択肢が尽きた場所”。
それが、
この惨状を生んだ。
ORACLEが、
最後に一文だけ表示する。
『仮説』
『時間干渉主体:複数』
それだけ。
アシメは、立ち上がる。
「……ユズル」
彼を、
止める必要がある。
だが同時に――。
「守らないと、もっと壊す」
正義でも、
逮捕でもない。
保護対象として。
遠くで、
サイレンが鳴る。
だが、
この事件は、
誰にも説明できない。
報告書には、
こう書かれるだろう。
『原因不明の大事故』
それだけ。
アシメは、
夜の交差点を見渡す。
「……世界は、もう戻らない」
だからこそ、
人間が、
選ばなきゃいけない。
壊すか。
止めるか。
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