第四話「援軍襲来」

今日は筋肉を休める日だ。屋上のテントの下、カミロは「塩漬け肉と山菜とキノコのごった煮」を大鍋で作り、レオンハルトは手元のメモを片手に、幹部の部屋から押収した地図の解読に没頭していた。

​鎧は下半身のみ、上半身は剥き出しのまま。足元ではブリューとグンが、午後の陽光を浴びて幸せそうに日向ぼっこをしている。

​「閃いたか~?」

​火から鍋を下ろしながらカミロが尋ねると、王子は微動だにせず応えた。

「……いや、まったく閃いてない……」

​地図には占拠した城塞から幾本もの線が伸び、中央王都へと集中している。魔族文字の殴り書きは判読不能だが、これが侵攻の指令書であることは明白だった。印の付いた場所へ行けば何かが掴めるかもしれないが、拠点を離れるわけにはいかず、お手上げの状態だった。

​鍋の完成を察知したグンとブリューが「できた?」と顔を上げる。「お二人ともそう慌てなさんな」カミロは中身をパレットに移し、大きな布をうちわにして扇ぎ始めた。神獣は猫舌だ。人肌まで冷まさないと、彼らは食べられないのである。

「良し!」

合図と共に、育ち盛りの二人が一斉にがっついた。

​だが、いつもなら瞬く間に空になるはずのパレットの前で、突如グンが口を止めた。

​異変を察知したカミロとレオンハルトも、即座に食事を中断する。

グンが屋上の際まで駆け出し、ブリューが続く。空を仰ぎ、風に含まれた異質な臭いを探り当てると、「間違いない!」と短く吠えた。

その瞬間に休息は終わった。レオンハルトとカミロは無言で鎧を装着し、矛を手にそれぞれの背へ跨った。

​「ようやくお出ましか!」

​地平線の彼方から現れたのは、三十頭を超える翼竜――ワイバーンの大群だった。

陣形を保ち、円を描いて加速する。景色が筋となって流れる超高速の世界。三カ月に及ぶ「鳥さんごっこ」で培われた感覚が、最適の踏切ポイントを弾き出す。

​「行けッ!」

ブリューが爆発的な跳躍を見せた。眼前にはワイバーンの紅い瞳。

すれ違いざま、カミロの矛が首を一閃。続いて正面から突っ込んだレオンハルトの突きが、ワイバーンの背に跨っていた獅子仮面の上位魔族を、上半身ごと粉々に吹き飛ばした。

​落下するブリューの頭上を、首を失ったワイバーンの頭部と、バランスを崩した巨躯がスローモーションのように付いてくる。

ブリューは着地の衝撃をバネに変え、前方へ飛躍した。最大加速が可能な「オープン」のコースだ。

後方、グンはあえて進路を右へ逸れた。

「はぐれだ!」

王子の指示。敵が状況を把握する前に、各個撃破で一匹でも多く屠る。時間との勝負だ。

​特別攻撃隊の即席駆逐作戦によって、ワイバーンは次々と地上へ叩きつけられていく。

グンが地上を制圧し、隙を見ては落ちてくる魔族に止めを刺す。その確実なサポートがあるからこそ、ブリューとカミロは空中の標的にのみ集中できた。

​十数頭を失い、ようやく魔族たちは高度を上げた。跳躍の届かぬ場所からの様子見。

「やつらが降下してきたら、十分に引き付けてから二手に別れるぞ」

了解。ブリューは心の中で答える。

​獲物を定めたワイバーンが、ハヤブサのように翼を畳んで高速落下してきた。地面スレスレで翼を広げ、神獣の尻を追う。

(遅いな)

グンは冷ややかに思った。本気を出せばいつでも引き離せる速度だ。

十分に引き付け、必殺の体勢に入る。

一気に屈み込み、反動を利用した鋭角転回――『Vターン』。

追ってきたワイバーンの顔面を、真横から追い越す。すれ違いざまにレオンハルトが首を落とし、巨大な胴体が土埃を上げて地面を滑っていった。

​圧倒的な蹂躙劇。

逃げ惑う魔族たちを一人残らず爪の餌食とし、戦場に静寂が戻った。

レオンハルトは慎重だった。死骸の数を一つずつ数え、獅子仮面を剥いでは心臓を突き、首を刎ねる。

「死を偽装する魔法があっても不思議ではない」

王子の執念深いまでの確認に、カミロも「……確かに」と納得せざるを得なかった。

​「たらふく肉も手に入ったし、しばらく食糧は安泰だな。ワイバーンはリザードマンに似てて美味そうだ」

カミロが上機嫌で分厚い皮を叩いた時、レオンハルトが意外な号令を下した。

​「今のうちにルカを迎えに行く。肉の解体はそれからだ」

​その名を聞いた瞬間、グンとブリューのテンションが爆発した。

「本当だよね!?」とレオンハルトの顔を覗き込んでは、ぴょんぴょんと跳ね回る。

その無邪気な様子に、王子の唇に笑みが浮かんだ。

​「今から暫くは、ここを奪い返そうとする者は現れないだろう」

​城塞を護るための牙は、今、愛する家族を迎えに行くための翼となった。

四人は最高速度で、懐かしいシャンプーの香りが待つ場所へと駆け出した。

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