エルドラド航宙記

水井竜也(仮)

第1話 薔薇の館の魔女

 アーサーは、旧市街地と呼ばれる一角を駆けていた。


 石畳は古く、建物は時代に取り残されたように傾き、住民の気配は薄い。人々はこの場所を避ける。

 理由は、ただ一つ。旧市街の中心に、不釣り合いなほど、美しい庭があるからだ。


 石塀に囲まれたその庭には、季節を無視したかのように薔薇が咲き乱れている。赤、白、黄。絡み合う蔓と棘。その奥に佇む館は、いつしかこう呼ばれるようになった。


 『薔薇の館』


 そして、その名と同時に囁かれる、もう一つの言葉。


 『魔女』


「……はぁ、はぁ……」


 息を切らしながら、アーサーは庭へと足を踏み入れた。

 視線の先。薔薇の群れを背に、フードを目深に被った一人の女が立っている。顔は半ば影に沈み、年齢すら定かではない。


 アーサーは剣の柄に手をかけたまま、叫んだ。


「魔女よ!言われた通りに、四つの塔にいた四匹の魔獣……全部、倒してきたぞ!」


 女は、ゆっくりと顔を上げる。その瞳が、アーサーを射抜いた。


「……正直、驚いたわ。あなた一人で、彼らを打ち倒すなんて」


 低く、よく通る声だった。


「一匹は『クイズ対決』だったけどな!」


 アーサーは、苦笑混じりに吐き捨てる。


「……さあ、約束だ。俺に『力』をくれるんだろ?」


 短い沈黙。やがて魔女は、ふっと立ち上がった。その口元には……不敵な笑み。


「……そうね。では、最終試験といきましょうか」


 魔女は、一歩、踏みしめる。その瞬間、空気が変わった。


「おいでなさい!!」


 魔女の声に応じ、空間が歪む。

 次の瞬間、光の奔流が庭を満たした。視界が白に塗り潰され、圧倒的な存在感が降り立つ。


 そこにいたのは……光り輝くドラゴン。

 黄金の鱗。天を衝く角。神話そのものの姿。


「……くそっ!追加試験なんて、卑怯だぞ!」


 アーサーは目を細め、毒づいた。


「古来より、魔女を守護するのはドラゴンよ……教養が足りなかったみたいね?」


 楽しそうに笑う魔女を横目に、目が慣れたアーサーは剣を構え直す。


「ヤツを倒したら……その時は『力』をくれるんだな?」


「……ええ。必ず」


 魔女の短い頷き。アーサーは一歩、前に出た。


「俺には、やり遂げなければならない使命がある……この名に掛けて!!」


 剣を天に掲げ、アーサーは、光のドラゴンへと駆け出した!


 無謀。魔女の目には、そう見えた。


「やめなさい!その子は、力押しで勝てる相手じゃないわ!!」


 魔女が、試験を中断しようとした、その時。


「……お待ちください」


 凛とした声が庭に響き、魔女が振り向く。


 そこに立っていたのは、銀髪を頭の後ろに結い、凛々しい表情で、鎧をまとった一人の女騎士だった。


「……あなた」


「アーサー様の家臣の一人。ランスロットと申します」


 騎士は膝を折り、しかし視線は真っ直ぐだった。


「僭越ながら……アーサー様は、『剣』を抜くことができました」


 魔女の視線が、再びアーサーへと向けられる。

 ランスロットは、静かに微笑んだ。


「……信じてください。我らが王を」


 その瞬間。アーサーの周囲で、権能の奔流が巻き起こった!

 空間が歪み、世界が軋む。


「この想いは……きっと地球に届く!」


 そして、空が裂けた。

 裂け目の向こうから、巨大な『手』が現れる。


「……来い!『理想郷に至る者アヴァロン』!!」


 それは、巨大な鎧を纏った巨人。

 アーサーの身体は、その胸元へと収まる。


 そして巨人は、虚空から剣を抜き放つ。

 光のドラゴンに負けじと、巨人の剣も光を放つ!


 圧縮された光が渦巻き、あたりに閃光があふれる!


 巨人は、剣を振るった!……一閃!!


『ぐっ、ぐがぁぁぁぁっ!!』


 虚を突かれたドラゴンは、断末魔とともに砕け、光の粒子となって霧散した。

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