第三三話 怪獣爆弾

 ☆正午十分 降川高校 校庭


 昼食の配給の準備をしていた僕達は、地底より現れし巨体に目を奪われていた。


「お、おい星野。ありぁ何だよ!?」

「怪獣に決まってるじゃないですか先輩!!」


 燃え盛る業火の中、動き始める巨体。その鋭い眼差しが校舎を捉えた時、瞬く間に周囲を悲鳴が征服した。恐慌した人々はテントを踏み倒しながら逃げ出す。親と逸れ、泣き喚く子ども。老いた父を必死に背負おうと藻掻く娘。僕達が立ち尽くしている内に、徐々に地響きが迫ってくる。


「アンタら、何やってるの!?」

 

 不意の怒鳴り声に振り返れば、桜さんの姿。震える足で必死に走り回っていたのだろうか、二人の髪は汗で濡れていた。


「あいつココを目指してるみたい!! ココにいたら潰されておしまいよ!!」

「分かってますよ!! でも、望さんは!? 望さんは何処に!?」


 先輩の問いに、桜さんは苦渋の表情で吐き捨てた。


「パパったら、『避難所病院の人を見捨てる訳にはいかない』って無茶な事ほざいてる!! あぁ、もう!! 何で、あんなアホを見捨てる気になれないのよアタシは!!」


 虚しく木霊する怒号を尻目に、空の戦闘機達が閃光を迸らせ、戦車とトーチカの砲塔が轟音と共に一斉に火を噴く。だが、放たれた砲撃達は本体を掠め、まるで煽るように足元に着弾するばかりだ。一見、何の意味もないような挑発に、怪獣は怒りの咆哮。


 次の瞬間、結晶の背鰭から激しい閃光が迸り、戦闘機達が爆発し、電撃が迸る。墜落する残骸達を尻目に、解き放たれた電撃が背鰭に吸い込まれていく。


「おい星野!! あいつ、電気を食ってやがる!! あいつの仕業だったんだ!!」


 返す刀で地上を睨みつける怪獣。直後、全身から激しい紫電が迸る。バチバチと大気を焦がし、紫電は地上を瞬く間に焼き払った。戦車達が吹き飛ばされトーチカ達が倒れる中、黒煙が天高く昇り始める。だが、それでも残った戦闘機達は『足元』を攻撃し続ける。


「何でよ、何でワンダは怪獣を直接攻撃しないの!?」


 桜さんが悲鳴を上げる。一見不自然なその行動に、僕は困惑するばかりだった。


 その時、僕は気付く。先輩の顔が、異常に蒼くなっている事に。


「なぁ、星野。あの怪獣は今、本来京都中で使われた筈の電気で腹パンパンって事だよな?」

「「……え?」」


 瞬間、僕達は先輩の考えに気付く。


「もしもだぞ? もし、今あいつが破裂でもしたら、どうなるんだ?」


 ☆正午五分 パレス・ベース 司令室


「「怪獣が、爆発する?」」


 押し寄せる通信にけたたましく叫ぶ警報達。緊迫の中、司令室に駆け付けたわたし達を出迎えたのはサワさん達の深刻な表情だった。


「例えば、今停電中のこの基地を何とか動かしている紅龍式十メートル級緊急発電装置。その試作型が一九九五年の香港で怪獣の攻撃を受け、大爆発したという記録があります」

 

 サワさんの深刻な視線は、窓の外で咆哮する怪獣を向いていた。


「半径五〇〇メートル圏内が火の海と化し、百人単位の死傷者が出たんだそうです。これ、凄まじい電気エネルギーを秘めているって意味ではあの怪獣と似てませんか?」


 不意に澄子さんが手を挙げた。その場の誰よりも震え、死んでしまったかのような顔色を湛えて…


「まさか、それって」


 サワさんは、悔しそうに、そして絶望した声で続けた。


「奴は、本来京都市全域で使われた筈の電気を数日もの間、送電網経由で吸収しています。そして、あたし達の攻撃も食らったんです」


 言葉に詰まり、俯く。それでも、彼女は最後まで絞り出した。


「あいつは今、歩く巨大爆弾です!! いつ京都を吹っ飛ばしてもおかしくありません!!」


 誰もが言葉を失い、蒼白した。木野先生にいつものクールさはなく、姫谷さんにベテランらしい余裕さもない。八方塞がりだった。誰もが、蒸気を噴き出し過熱する怪獣の姿を見つめる事しか出来なかった。


「我々の責任だ。ケツを拭くのは、我々しかいない」


 佐神司令が顔を上げる。こんな時でも、いや、こんな時だからなのだろうか。ただ一人、冷や汗に濡れた諦めのない表情を浮かべていた。


〈対象を雷晶怪獣サンダスタルと命名!! 威嚇射撃による挑発で京都・滋賀県境方面の山中へ誘導、良いか、絶対に市街地で爆発させるな!!〉


 号令と共に、トーチカと戦車達が砲口を向け、戦闘機達が次々と飛来する。放たれた大火力はサンダスタルを挑発する様に、その足元を次々と撃ち抜いた。咆哮し、結晶の背鰭から閃光を迸らせるサンダスタル。次の瞬間、戦闘機達が電撃へと爆ぜる。


〈こちら二〇六番部隊!! サンダスタルより半径三〇〇メートル以内の全機が放電と共に爆発しました!!〉

「直接でも吸い取れるのか……!!」


 直後、背鰭に吸収された電撃は、直ぐ様紫電として地上の戦車やトーチカ達に牙を剥いた。次々と消し炭にされ、雷鳴が辺りに響き渡る。


「周囲三〇〇メートル以内に近づくな!! 距離を取って威嚇射撃を続けろ!!」


 わたし達を嘲笑うかの様に、サンダスタルは進路を変えない。重厚な四足で道路を踏み割る。迸る雷撃と共に過熱する体温。アスファルト諸共、結晶が溶け始めていく。だが、サンダスタルは気にする様子はなかった。まるで、自爆する事が己の夢であると大声で叫ぶように。


「ゼージスさえあれば!! 同じサイズなら、アイツも無視できない筈だ!!」


 竜の言葉に、サワさんが地団駄を踏む。


「でも、到着まであと二〇分はある!! その間にどうなるか……!!」


 その時だった。わたしが、姫谷さんの言葉に激しい動揺を覚えたのは……


「まずいぞ、あいつの進路上に降川高校がある!!」

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