第十二章 技術流出の危機

ドワーフとの提携から、二週間が経った。


工房には、続々と部品が届き始めていた。ドワーフ製の精密ギア、軸受け、フレーム材。どれも、人間の技術では作れない高品質なものばかりだった。


「すごいな、これ」


グレンが、届いた部品を検査しながら呟いた。


「表面の仕上げが、まるで鏡みたいだ」


「ドワーフの技術は、本物だ」


正義は、満足げに頷いた。


「これで、試作機の製造に入れる」


だが——


「マサヨシ」


エルザが、真剣な顔で近づいてきた。


「ちょっと、話がある」


「どうした」


「昨日から、工房の周りをうろつく人間がいる」


正義の目が、細くなった。


「……どんな人間だ」


「身なりは、普通の旅人風。だが——」


エルザは、声を低めた。


「動きが、普通じゃない。訓練された人間の動きだ」


「スパイか」


「たぶん」


正義は、窓の外を見た。


「帝国か、それとも別の勢力か……」


「どうする?」


正義は、しばらく考えた。


「……罠を仕掛けよう」




その夜。


正義は、工房に「偽の設計図」を置いた。


本物の設計図は、別の場所に隠してある。偽物は、本物と似ているが、重要な部分がわざと間違っている。


「これで、スパイが侵入すれば——」


「偽物を盗んで、帰ってくれる、か」


グレンが、頷いた。


「それで、相手の正体もわかる」


「そういうことだ」


正義は、工房の灯りを消した。


「今夜は、三人で交代で見張ろう。動きがあったら、合図を」


「ああ」




深夜。


正義が見張り番をしていた時だった。


微かな物音がした。


工房の裏手——窓ガラスが、そっと開かれている。


『来た』


正義は、息を殺して待った。


黒い影が、窓から侵入してきた。


影は、迷いなく作業台に向かった。そして——偽の設計図を手に取った。


その瞬間。


「そこまでだ」


正義は、ランプに火を灯した。


黒い影が、振り返った。


「……ちっ」


顔を見る間もなく、影は窓に向かって駆け出した。


「逃がすか!」


グレンが、影の進路を塞いだ。だが——


影は、懐から何かを投げた。


閃光。


「うわっ!」


グレンが、目を押さえた。閃光弾だった。


視界が回復した時には、影は消えていた。


「くそ……逃げられた」


「だが——」


正義は、床に落ちていた何かを拾い上げた。


「これを落としていった」


それは、小さな金属のバッジだった。


鷲の紋章が刻まれている。


「これは……」


リリアナが、息を飲んだ。


「帝国の、秘密警察のバッジです」


「帝国、か」


正義は、バッジを握りしめた。


「やはり、目をつけられていたな」


「どうしますか」


リリアナの声に、不安が滲んでいた。


「帝国が本気で動き出したら……」


「大丈夫です」


正義は、静かに言った。


「スパイが盗んだのは、偽の設計図です。本物は、無事」


「でも、また来るかも——」


「来るでしょうね」


正義は、窓の外を見た。


「だから——」


振り返った。


「対策を、本格的に打ちます」




翌日から、工房のセキュリティが大幅に強化された。


「まず、情報の管理を徹底する」


正義は、全員を集めて言った。


「設計図は、必要な人間しか見ない。見た後は、必ず元の場所に戻す。複製は、絶対に作らない」


「……知的財産の管理、か」


グレンが、呟いた。


「軍でも、似たようなことをやっていた」


「そうだ。技術は、流出すれば終わりだ。一度漏れた情報は、取り戻せない」


正義は、壁に新しいルールを貼り出した。


【情報管理規則】 一、設計図は、正義・エルザ・グレン・リリアナの四名のみ閲覧可 二、設計図を工房外に持ち出すことを禁ず 三、外部の者に技術情報を口外することを禁ず 四、不審者を発見した場合、直ちに報告すること


「厳しいな」


エルザが、顔をしかめた。


「必要なことだ」


正義は、静かに言った。


「我々が守っているのは、ただの設計図じゃない。この国の未来だ」


エルザは、しばらく正義を見つめていた。


そして——


「……わかった。従う」


「ありがとう」


正義は、頷いた。


「さあ、仕事に戻ろう。スパイに邪魔されている時間はない」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る