第2話 責任とってください!

「蓮さま。」


蓮の思考回路は固まっていた。

なぜ女の子がとなりに寝ている?

何も着ていない?


「ど、どこから来たんだ?」


昨日、誰かを山小屋に入れたか?

俺に彼女などいないはず?


「昨日、助けてくれたではありませんか。」


「昨日?助けた?」


手を髪から腰へ、腰からお尻へ。

これは確認のため。

疚しいことをしようとかではなく。


「ん?な、何だ?尾っぽ?」


蓮は尾をなでた。


「ふぅぅんっ。尾は敏感なんですぅ!」


「あ、ああ。ごめんよ。でも、え?」


蓮は布団をめくった。

女の子の白い肌、お尻の後ろには黄金色の尾があった。

三本。


「昨日助けた三尾の狐?」


「だから、そう言ったではないですか。」

「昨日助けていただいたと。」


女の子の白い肌に頭がくらくらする。

蓮には女性に対する免疫がなさすぎた。


「俺、おまえに何もしてないよな?」


「何もというのは?」


「だから……その……えっと……あれだ、あれ?」


「となりで寝ていただけです。」


蓮はホッとした。

女の子とイチャイチャして、何も覚えていないなど。


「でも、責任とってくださいね。」


「え?責任?だって何もしてないって?」


「昨日、私の裸、見ましたよね?」


「裸?」


「お風呂で見たではないですか。」


「いや、あれは洗っただけで。」


「恥ずかしいから逃げ回っていたのに。私を抱き上げてお風呂に、連れて入りましたよね?」


「は、はい、入りました。」


「洗ってきれいにしていただいたのは嬉しいのですが、そのとき、私の体を全部見ましたよね?」


「全部?見た?え?」


「おまえ、メスだったのか?って言ったじゃないですか?」


蓮は風呂で狐を抱き上げて、確認をしたことを思い出した。


「それに、私のこと綺麗だよって。」

「ずっとここにいて構わないって。」

「同棲しようって、言いましたよね。」


蓮は自分が言ったことを思い出した。


「私、そのとき、返事したじゃないですか。」


「返事?」


蓮には身に覚えがなかった。

何も聞いていないはずだが。


「蓮さまの顔をなめて、返事しましたよ。」


「顔をなめるのが返事だったのか?とにかく、服を着ような。」


「服なんて、持っていません。」


蓮は自分の衣類の記憶をたぐった。

だが、これといって女の子に着せるような服はなかった。

毛布から見え隠れする白い肌に、目のやり場が困る。


「ジーンズとシャツに上着ぐらいなら何とか。」


女の子は蓮に渡された衣類を器用に着ていった。

ジーンズは丈が長すぎるため、かなり下を折って履くことになった。


「あとで、衣類を買いに行こうな。」


「服を買っていただけるのですか?やったあ!」


「ところで、おまえの名前を聞いていなかったな。」


「ミコです。ミコとお呼びください。」


「ミコ?そっか、ミコっていうのか。よろしくな、ミコ。」


少しホッとした蓮を、ミコはじっと見つめていた。

まだ何か足りないものがあったのか?


「蓮さま、お腹がすきました。」


昨晩は何も食べていないことに気がついた。

昨日はお風呂からあがったあとも、治療が終わったら疲れてそのまま寝てしまっていた。


「そうだな、何も食べてなかったな。」

「ミコは日頃は何を食べてるんだ?」


ミコは蓮をじっと見て、ぼそりと言った。


「蓮さま、言っても構わないのですか?」


蓮はあることに気がついた。

野生の狐が食べているもの………聞かない方がいいかも。


「聞き方が悪かったな。何が食べたい?」


「狐は肉食よりの雑食ですので、人が食べるものであればほとんどが大丈夫です。」

「刺激の強いのは、ちょっと。」


蓮は台所を探したが、料理ができそうな食材は残っていなかった。

買い出しの必要があるが、とりあえず今食べられる物を探した。


「なぁ、ミコ。カップ麺は大丈夫か?」


「カップ麺ですか?食べたことがありません。」


蓮はミコの前に何種類かのカップ麺をならべた。

ラーメン、うどん、そば、パスタなど。

ミコを見ると目を輝かせていた。


「き、きつねが、きつねがありますぅ!」


「きつねうどんが、いいのか?」


「はい!きつねがいいです!」


蓮はポットのお湯をカップ麺の容器に入れた。

側で見ているミコの三本の尾は、絶えず左右に動いていた。


「ミコ、足の具合はもういいのか?普通に歩いてるけど。」


「もともと妖力である程度は治せるので。」

「それに、蓮さまから霊力をわけてもらいましたから。」


「霊力?俺の?」


「蓮さま、もしかして自覚がないのですか?蓮さまの霊力って、ものすごく強いんですよ。」


「俺にそんな力があるのか?」


「たぶん、国内でも数人しかいないレベルですね。」


「え?マジか?全然自覚がないが。」


「昨日、鼻を蓮さまの心の臓に近づけてわけていただいたので、ケガの治りが早いんです。」


「心の臓って、心臓のことだよな。」


「はい、人は心の臟から霊力がわき出てくるんです。」


「昨日、助けていただいたときに、蓮さまの霊力があまりに強すぎて動けなかったんです。並みの妖(あやかし)だと、見られただけで動けなくなりますね。」


ミコは蓮の顔を下から覗き込んだ。

何か疑問に思ったことでもあるのか。


「でもこれほどの霊力を持っていたら、子どもの頃に狙われそうなのですが?」

「どちらにお住まいだったのですか?」


「高校までは京都にいたよ。」


「あぁ、京の都ですか。あそこなら大丈夫ですね。幾重にも厳重に結界が張られていますので。」


「結界?」


「はい。京の都だけではなく、奈良や鎌倉など時の政府があったところは結界が張られています。」

「う~ん、関東はあちこちに穴が空いてしまっているので、妖が入って悪さができますね。」


ミコは蓮の身なりや山小屋の中を見渡した。


「霊的な修行をされたようには見えませんので、生まれもっての力のようですね。」

「それに。」


ミコは鼻を蓮の体に近づけた。


「私たち妖狐に近い匂いがします。」


俺が狐なわけないだろうに。

蓮はクスクスと笑っていた。


「さぁ、できたぞ。」


カップ麺のふたをとり、箸をミコに渡した。


「はあぁ~、きつねうどん。」


「では、いただきます。」


器用に箸を使い、ミコはカップ麺のうどんと揚げを口に運んだ。


「はあぁ~。」


目を閉じて口に広がる味を感じながら、三本の尾をパタパタと動かした。


「人の知恵というのは素晴らしいですね。こんなご馳走を、あの短時間で。」


ご馳走なのか?と蓮は思ったが、口にせずに黙っていた。

蓮はミコのことが知りたくなった。


「ミコ、おまえは九尾の狐ではないのか?」


「私は生まれてから200年ちょっとですので、まだ三尾です。」


ミコが蓮を冷めた目で見た。


「蓮さまは年上の女性は嫌ですか?」


「年上って、歳の差が200とか、気にするようなレベルの話じゃないと思うが。」


ミコはニコニコとしていた。


「ずっと一人だったのか?」


「私の家族は普通の狐でしたから、すでに他界しています。」

「私は狐の里に預けられていたので、あまり思い出とかはありません。」


「狐の里?」


「はい。妖狐だけが暮らす里があるのです。そこには、五尾とか七尾とかいますよ。もちろん、九尾も。」


「九尾の狐って、すごい妖力があるとか?」


「そうですね、私程度では全く勝てないです。狐火の威力も桁違いなので、黒焦げにされるだけですね。」


黒焦げと聞いて、蓮は引いていた。


「狐火はミコも使えるのか?というか、ミコは何ができるんだ?」


「私の力は、治癒、変身、狐火、雷です。あとはカマイタチを飛ばせます。」


「今のミコはその変身の力を使っているということか。」


「はい。でも狐の変身は人間の20代後半ぐらいまでです。それに、性別は変えられません。三尾の私では、そんなに長い時間は持たないですし。」


「ん?それじゃ、ミコもそのうち狐に戻るということだよな。」


「いえ、今の私は蓮さまの霊力の供給を受けているので、ずっとこのままでいられます。」

「他は、千里眼とか幻術とか。」


「何か、すごいな。」


「でも尾が三本なので、それほどの力は出ないです。私の狐火だと家を一軒丸焼けにするぐらいしか無理ですね。」


蓮はドン引きしていた。

この見た目からは想像もできないが、家を一軒燃やせると軽く言いはなつ。


「ごちそうさまでした。」


とりあえず、これからのことを考えよう。


「ミコ、カップ麺の入れ物は捨てずに洗って残しておくからな。」


「何に使うのですか?」


「ミコを見つけた近くに椎茸栽培の原木がならんでいたところがあったろ?」


「あれは蓮さまの栽培所だったんですね。学生の傍らにする規模ではないですよ。」


「ははっ。ミコ、俺のもう一つの収入源を見せてやるよ。」

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