トラ転!~虎に転生した俺達はケモノの王国(ハーレム)を目指す(強制)
鷹山リョースケ
読切短編
寝床で目が覚めた俺はうーんと伸びをして、外に出る。
今のねぐらは山の横っ腹に空いた穴だ。
どうくつぐらし! 結構広い。まだまだ探検中。
俺はのんびりと森の中を歩き、近くの小川を目指す。朝の空気がうまい。マイナスイオンってやつ?
ここは異世界だ。
そして俺は虎だ。
なんだそれ、って、いやホントなんだろうなこれ。
本当に「虎」なのかどうかは知らん。
異世界に虎っているのか?
いたとして、ソレは地球に生息してた虎と同じ生物なのか?
わからん。何もかもわからん。
わからんが、俺の体は人間だった時よりはるかにデッカくて、全身にフサフサ毛が生えてて、毛皮は濃いオレンジに黒の縞があるし腹と足は白い。
肉球だってあるしツメはゴツいのがにゅっにゅっと出し入れできる。
それにまあ……あのクソアマ、もといケモネキのセレクトだから「虎」なんだろうよ。
◇ ◇ ◇
気がついたらもや~っとした上も下もなんもない空間で、なんもねえところだった。
体の感覚もねえ。
そっか俺死んだのか。普通にそう思ったね。
なんか、こんなフワーッとした感じで死ぬならまぁ、マシなんかな、なんて思って。
そのうち俺以外にも誰かがいるのを感じた。
2人いるなってのは、なんとなく判った。
それからお約束のやりとりがまぁ色々あって。
俺達は3人まとめてヨソの世界に転生させられることが判明した。
ニコイチならぬサンコイチだ。
はーーー?!!!
そんなんありかよなんなんだよ体は1人に1つだろなんで強制的に多重人格者作ろうとしてんだよアホなのかバカなのか?!
そしたら俺以外の2人のうちの1人(後のクソアマことケモネキ)が、
「虎がいい! 俺は虎になる!!」
とか言い出しやがった。
俺とか言ってるけど女の声だった。
腹立つことに好きな感じの声だったから一瞬ドキッとした。
俺の人生において最大の黒歴史だ。
いやいやいやいやいや。
なんだよ虎って。
聞いたらイメージが流れてきたよ。
ガチンコの虎だったわ。ネコ科の。
比喩とかそういうチャチなもんじゃあなかった。
動物じゃねえか! アホ!
そこから始まる大バトルよ。
もう1人は「はわわ」って感じですっこんでた。
後で思ったけど危機管理意識たけぇわ。
別に自慢じゃねえがよ、俺はガキの頃は田舎で時代遅れのヤンキーごっこに興じてた真性のバカだ。
河原で決闘ごっこにいそしみ、信号も無ければ建物もねえ田舎の直線道路をアホみてえに往復して、たまにポリに呆れられつつしばかれる。そのポリだってどこそこの誰ちゃんの兄貴とかよ。田舎だからな、究極全員知り合いだわ。
そんなナンチャッテ20世紀みてぇな青春を送った。
もちろん俺はこのイカれたクソアマをコブシで黙らせようとした。
女なんかに負けねえ!!
……まあ結論から言えば即オチ2コマの如く勝てなかったわけだが。
このクソアマ、「虎に生まれ変わってオス虎を孕ませたい」ってガチのマジで語ってきたからな。
おかしいだろ色々。オスは子を産まない。俺でも知ってる。
もや~っとした世界では体が無かった。
だから俺がコブシを振り上げても腕はなくて、俺の「ブン殴る!」「負けねえ!」という意思の強さがパワーだった。
意志と意志を剥き出しでぶつけ合う、そんな戦いだった。
クソアマの攻撃はおぞましいものだった。
肥溜めにゆっくりと指先から両手を沈めていくような感じだ。
いくら肩までゴム手袋してたってゾワゾワするし、肩を過ぎたらどうなっちゃうの?? 頭から突っ込んじゃうの?? ってなるし、しかも背中がガラ空きでいつ誰に蹴り飛ばされて突き落とされるか判らない状態。そんな感じだった。
そりゃ負けるだろ。しょうがないだろ。
俺は「ケガレ」という概念を初めて実体験で思い知った。
後で思うに、俺は性癖バトルに負けた。
真物の狂人には勝てなかったよ……
◇ ◇ ◇
そんなこんなで俺達はクソアマお望みのフサフサ虎ボディとなって異世界に降り立ったのだった。
絶望するわ。
パソコンの壁紙みてえな草原を前にしてクソアマは歓喜の雄叫びを上げた。
ひとまずボディの主導権はクソアマにあった。
なんていうかな……虎ボディが車だとしたら、運転席にクソアマがいて、俺ともう1人(後のアニキ)は同乗してる感じだ。
(やりたいことは先ずひとつ!)
クソアマは駆けた。
速ぇ!
力強い四肢が大地を蹴って巨体が軽々とスピードアップする。
案外いい感じだな……ダチの車にハコ乗りしてる気分だ。風が心地いい。
クソアマは草原の真ん中で止まった。
四方八方視界を遮るもののない広大な原っぱだ。
ちょっとすげえな……感動しちまう。
地平線のもやっと霞むトコまでずっと草っぱらだ。
(なにすんだよ?)
遮るものがないってことは、隠れる場所がないってことで、危なくねえか?
俺は思った。
ここがどんな世界だか知んねえけどよ、矢とか飛んできたらどうすんだよ。
クソアマは全然取り合わず、草原の真ん中でグッと後ろ足を踏ん張った。
おいまさか。
(空は天高く! 風は心地よく! 広大な草原で!)
(おい!)
(やるこたぁひとつだろブラザアアァァー!)
おいおいまさか。まさか。
(野糞だーーー!!!!)
(うわあああああああ!!!)
(ああああああ!!!)
(サイッコーだぜぇーーー!!!!)
俺は必ずこの邪知暴虐のクソアマから体の主導権を奪うことを決意した。
お前らだって河原で立ちションぐらいしたことあるだろ、とクソアマには言われたけどよ、あいにく俺もアニキも文明人なのでそんなことはしたことがない。
そう言ったらマジで驚愕してるようだった。
あれっ、俺達もしかして生きてた時代がズレてるのか?
……まあ後で判ることだが単にクソアマがクソだっただけで残念ながら俺達はれっきとした21世紀の現代人だったわけだが。
絶望するわ。
◇ ◇ ◇
スッキリ()した後は生活の場を探して草原を駆けた。
その間に内部で自己紹介をした。
俺はこのクソアマをブチ殺したくてしょうがなかったが、負けは負けだ。
ガチンコ勝負で負けた。
だったら後からガタガタ言うのはダセェ。
それに泣いても笑ってもこの3人でやっていかなきゃなんねえしな。
クソアマと言ってるとあのおぞましい波動で「撫でられた」からクソアマは『ケモネキ』になった。ケモナーのアネキだそうだ。アニキ談。
もっともケモネキ本人には「ケモナーじゃねえ! 私はガチケモ派!」ってめちゃめちゃ怒られたけど。
クッッッッッッソどうでもいい。
もう1人は『アニキ』だ。
声だけしかわかんねえけど俺よりは年上の男だと思う。だからアニキ。
育ちの良さそうな感じのシャバこい男だなと思った。
後で聞いたらなんかすげえ金持ちの家のボンボンだったけど。
セレブってやつか。
そんな奴がこんな生き地獄に落とされてんの諸行無常SSRだな。
(アニキ生前どんな悪いことしたんだよ)
(えっ? い、いや何も心当たりないんだけど……)
そんで俺は『スズキ』になった。……もうどうでもいい。
(おいヤンキー)
(は? 気安く呼んでんじゃねえぞクソアマが)
(お前好きなバイクなによ)
(あ? やっぱKATANAだな)
(じゃあお前『スズキ』な)
(なんでだよ!! そんなら『カタナ』だろ!!)
(えー、しょうがないにゃあ、『カタナ』くぅ~ん)
……クッッッッソむかつくこの気持を判ってもらえるだろうか。
あと言う気はねえんだけど、鈴木はマジで俺の苗字だったからそれでいっか、と思ったんだよな。
草原を駆け抜けた俺達は森を発見し、いい感じの洞窟を山肌に発見し、ここを拠点とした。
まず飯だ。食い物を見つけなきゃなんねえ。
(虎って何食うんだ? ウサギか?)
(まあ肉だな。でも異世界虎だし、食えそうなら何でも食っていこう)
(そうだね。果物とかあるといいなあ)
アニキのメルヘンな波動を感じると、クソでもケモネキの方が頼りになるの本当に腹立たしい。
結局、俺達というかケモネキがネズミなんだかリスなんだかわかんねえ小動物を捕まえた。
正直申し上げて小動物の死体だ。
く、食うのかこれを……。
カッコ悪ィけど俺はビビったよ。ああ、ビビこいたよ。
(これからこうやって生きていかなきゃなんないからね。最初は私に任せな)
ケモネキは獲物をツメで裂くと、まず生あったかい生き血を啜った。
……美味かった。やべぇ、うめえ。
虎ボディは今ケモネキが主導権取ってるから俺とアニキには喉ごしとか味とか、そういう「美味い」ってホワホワした満足感だけが流れ込んでくる。
やべえ、明らかに養われてる。俺は満足感と同時に焦った。
このままではボディだけでなく俺達の主導権もケモネキに取られちまう。
どんな地獄に連れて行かれるか判ったもんじゃねえ。
(次は俺が狩りをやるぜ!)
(おっ、ヤル気だな。いいね、You have control)
(ゆー……は?)
(スズ君、アイ・ハブって言えばいいよ)
(あ? あいはぶ?)
(うん)
ドンッ! と急に重力を感じた。
今までふんわり感じていた周囲の気配がクリアになって濃密に押し寄せてきた。
森の木々の香り、土の臭い、自分の口の生臭さ、鉄臭さ、風、温度、自身の筋肉や骨の実感。
これまでが窓越しに見ていた景色なら、今は明らかに身一つ剥き出しで立っている。
ぶるっと震えた。
多少は怖いなと思ったよ。そりゃな。
裸で立ってるようなもんだ。
実際裸だし。
でもそれを上回る興奮があった。
俺は、強い。
この虎ボディが強いってことだけど、こうして主導権を取ると明らかにこの世界の上位種だって感じる。
多分それまで俺はなんだかんだ言ってても不安だったんだと思う。
変な動物の体ってのは二の次で、まず異世界って何だよ。
元の世界に返してくれよ! そうだろ?!
でもダメで、じゃあ消えたいとも思えず悪あがきで転生に同意して。
サンコイチとかいうやっつけ仕事くらってよ。
ああでも。
俺は今やっと転生したことに「しっくり」きた。
そして「内」にアニキとケモネキがいることが心強く思える。
……アニキはいいんだけどクソアマ超むかつくなこれ!
その後アニキにもゆーはぶ? して、俺達はこの虎ボディの操り方を探りがてら狩りをして、文字通り駆け回った。
◇ ◇ ◇
俺達が洞窟を拠点に、周辺を縄張りにしてからしばらく経った。
洞窟の中の探検も順調で、毒蛇とか毒虫とかそういうヤバげな先住者もなかった。内部を伝って山頂付近に出られることも判った。
山頂付近で洞窟の天井に穴が空いてて、陽が差し込んでいた。
その下に綺麗な水溜まりがあった。
近付いたら湧き水で、こんな山頂で湧き水?? と俺達は首を傾げたが、異世界地理は判んねえな、ということでスルーした。
何よりマイ水場を確保したのはでかい。
これまでは小川まで行っていたが正直めんどくさかったんだよな。
そしてこの湧き水は異世界マジカルウォーターだった。
怪我が治る。
聖水だ。ヒーリングポーションだ。
ちょっと枝で前足を切っちまったことがあって、水飲んで休んでたら治ってたんだよな。
この虎ボディの治癒能力が高いのか? とも思ったけど、3人で話合った結果、やっぱおかしいということになって。
ケモネキが(じゃー実験しようぜ)と言い出して、どうするのかと思ったら、あのアマ、ネズミを半殺しにして持ってきやがった。
泉に前足をひたして水を含ませると、ピクピクしてるネズミにぶっかけた。
ネズミの傷は治った。
(スゲエ!)
(うーん、異世界)
(へー、こいつは得したな)
ネズミは逃げ出したところをケモネキに再度噛まれ、俺達に食われた。
ゴチ。
その後、俺達は森の中で瓢箪みたいな実が中空になる植物を発見し、湧き水を入れて持ち歩くことにした。
虎の前足は人間の指みたいには動かないが、まあ瓢箪に蔓草を巻き付けて水筒っぽくするぐらいはなんとかなったよ。
その辺はアニキが器用かつ根気よくやってくれた。
俺とケモネキは役立たずだった。
ぶ、分業ってやつだ。
そんな感じでまあまあ順調に異世界探検ライフをやってたんだけどよ。
俺達はついに出会った。
「敵」に。
◇ ◇ ◇
ソイツは俺達と同種の獣だった。
つまり異世界トラ。
すぐ判る違いは、地球の虎と比べて耳がでかい。
虎の耳ってなんか熊みたいっていうか、わりと丸っこいけど、異世界トラはどうやら犬とか猫みてえな三角っぽいやつのようだ。
ちなみに俺達の虎ボディは地球虎に準拠している。ケモネキセレクトだから。
森を探検してた時にでくわしたソイツは、正に猛獣、いやモンスターだった。
盛り上がった筋肉、ぶっとい足、チラッと覗く牙、どう考えても討伐対象だ。
目線の位置的に体格は俺達の虎ボディより少し小さいかもしれん。
それでも相手はガチモンスター、こっちはガワが同じでも中身は人間だ。
やべえ。
ソイツは明らかに殺る気で向かってきた。
ゆっくりと、殊更にゆっくりと近付いてくる。
縄張り争いってやつか? 鼓動が激しくなる。
逃げられねえ。
だってこの場所を逃げて、生きていけるかどうかわかんねえ。
いくら望んでない形での転生でも死ぬのはイヤだ。
怖い。でも怖いだけじゃ終われねぇ。
前世でのケンカを思い出す。
バカみたいに張り合って、イキって、殴り合って。
威勢のいいこと言って罵り合って殴り合ってたのに逃げる時はみんな一緒よ。
バカばっかりだ。
何やってたんだ俺、って今なら思うけどさ。
あん時は大真面目だった。
あんなクッソ平和で、ド安全な国で、自分達だけがヒリヒリした鉄火場にいる気分だった。すごいバカ。
ごくりと喉が鳴る。
今度こそ俺は本気の大マジの鉄火場にいる。
怖ぇけど逃げらんねえ。
クソ、舐めんじゃねえぞ。
俺は売られたケンカから逃げたことはねえ!
(嫁キターーーーー!!!!!!!)
突然、脳内にケモネキの雄叫びが鳴り響いた。
女だけど雄叫び。どうでもいいことが思い浮かぶ。
知ってるぜ、現実逃避ってやつだ。
(うおおおおおヤる絶対ヤる! 俺はここで童貞を捨てるぞジョジョーー!)
ジョジョだってそんなこと宣言されても困るだろ!
あとディオに謝れ。
俺の緊張とか怯えとか闘志とかがケモネキの汚れた欲望に押し流されていく。
やめろ! すっこんでろクソアマ!
俺の中で膨れ上がって爆発した相手違いの闘志に、異世界トラは反応した。
ゴングが鳴る。
体の主導権を握った俺と異世界トラは吠えながら全力でぶつかった。
技巧もなんもない体当たりだ。
かってえ! 岩か!
お互い弾き合って、ぐっと後ろ足に力を込める。
踏ん張ると、前足を振り上げた。
猫パンチLv.1000みたいな殴り合いだ。
爪も出て血しぶきが上がる。
ぴりっとした感覚はあるが、思ったほど痛くない。
俺というかこの虎ボディは意外と頑丈なのか? と思ってたら、
(ムギャアアアアアアアアアアアアアアッ)
ケモネキの謎の呻き声? 悲鳴? が響いた。
あまりのガチトーンにさすがの俺も我に返る。
(おいどうしたケモネキ!)
(気にすんな! ダメコンは私が引き受けた! ヤツを早く下せ!)
俺が困惑してると、アニキの声がこっそり聞こえる。
器用だなアニキ……。
(痛覚をネキちゃんが担当してるんだよ。だからスズ君頑張って!)
は? なんだそれ。
異世界トラの強烈なパンチをうっかりくらってしまう。
衝撃はあったが痛くはねえ。ケモネキの吠え声が響いた。
……な、なんだよそれ。舐めてんのかよ!
(俺が痛みに怯んで負けるとでも思ってんのかよ!!)
(思ってるに決まってんだろ!! オラ一部戻してやんよ! どうだよ!)
……すっごい痛かったです。ちびった。
(さっさと勝て!)
「ゴウルァアアアア!!!!」
俺は吠えると、異世界トラに猛然と飛びかかった。
回避しながら仕留める方法もないではないが、時間がかかるのは悪手だ。
異世界トラは今んとこコイツ一匹だが、本当に一匹とは限らねえ。
群れの斥候の可能性だってある。
ここは一気に勝負をつける!
ダメージコントロール(後で教わった)をケモネキに任せて、俺は攻撃に専念した。
そして決着はつく。
異世界トラがヨロヨロと地に伏せ、転がって腹を見せた。
勝った……
この世界で初めての戦い、そして勝利だ。
勝利の余韻に浸る俺に代わり、アニキが瓢箪から湧き水を出して舌に乗せ、傷に塗る。
ついでに異世界トラにも適当にぶっかけた。
(アニキ、治して大丈夫なんか? 元気になったらまた襲ってこねえ?)
(えっ、うーん、そういうこともあるか……)
アニキがしょぼしょぼと萎れる。
多分、怪我した動物がいるから治してあげようっていう、単純で優しい気持なんだろう。
いいぜ、また襲ってきたらやり合うだけだ。今度は圧勝してやるよ。
異世界トラは大人しくじっとしていた。
格付けが終わったってことなんだろう。
生意気そうな目の光はあるが、とりあえず大丈夫そうだ。
(よし、代われ)
満を持して、という雰囲気でケモネキが悠然と体の主導権を握る。
俺もアニキもまあ仕事は終わったから特に拒みはしなかった。
ケモネキは悠然と異世界トラに近づき、ベロリと舐めた。
そのまま体のあちこちを舐める。
異世界トラが不安そうな様子になる。
意味が判らないといった風だ。
だろうな。元同じ種族の俺達も意味が判らない。
ケモネキはニチャアと笑った。
精神だけなのに何故か伝わるキモさ。きめえええええ。
異世界トラの顔に恐怖が浮かぶ。
動物の感情なんてわかんねえけどさ、肉食動物は目が前に揃って付いてるから顔が人間っぽく見えるってなんかで読んだ。
逃げようとする異世界トラにケモネキは背後から襲いかかり……
そして……
異世界トラの悲鳴じみた鳴き声が轟く。
ケモネキの最高に嬉しそうな笑い声。
俺とアニキは心の中に壁を作り、目を閉じて両耳を塞いで、壁に向かってじっと時が過ぎるのを待った。
俺達の中に子供がいなくてよかった。
◇ ◇ ◇
コトが終わった後、異世界トラは覚えてろよオオオオーみたいな調子で走り去ったんだが、翌日普通に俺達の拠点の洞窟にいたから噴いた。
何してんだお前ェェェ!
昨日は大興奮だったケモネキだが、一夜明けると受けたダメージが回復しなくて臥せっていた。
精神しかないのに臥せってるってのも変だが、体の傷は治っても傷を受けた時の精神的ショックや痛みの記憶みたいなものは消えない、ってことらしい。
俺達はうつらうつらしているケモネキの精神を安静に保ち、湧き水を飲んで、横になった。
異世界トラは大人しく伏せていたが、匍匐前進してきて、俺達の体を猫みたいに舐めた。
すり寄ってきて隣に横になると、かいがいしく舐め始める。
ケモネキが弱ってるのが判るんだろうか。
つーかお前、ネキにぶちおかされてオンナになっちゃったのかよ?? それなんてエロゲ?
だいぶ後で知ったことだが、俺達が転生したこの虎っぽい生物は群れで生きる生態だったらしい。
俺達が戦った奴は何らかの理由で群れから追い出された個体だったようだ。
ちなみにケモネキによってトラ子と命名されている。
オスだろ! だがネキの嫁一号である。
トラ子は俺達をボスとして無理矢理群れになった形だ。
押しかけ嫁だった!
俺達の誰が今主導権を握ってるのかがなんとなく判るようで、ケモネキの時は嫁面してすり寄ってくるが、俺やアニキの時は普通にうっす、みたいな感じだ。
トラ子に対してケモネキのイメージではツインテールギャルっぽい、なんかカワイイ絵面が流れてきたが、俺とアニキ的には男塾なんだよなあ……
もういいけどよ……
その後再び現れた別個体のはぐれトラと縄張り防衛戦をして、なんとか勝って、ケモネキが嫁にして、
名前はトラ代になった。勿論オスである。
トラ代はトラ子より体格が良くて、体にも古傷があって歴戦の勇者って感じのすごいやつだった。
勝てたのは俺達がエサに恵まれてて拠点でたっぷり休んで体力気力共に充実してたのに対し、トラ代はろくに食えてない上にあちこちで追い回されて弱ってたからだ。
(多分、トラ子ちゃんはこの種としてまだ子供で、トラ代さんが成体なんじゃないかな)
アニキの仮説は正しいと思う。
つまり俺達はこれから万全のトラ代級を念頭に戦っていかなきゃなんねえ。
身が引き締まる思いとはこのことだ。
ちなみにトラ代はケモネキのイメージでは年上褐色デカおっぱい女戦士風だったが、俺とアニキのイメージでは世紀末救世主伝説の敵にこんなんいたな……みたいな感じである。
◇ ◇ ◇
それから。
なんやかんやあって。
まー、色々あったよ。
俺は無事、俺だけの体を手に入れた。
特にチートみたいなもんはなかったが、ケモネキとのコネがその代わりみたいなもんだろうか。
漫画で読んだ冒険者みたいな感じの生活をしている。
アニキはなんとまだケモネキと同居していた。
「バカゲーのプレイ実況を見てるような感じかなあ。ゲームもバカ騒ぎならプレイヤーもバカ騒ぎの、薬でもキメてんのか? みたいなやつ。ネキちゃんが配信者なら僕は今頃腹抱えてめっちゃスパチャしてるよ」
とのこと。
まだもう少し見ていたいそうだ。
なるほどわからん。
ケモネキは寿命いっぱい楽しくやるさ、とあの洞窟を拠点に元気にハーレムを拡張している。
遠征して別の群れにカチコミに行っては好みの雄トラを拉致ってくる正真正銘のケダモノだ。
でも拉致られたトラもなんだかんだで居付くんだよなあ。
洞窟のある山の環境はいいから。
ボスにウザ絡みされるのを我慢すればメスも居て繁殖できるし、生きていくのに困らない。
そうなんだよ、知らん間にメスも増えてた。
流れもののメスを普通に保護して普通に放置してたら拉致ってきたオス達が面倒見て、そのうちメスの中でも序列が決まって、みたいな。
ネキはメスのことはどうでもいいから、アニキが面倒見てるらしい。
メスのリーダーはトラ代の嫁だそうだ。
いいのか?! それ浮気では……いやネキが勝手にトラ代を嫁にしたんだから……わ、わかんねえ。
更にその後。
10年が過ぎたあたりでさすがに寿命が見えてきたということで、アニキは別のアニキだけの体に移った。
俺達はネキの寿命がくるまで近場で暮らした。
虎の寿命が先に来るのはしょうがねえ。
一応な、本当にクソだが元の世界から一緒に来た3人だけの仲間で、家族みたいなもんだからよ。
俺もアニキも看取ってやるつもりだった。
……だったんだが、全然死ぬ気配がない。
賢者とかいうジジイを連れてきてネキを指さしてアレだアレと見てもらったら、
「は? 聖獣様じゃろ? 寿命なんてあるか」
と答えられ、俺とアニキは突っ伏した。
うっそだろ!!
あのクソアマがこのままこの先この世界に君臨するのか??!
同じ世界から来た者として管理責任を感じた俺達は、本格的に山の麓での生活を考えた。
ケモネキの縄張りなので大型モンスターに襲われることはない。
そんな安全地帯があるとなれば、そりゃ人も来る。
てなわけで、あっという間に立派な村になった。
性獣……じゃなかった聖獣が入った山は本来のパワーを発揮するとかなんとかで、トラ達はオスもメスもムキムキになり、かといってあまり大量に肉を食わなくても大丈夫になったので、数が増えても賄えるらしい。
パワースポットである山を狙って実に様々な襲撃者がやってきたが、俺達は全て撃退した。
俺達を出し抜いたとしても山でトラ子にブチ転がされるし、トラ子を抜いてもトラ代withメス軍団がいる。ネキは人間に興味ねえから即殺だし。
襲撃犯が異世界トラだとハーレムが増える。南無。
他の一般動物達も大型化したり特殊進化? したりしたもんだから何かトクベツな素材がどうとかで、冒険者やらハンターやらが来たけど、勝手は許さねえ。
ここはネキの縄張りで、つまり俺達の縄張りでもある。
俺達の食い扶持が第一だ。
素材とかは聖なる山のナンタラとか言ってアニキが売ってきて、儲かった。
その金で村を発展させた。
ゴチャゴチャ難癖つけてきた王国もあったな。
追い返してたらついに軍が来たんだけど、その中にいた使役獣のトラにケモネキが襲い掛かってアッー! とかあったな……
『はー? なに、嫁献上それとも生贄? あっ、それともくっころ追加投入でござるか! あざーっす! ごっつぁんです!!』
「ネキちゃん戦場のド真ん中でウチャコヌプロするのはやめて!!」
「立ち食いすんじゃねえよ!! 持って帰って家で食え!!」
もちろん王国軍は敗退した。
使役獣のトラは……ハーレムに追加された。
「どうして…」みたいな目をしてて可哀想だなとちっとは思ったが、負けたオメェが悪い。敗者に人権はない。ないんだよ。だからこの話はここで終わりなんだ。
俺は普通に、ってのもヘンだが、それなりに山あり谷ありのまっとうな人生おくった。
アニキは賢者の弟子とかいってあちこち引っ張り出されては帰ってくるをやってた。
いつしか、ケモネキより俺達の寿命の方が先に尽きるんじゃねえか? ってんで一応ネキに挨拶に行ったんだが、
『それってそのボディの耐用年数ってことでしょ? じゃあまたこっち戻ればいいじゃん』
「は?」
「できるのそんなこと? ……あ、できる、かも」
『まあその時になったらさ。満足してたらそれでいいけど、やり足りない気がしたら戻ってきなよ。しんどかったらしばらく寝てればいいし』
「実家かよ」
「そっか、実家かあ……」
あはは、と笑ったアニキはどっか力が抜けたようで、すっきりした顔になってた。俺も同じ顔をしてたと思う。
そんな感じで俺達はバラバラになったりまた集まったりして、飽きて満足するまでこの異世界を冒険した。
ネキの夢である「オス虎を孕ませたい」は……ああ、うん、まあ……な?
いつか話すよ。
おわり
===あとがき===
ヤンキー君は最初こそオラついてましたが性癖はごく普通の子だったので普通に落ち着いていきました。
アニキさんは性癖はゆがんでましたが社会性があったので賢者ロールを楽しんでました。
後に賢者の村とか呼ばれてました。
戦場で使役獣トラと相対して壮絶なデンプシーロールを繰り出すネキ
「まっくのうち!まっくのうち!」
「まく……アニキ何だそれ」
とか、
敵の女騎士団長を腹毛拷問で脳破壊した後、紆余曲折を経て、山の麓に「神聖モフリシャス教国」を建国
とか、
獣人族で虎っぽい種族の青年と知り合って色々あったスズ君がだまくらかして山に送り込んだら彼から「お前を殺す」とだけ書かれた手紙が来たり
とか、
愛と勇気と交尾に満ちた余太話でした。
連載にするか最後まで迷いましたが、ひとまず短編でまとめました。
お読みくださりありがとうございました。
トラ転!~虎に転生した俺達はケモノの王国(ハーレム)を目指す(強制) 鷹山リョースケ @ryousuk
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