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アルルが本当に帰依したかったのは、女神様だった。
そこに行き着くまで、赤の他人の私でさえも長い時間を要した。
身内のアルルが消化しきれなかったのは当然だ。
かつての唯一神。
アルルママについては、実はまだ客観的に考えられるまでには
至っていない。半永久的にムリそうだ。
『世の中には母娘関係に不向きな人がいる』
永い時を経てようやく私が辿り着けた、陳腐な結論だ。
『親になるのを免許制にした方がいい』
そんな持論を展開する知人がいるが、別にアルルママは親に向かなかった
わけではない。
ただ女の子を持つ母親には適していなかった。
長男の兄を可愛がり、末っ子の弟を溺愛したというアルルママは、娘との
向き合い方だけを知らない人だった。
どう接したらいいかわからなかったんだろう。
大人の目で見るアルルママは、無惨なまでに不器用な人だ。
同性の友達がほぼいない。だからママ友づきあいが絶望的に厳しかった。
同性の他人と触れ合うトレーニング量が圧倒的に足りない状態で、娘の母を
やるのはそりゃあキツかったろう。
お寺の奥さんで、保育園の園長先生。
地元では有名なアルルママは、冷たくて傲慢な人に映っていた。
忙しかった?
そうだよね。ずっと忙しくて、まだまだ忙しいよね。
悲しくて痛ましいけれど、母にしか埋められないものが我等ヒト科ヒト属には
あると思う。そこを満たしてもらえないと人間の、根っこの部分がグラついてしまう。
そんな子供はその先の人生がものすごくしんどい。
何がダメって、アルルママは娘に『愛されていない』と確信させた点が
致命的なんだと思う。
せめて疑問形くらいに留めてくれてたら。
嘘でいいから、娘も大事な我が子だって詐称しといてくれたら。
演技でよかった。棒読みでもよかったのだ。
過ぎし日の、アルルの神様。
アルルには本当の神様。
きっとアルルママにも葛藤はあったはずだ。
アルル家なりに、娘を取り戻す努力をしたはずだ。
そう思う。そう思いたい。
本当は、話なんて両方聞かないとわからない。
それに目の前の問題やもう起きてしまったことを、誰かや何かの所為にしては
いけないんだろう。
でも。
まだ私はアルルを覚えている。
お弁当箱を持っていなかったアルル。
箸を使うのが壊滅的にヘタで、そんなアルルとご飯を食べてたから。
すごく可愛いのに微かに受け口で、幼少期に歯医者さんへ矯正に連れて
行って貰えなかったであろうアルルの横顔を、いつも見ていたから。
だから、有償の似非神さまに入れ揚げたアルルを自己責任だと断じられる程、
私は成熟しそうにない。
だから、アルルに肩入れしてしまうこの感情は、きっと安直に元女神様に
共感してはならないのだ。
せめて、私くらいは。
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