妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる

甲賀流

第1話 これが中年探索者の生き方だ


 

「三枝(さえぐさ)、悪いけどお前、このパーティから出てってくれ」


 そう言われた瞬間、俺は――ああ、ついに来たかと思った。


 探索者協会。

 クエスト受注のカウンター前。

 今日も多くの探索者が集い、言葉を交わす場所。


 そんな大っぴらな空間で、俺――三枝 恒一(さえぐさこういち)と、探索者パーティ〈アケボノ〉の三人は向かい合っていた。


「ど、どうして……」


 分かってはいた。

 いつかこのパーティから追放されることは。

 ただの予定調和だと思えるほど、俺は今のこの現状を十分に把握できていた。


「どうしてって……そんなこと、言わせんなよ」


 リーダーの男、吉祥寺(きちじょうじ)が深く息を吐いた。


「てか三枝、自分で考えて分かんないかな? どう考えても、アンタはウチらの足手まといにしかなってないじゃん」


 吉祥寺の代わりにそう答えるパーティメンバーの紅一点、柊(ひいらぎ)が嘲笑気味にそう放つ。


 パーティを組んで五年。

 当時は探索者なりたての初心者だった彼ら。

 一方で俺は探索者経験もそれなりだったため、あれこれ指導をさせてもらっていた。


 気づけばパーティを組んで探索する仲間になっていたわけだが、彼らの成長は本当に凄まじく、たった五年で全員がAランク探索者にまで上り詰めた。

 あの頃から現在まで、Cランクを保持している俺とはそもそも才能が違うかったようだ。


 だからいつかこうなることは分かっていた。


 当時に比べて、会話も減った。

 向けられる視線も鋭くなった。

 言葉遣いが乱暴になった。


 それでも――


 まだ彼らに必要とされていると、


 そう思い込むしかなかった。


「たしかに探索者を始めた当時は、三枝さんに色々教えてもらって……凄く助かりましたよ? でも今はぶっちゃけ、邪魔でしかないんですよね〜。正直年齢も、僕たちより一回り近く上だし……合わないんですよね、話も」


 パーティで一番優しい彼、市村は出会った頃と同じ柔らかい物言いで、的確に核心をついてくる。


「はは、市村が一番キツイこと言ってるし」


「……アンタに探索者のことを教えてもらったことは感謝してる。だけど、いつまでもその温情を引きずってると、俺たちはこれ以上強くなれないんだ。分かってくれ」


 吉祥寺の瞳は、ブレずにまっすぐと俺を捉えた。

 

 そこには軽蔑や同情は一切として感じない。

 まるで低難度クエストの達成報告を受付で行っているかのような淡々さだった。


「……わ、分かった。皆、元気で」


 俺は〈アケボノ〉背を向け、出口へと歩き出す。


 背後から元パーティメンバーの明るい声、安堵の息、他探索者からの刺すような視線を感じながら、俺は探索者協会を後にした。


 ちょうど正午を回った頃、街は俺の心と相反して賑わいを見せている。

 

「……ったく、そこまで年齢差ないっての」


 今頃になって、市村に対して反論が溢れる。


 本当は九つ。

 今の彼らが25歳なので、俺は今年34だ。

 探索者としてはすでに成長限界に達している年齢。

 実際、彼らと出会った29の頃から、ステータスに大きな変化はないからな。


 俺は改めてスマホ内蔵のステータスアプリを見て、ため息をつく。 



 ――――――――


 探索者情報


 名前:三枝 恒一(さえぐさ・こういち)

 年齢:34

 探索者ランク:C

 所属:フリー(※直前まで〈アケボノ〉所属)

 主武装:片手剣

 戦闘タイプ:近接・剣術型



 基礎ステータス


 ・筋力:41

 ・耐久:44

 ・敏捷:46

 ・器用:58

 ・感知:61

 ・魔力:12



 その他ステータス(自動算出)

 ・命中精度:A−

 ・反応速度:B+

 ・継戦能力:B

 ・瞬間判断:A

 ・対人戦適性:A−

 ・対魔物戦適性:B



 スキル/特性


 固有スキル


 〈剣技最適化〉

 無駄動作を自動的に減衰

 消費体力 −8%

 長時間戦闘時の精度低下を抑制


 習得スキル

 ・片手剣:中級

 ・体捌き

 ・危機察知

 ・迎撃姿勢



 評価コメント(協会AI)


 総評:

 技術・判断力は高水準。

 ただし肉体ステータスの成長余地が低く、

 高難度ダンジョンでの将来的な戦力としては頭打ち。


 推奨運用:

 後衛護衛/新人指導補助/安定攻略要員。


 注意:

 単独での高リスク行動は非推奨。



 ――――――――



 今の俺の限界値。

 これは数日前に測った、探索者協会のステータス測定結果。


 Cランクとしては平均レベルの値。


 今まで片手剣だけでやってきたため、魔力はそれほど高くない。

 かといって他近接に必要なパラメーターが高いかと言われればそうでもないため、総評に書かれている通り俺がこれからさらに成長して、高難度のダンジョンに行くのはほぼ不可能に近いだろう。


 だったら俺のできることはただ一つ。

 簡単なクエストだけを受注し、細く、地道に探索者という仕事にすがり付くしかない。


 東京の近郊、堺城(さかいしろ)市。

 俺はその中心にそびえる塔を見上げた。

 岩を積み上げたような、無骨な建造物。


 その塔は雲を突き抜けるほど高く、五十年前、突如地面から姿を現したそれは――今も順調に上空へ伸び続けているらしい。


 総称、ダンジョンタワー。

 そしてここ堺城市が〈探索者の街〉と呼ばれる所以となっている。


 単純な名称。

 だが内部構造は複雑で、今の地球の技術では解明できないものばかりだと、テレビで学者のような人が言っていた。


 現在の最高到達記録は三十九階層まで。

 それより先へ行くべく、最前線の探索者が日々攻略にあたっている。


 一方で俺の立ち位置は、ずっと同じ。

 身の丈に合った戦い方をするなら、Cランクの俺はせいぜい十階層以下。


 モンスターも弱く、危険も少ない代わりに報酬もそれなり。


 採取クエストを中心に回して、装備の整備費と消耗品代を引き、家賃と食費を払えば、手元に残るのは「次も生きていける」程度の金だけ。


 余裕はない。

 貯金も増えない。

 未来に備える余白も、ほとんどない。


 それでも――生きてはいける。


 堺城市はそういう生き方を許してくれる街だった。


 だからこそ俺はこの街に、探索者として留まり続けている。


 そんな時、


 帰り道に通った駅前広場に設置された大型モニターがざわめいた。


『はいはーい! 三十六階層に頻出するサイクロプスの倒し方講座〜!』


 画面の中では、20代くらいの女性探索者が自身の数倍以上大きなモンスターと向かい合っている。


『戦闘中だ。気を抜くなよ』


『分かってるって〜。でもせっかくこれだけ視聴者さんがいるんだからさ、多少は盛り上げないと』


 どうやら最前線の探索者パーティがタワー上層の攻略に挑んでいるらしい。


 画面の中では派手なエフェクトと軽快なトークを交えながら、若い探索者たちが目の前のモンスターをなぎ倒していた。


『こんな感じでバーッと斬ったら、誰でも簡単にサイクロプスを倒せるよ〜』


『いやいや、全然講座になってないから』


『え、そう?』


 彼らはモンスターの消滅エフェクトの傍で、何事もなかったかのように談笑を交わす。


 画面に右下に表示されている視聴者数は、すでに五桁を超えていた。


 これが、最前線の探索者。


 これが、ダンジョン配信。


「すげぇな……」

「やっぱトップ層は違うわ」


 通行人の声が、否応なく耳に入ってくる。


 自分には、あんなの無理だ。


 強いだけじゃない。

 喋れて、盛り上げられて、魅せ方を分かっている。


 あれだけ有名な配信者になれたら、今の人生なんてきっと簡単にひっくり返るんだろう。


 金も。

 強さも。

 地位も。


 全部が手に入る。

 

 でも、無理だ。


 俺にはあんなユーモアもない。


 流行りの言葉も視聴者向けのリアクションも分からない。


 そもそも実力が足りない。


 だから俺は地道に目立たず無理をせず、浅層のダンジョンで戦っていく。


 それが今の俺、Cランク探索者――三枝恒一にできる唯一の生き方なのだ。

 




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




いつも唐突な新作失礼します。

とりあえず20話以上、キリのいいところまでは間違いなく書く予定です。

毎日投稿もできるだけ頑張ります💪


いつも通り、週間総合上位に食い込むようであれば、続きも頑張って書きます。


おもしろいと思って頂けましたら、★や作品フォローでの応援よろしくお願いいたします🥺

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