第2話 じゅんび
わたしは今、ホテルにいる。
特別きれいでも、特別汚くもない。
白い壁、安い床、最低限の家具。
ここでも「わたし」がいる痕跡は、あまり残らない。
両手で数え切れないほど、ダンジョンに応募した。
地元。近隣。少し遠く。
参加条件を満たしているものは、全部。
結果は、ほとんど同じだった。
不採用。落選。抽選漏れ。
わたしの名前は、希薄 空。
自分で言うのも変だけど、見た目は悪くないと思う。
あるものは、あるし。
鏡の前に立てば、それなりに形にはなる。
でも。
影が薄い。
話しかけられない。
話しかけても、すぐ忘れられる。
集団の中にいると、自然に数に含まれなくなる。
無視されることばかりだった。
趣味は……なんだろう。
Wikiを読むこと。
設定資料を読むこと。
世界観を追うこと。
無趣味かもしれない。
そんなわたしが、ダンジョンに参加しても。
たぶん、そのままフェードアウトする。
誰にも覚えられず、
何も残らず、
最初からいなかったみたいに。
それは、少し。
――寂しい。
だったら。
記憶に残る姿になろう。
そう、思ってみることにした。
数日後。
注文していたものが、まとめて届いた。
包帯。
黒いコルセット。
フレアスカート。
血糊。
配信するつもりはないし、
カメラに映らないと思う。
でも。
記念だし。
どうせなら。
目立つ格好をしたい。
箱を開けて、床に並べる。
……うん。
これは、いい。
胸の奥が、少し高鳴る。
厨二病になろう。
そう、決めた。
包帯を巻くなら、傷がないと様にならない。
意味もない。
そう思って、買ってきた剃刀を取り出した。
……。
少し、考える。
まだ、判断が早いかもしれない。
今日は、やめておこう。
代わりに、血糊を身体に浴びるだけにした。
あんまり汚さないように。
床に新聞紙を敷いて、浴室へ行く。
お風呂場で、血糊を広げる。
赤い。
思ったより、ずっと赤い。
肌に付くと、少し冷たい。
……わ。
包帯を、ゆっくり巻いていく。
胸。
首。
脚。
鏡に映る姿を、じっと見る。
んん……///
背徳感が、すごい。
高揚する。
これを着て、外に出る。
誰かに見られる。
話しかけられる。
……かもしれない。
それを想像するだけで、くすぐったい。
名前も、決めないと。
せっかくなら、かっこいいのがいい。
呼ばれたときに、少しだけ高鳴る名前。
考えておこう。
当日が、楽しみだ。
話しかけられるかもしれない。
もしかしたら、連絡先も聞かれるかも。
……えへ。
そんなことを考えながら、
わたしは包帯の端を、きちんと留めた。
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