百物語の怪異

「ってな感じでね、めーっちゃ楽しかった!」


由香が満面の笑みで締めくくると、コメント欄がざわついた。


『どのへんが楽しかったのか説明して?』

『お前、怪談してる自覚ある?』


困惑の声にも構わず、由香は目を輝かせた。


「あんなにリアルでエグい幻覚、なかなか体験できないって! マジで最高!」


ガッツポーズを決めながら、興奮気味に言い切る。


その横で、さゆりがぽつりと指摘した。

「由香ちゃん、ロウソク消さなきゃ」


「おっとっと、忘れてたー!」

由香は深呼吸をひとつして、勢いよく吹き消した。

「はいはーい、百物語の怪異さーん、どうぞー!」


ロウソクの火が消え、辺りは一気に闇に包まれる。

しばらく待ったが、何も起きない。


ふとタブレットに目を落とすと、一つのコメントが目に入った。


『さっき由香ちゃんが止めたのが、その怪異じゃない?』


「えっ!? あれー!? 言ってよー、『百物語から来ました』って! そしたら譲ったのに!」


慌ててランタンをつけて、ぐるぐると周囲を見回す。


「ごめんってばー! 戻ってきてー!」


けれど返事はない。静かな夜が広がるばかりだった。


「てかさ、九十九話で出てくるのってズルくない? あと一話だったんだよ?」


そのとき、新たなコメントが流れる。


『さゆりちゃんが二つ話して、二本消したからカウントが二つ進んだんじゃない?』


「えぇ~!? あれナシって言ったじゃん! カウントしないでよー!」

ぶーっと唇を尖らせてから、大きく息をついてカメラを見つめた。


「……ま、いっか。今日も楽しかったよ。みんな、ありがとね!」

にこっと笑って手を振る。


「このあとは、あーしとさゆりちゃんで怪バナしてから寝まーす! じゃ、ばいばーい!」


ふたり並んで笑顔で手を振り、配信終了ボタンに手を伸ばした――その瞬間、コメント欄がざわつく。


『怪バナって何?』

『謎のワードを残すな』


由香はピタリと動きを止め、ふふっと笑った。


「怪バナは怪談話のことだよ! じゃーねー」

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