さゆりの怪談――小学校

ある日、さゆりは空をふわふわと漂っていた。

特に目的もなく、何か面白いものがないかと、気ままに空を滑っていた。


そんな時ふと、眼下に古びた木造校舎が見えた。

夕暮れ時、生徒たちが帰り始める頃合いだ。


しかも――木造のくせに三階建て。めったに見かけない造りだった。


珍しさに惹かれたさゆりは、姿を消して三階の廊下へと壁をすり抜けた――その時。


三人の男子小学生が、賑やかに廊下を駆け抜けていく。

その様子がなんだか楽しそうだったので、さゆりはその後をつけた。


彼らが向かったのは女子トイレ。ためらう様子もなく中へ入り、一番奥――三番目の個室の前に立つ。


「ここだよな?」

確認し合い、ノックを三回。


「「「花子さーん!」」」


しばしの静寂。

すると――


「はーい」


個室の中から、少女のような声。

その瞬間、三人は顔を見合わせ、入ってきたドアに飛びついた。


「マジで返事きた!?」「に、にげろーっ!」


ガチャガチャとドアノブを回すが、一向に開かない。


「おい!やべえって!」「なんで!? 開かねぇんだけど!」


――ドガァ!


轟音とともに扉が吹き飛び、さゆりの体をすり抜けて背後の壁に激突した。


呆然とする彼らの前に現れたのは――

赤い吊りスカートに白いブラウスの少女。

だが、その姿は明らかに成長期を過ぎていた。


スカートは丈が足りず、太ももが露わになっている。

ウエストには幅を広げるための切れ込みが入れられ、無理やり履けるよう手直しされていた。

肩まで届かなくなった肩紐は、前で結ばれてベルト代わりにされている。

ブラウスも身体に合っておらず、膨らんだ胸のせいでボタンがいくつか留められず、袖は突っ張って七分袖のようになっていた。


怒気を帯びた表情で、花子はゆっくりと歩み寄ってくる。


「……またかよ。呼ぶだけ呼んで逃げるつもりか。何がしたいんだ、オメェらは」


低く唸るような声。子どもたちはただ震え、声すら出せない。


花子はため息をつき、ひとりの頭を軽く叩いた。

不意を突かれたその子は、びくっとして泣き出してしまう。


「ごめんなさい……」

震える声に、他の二人も続く。


「理由を言えって言ってんだよ」


今度は残りの二人の頭に、軽くげんこつを落とす。

三人とも、しゃがみこんで泣き出した。


「……ったく」

花子はしゃがみこみ、顔を近づける。

「おら、こっち見ろ」


一人がおずおずと顔を上げる。残る二人は硬直したままだ。


「こっち見ろって言ってんだよ」

花子はうつむく二人の顎をつかみ、無理やり顔を上げさせる。

「泣いてりゃ許されると思ってんじゃねえぞ。お前らんちのトイレにも行くからな。夢にも出るぞ。覚えとけ」


すっと立ち上がり――


「さっさと帰れ。用もねぇのに呼ぶんじゃねぇ」


そう吐き捨てて個室に戻っていく。

が――思い出したように振り向いた。


「他の奴らにも言っとけよ! いいな!」


そして個室へ入り――その姿は、すうっと消えた。


「はいっ!」


小学生たちは口々に叫ぶと、一目散に逃げていった。


「……こわぁ……」

トイレの壁を抜けて外へ出たさゆりは、思わず呟いた。


七不思議を探すつもりだったのに、初っ端で疲れてしまった。


夕焼けに染まる空を、ふわりふわりと漂いながら――

さゆりは深いため息をひとつ、ついた。

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