第38話

📘 第38章:作戦肆時



(終わりにする。この偽りの世界を――。)



🔷【2051年2月末 深夜 – NOISE仮拠点】


地下格納庫。


武装班車両前で、真田が最終点検をしていた。


「装備確認、呼吸安定、脈拍チェック。落ち着け。心臓を早めても撃ちは速くならない。」


隊員たちは静かに頷き、銃器と防弾ベストを装着していく。


(……全員、帰ってこいよ……。)


胸の奥で小さく呟いた言葉は、誰にも届かなかった。



医療班エリア。


甲斐は鎮静剤とECHO抑制剤のボックスを確認していた。


(……これで、翔真が暴走しても……)


震える指先を見つめ、奥歯を噛み締める。


(頼む……使わずに済んでくれ……。)


(……俺は、まだ終わっちゃいない……。)



🔷【情報班 – 佳乃】


別室では佳乃が、ミカゲが残したコードを最終解析していた。


画面には《ルート安定化 – 99%》の文字。


(……完璧じゃない。まだ1%不確定がある。)


無数のコードラインに走る指が止まらない。


(でも、やるしかない。これが私にできる全部だから……。)


背後で透也の声がした。


「佳乃。あと10分だ。」


「分かってる。」


短く返し、再び画面に視線を戻す。


(ミカゲ……見てる?“gyudon”は負けないよ。絶対に――)



🔷【作戦車両 – 透也】


武装車両後部。


透也は座席に腰かけ、静かに目を閉じていた。


(光生……やっと、ここまで来たよ……。)


背中には、NOISEリーダーとしての重み。


だが胸の奥では、一人の兄として震える声が響いていた。


(……お前の娘を……守るからな。)


ゆっくりと拳を握り、無線機に手を伸ばした。


「全班、最終接続確認。」



🔷【区域ナースステーション – 灯】


同刻。


改訂者専用区域ナースステーション。


灯は白衣の胸ポケットに、コードメモリを忍ばせていた。


(今日……この夜で……終わらせる。)


震える膝を抑え、息を整える。


視界の端で、沙耶がモニター越しに新太と月陽を見つめている。


「……完璧でいてくれればいいのに。」


小さく呟く沙耶の声が、どこか切なかった。


(何で、今日に限って……ここにいるの……。)


灯は背筋を伸ばし、端末にアクセスを開始した。


《内部ルートオフライン化 – standby》



🔷【黒峰家 – 前兆】


居室。


月陽は浅い眠りの中で身を縮めていた。


「……パパ……やめて……」


寝言の震え。


新太は、その隣で小さく息を吐きながら座っていた。


(……守らないと……この子を……。)


だが、胸の奥を掴む黒い痛みが消えない。


(でも……誰から……?)


記憶の奥で、声が聞こえる。


(――逃げて。真羽を連れて……)


誰かの声。優しく、震える声。


「……誰だ……?」


呟いたその瞬間。


室内のECHO警報ランプが、淡く赤く点灯した。



🔷【作戦カウントダウン】


《T-minus 00:05:00》


NOISE車両内部。


全班が無線を確認する。


「初代おっさん、武装班準備完了。」


「医療班、準備完了。」


「情報班、ルート接続最終確立中……行ける!」


透也は短く頷いた。


「……奪い返すぞ。」



🔷【侵入開始】


《T-minus 00:00:00》


佳乃の指が最後のキーを叩く。


《内部警備オフライン化 – success》


「ルート解放!10分間、廊下セキュリティダウン!」


真田が無線で指示を飛ばす。


「突入班、展開!」


格納庫の扉が静かに開き、夜気が流れ込む。


防音処理された足音が、冷たい床を叩いていく。


透也は車両から降り立ち、月光に照らされた施設を見上げた。


(……光生……見てろよ……。)


「全班。――侵入開始。」



(終わりにする。この偽りの世界を。


そして、誰も……置いていかないために――。)



🔚 第38章・完

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