記録02 「五十番」
「お前は今日から五十番だ」
親に捨てられ名前を失った少女は、人間達の足元を歩く。
地面は硬く冷たかった。
両手を鎖で繋がれ、首枷までつけられている。人間に鎖を引っ張られ、連れてこられた場所は暗くてあまりよく見えない。ただ、鉄の匂いと叫び声が耳に響いていた。
少女、五十番は何も知らないまましゃがまされた。
背後で何かが動く気配がし、次の瞬間、背中に激痛が走る。
翼を全てもぎ取られたのだ。
叫ぶ間もなく大きな人間は、五十番の口を塞ぎ、申し訳なさそうな言い方で
「悪く思うなよ。これは人間と悪魔の契約で下級悪魔の翼を貰わなきゃいけねぇんだ。」
五十番は声も出せず、ただ静かに泣いていた。
その後とある人物に呼ばれた。男の低い声に体がビクッと跳ねる。男は冷たい目線で自身の頬に手の甲を当てながら五十番を見下げた。
「よく来たな、五十番」
ふと彼女は見上げる。見覚えのある顔だった。
髪の色は老人のような白髪で、外見年齢は30代とみえる。左目にかけて傷があり、その左目は右目と違い色が薄かった。あの目…あの時、彼女を見にきた時より、あまりに冷酷な目で見てくるものだから恐ろしく見えた。
角が生えた者が言う
「死龍様…その小さい小娘はどう見ても役に立ちそうにないかと…」
見た事のある男の顔の名前、彼女は初めて聞いたが本能的に頭の中にしりゅうと刻み込んだ。
死龍天魔はその言葉を放った者を睨みながら
「私は弱い者が嫌いだ。部下達の戦力が高いほど私の見る目が変わる。お前には期待している。」
そう告げると人間に連れていけと言わんばかりに、指を動かす。彼女は人間に引っ張られどこかへ連れて行かれた。
奴僕の魔
下級悪魔は上級悪魔とは違い、人間の元で働かされる。それは人間にとっても、悪魔にとっても、まるで地獄の様だった。
五十番が連れて行かれた場所は、悪魔と悪魔が戦う闘技場「マーダー・ステージ」
死龍が好む殺し合いの場だ。 大きな人間は五十番を雑に扱いながら
「お前は死体の後処理をしろ。戦うにはまだ早いからな」
と言いその場を立ち去ろうとする。
――次の瞬間大きな人間の顎に、強い足蹴りが叩き込まれる。
五十番がやったのだ。
「ーッッなんだ!?…あ!んの餓鬼ッ暴れやがったな!大人しいフリしやがって…」
蹴った勢いで小さき体は素早く逃げ出した。
「チッこれだから小悪魔は!」
大きな人間は咄嗟に腰につけていた木棒を抜いて、持ち上げながら追いかけていった。
「…ってことがありまして…今あいつを縛り付けております。」
人間は荒い息を吐きながら死龍に報告する
死龍は「ほう」と一息ついてからニヤリと笑う
「今回は見る目が良かった…あやつは私の期待を裏切らなかったのだ。…おい、五十番をそのまま闘技場へ出場させろ。これはいい戦いになる」
死龍の見立ては正しかった。いや、正式にいえば死龍と契約している悪魔の見立てが正しかったのだろう。少女を奴隷にすると判断したのは、その悪魔だったからだ。
あれから、数年経っても戦いに勝っては彼女は生き残り続けたという。
ただ見た目も精神も変わらないことを除いては。
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