プールアイランド

Nenui

第一話 プロローグ:王のいない国

此処は、かつて日本だった場所だ。


西暦二一二〇年。


この島国の心臓は、人の手から機械の手へと移り変わった。


産業の自動化は極限まで推し進められ、労働者は用済みとなった。失職者の群れは都市を覆い尽くし、貧富の格差は天と地ほどに開いた。


絶望が飽和したその時、一人の男が現れた。


自らを『貧困の王』と名乗ったその男は、飢えた民と家来を率いて蜂起した。


それは革命だった。


彼らの刃は、支配者たちの喉元――首相官邸の目の前まで迫ったと言われている。


だが、歴史は残酷だ。


裏切りによって王は処刑され、革命は一夜にして瓦解した。


そして、その恐怖が支配者たちにある決断をさせた。


「これ以上、薄汚れた貧民と同じ空気を吸うことはできない」と。


数年後、太平洋上に巨大な人工島が浮かんだ。


その名は『満島(みつしま)』。


国家の全機能を移転させ、選ばれた富裕層と、世界最高峰の技術を持つ『乃乃(のない)重工』の社員のみが住まう、犯罪率0%の国塞都市。


そこは、約束された楽園だった。


取り残された列島はどうなったか。


主を失った国土は無法地帯と化し、機械たちが資源を食い荒らし、環境制御装置の停止によって砂漠化が進んだ。


世界中から犯罪者が逃げ込み、親は子を売り、孤児は泥水を啜って生き延びる。


かつて日出ずる国と呼ばれた島は、もはや地図上の形すら保っていない。


世界中の吹き溜まり(プール)。


見捨てられた地獄。


人々は蔑みと諦めを込めて、この島をこう呼ぶ。


『プールアイランド』と。


これは、そんな砂と鉄錆に覆われた世界で、それでも天を見上げる少年の物語である。

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