【2】


 オレは今日、不思議で異常な校則のある薄池高校に、初めて登校した。

 初めての登校――――とは言っても、新学期初日とか、入学初日とか、そういう意味ではない。

 桜は咲いていないし、大汗をかくほど暑くもない、雪の気配もさらさらない。

 むしろ、夏の暑さが過ぎ去り、少々肌寒く感じる冷たい風が冬の到来を感じさせる季節。

 周囲に立ち並ぶ木は、桃色の桜ではなく、紅色の葉で埋め尽くされている。

 紅葉――すなわち、今の季節は秋だ。

 そんな秋に、オレは今こうして、目的地である薄池高校へ向かって、初めての登校をしている、という訳だ。

 早い話が、転校してきた、ということである。

 オレは今日、転校生として、初登校日を向かえているという訳なのだ。

 秋――という、中途半端なこの時期に。

 食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、そして……転校の秋。

 うん、最後のは耳馴染みが悪いな。何せオレが今、適当につくった造語である。創造主たるオレ自身に耳馴染みがないのだから、聞き覚えのある人間などいるはずもない。


 さて、そんな風に、バカみたいなことを考えている内に、通学路の半分を超えたところまで到達した。

 ここまで来ると、他の生徒達もチラホラと姿を見掛けるようになる。

 不思議で、奇妙奇天烈で、奇妙な校則のある薄池高校の制服を着た生徒達の姿が……チラホラと。

 そしてそれを見て、この学校に纏わる噂が真実であると確信できた。

 見掛ける薄池高校生全員が、坊主頭なのである。

 スキンシップの激しい挨拶を男らしく交わしている男子生徒達も。

 高い声で、キャーキャー言いながら挨拶を交わしている女子生徒達も。


 男女問わず、一人の例外もなく、皆、坊主頭なのである。


 他の生徒達は気付いていないのだろうか?

 薄池高校生ではない、周りの人間から、ヒソヒソと、まるで痛々しい物を見る目で、見られていることに、気付いていないのだろうか?

 まぁ、気付いてはいないだろうな。

 気付いていたとしても、気にもしていないことだろう。


 何故ならば、だからだ。


 はてさて、こうなってくるとカツラを被って来て良かった。

 坊主頭のカツラを。

 オレの白髪の短い髪を、覆い隠しておいて良かった。

 郷に入っては郷に従え。

 坊主頭が常識化されている、この学校で、一人だけ髪を生やしていたら、どんな目に合うか分からない。

 秋で良かった……夏だったら、カツラを被ると蒸し暑くてたまらなかったことだろう。

 それでも、カツラには違和感があり、鬱陶しいことには変わりない。

 一刻も早く……このカツラを脱ぐため。

 そして――この不思議で、奇妙奇天烈で、異常に校則に洗脳された人達を――一刻も早く、救わなければならない。


「君が転校生の――――白宮しろみや 龍正りゅうせいくんだね? 話は聞いているよ」

「……どうも」

「……うん。ちゃんと髪を剃ってきているようで何より。坊主頭は至高の髪型だからね!」

「……そうっすね」

「ささ、職員室まで案内しよう。入って入って」

「……お願いしまーす」


 坊主頭が、至高の髪型? そんな訳がないだろう。

 この間違った常識を――――幻想をために、オレは今日――この学校へと転校してきた。

 さて……こんな幻想に取り憑かれた、哀れな人物は果たして――どのような人物なのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る