正月ー家族という鎖ー

@distinguish

正月ー家族という鎖ー

 大前提、家族のことは好きだ。唯一の切れない縁で、これまでもこれからも懇意にする、するべき存在だ。

 それを念頭に置いた上で聞いてもらいたいのだが、正直、葬式、結婚式、親戚の集まり、お盆、正月。全て煩わしい。家族と接するのは、リップサービスと割り切っている自分がいる。

 この心持ちになったのは、私の幼少期の人格形成に端を発する。


 私の家族と幼少期について。私の兄弟は上も下も、結構年齢差があるため、ほとんど同居人という印象を受けた。それを決定づける事例として、私は誰一人として兄弟のLINEを知らない。つまり、家庭に同年代気の置けない人物がいなかったのである。

 そういうわけで、学校の友人とばかり遊んでいたため、家庭との関係が希薄になった。

 さらには、兄弟たちがタバコを吸ったり、不登校になったりと、不良の気質を抱えていたために、私はかえって優等生の性格が構築された。

 加えて私は学業の成績も良かったため、家庭で「良い子」としての振る舞いをせざるを得ない状況に置かれたのだ。なぜ、せざるを得ないのかというと、それは家族との関係性の希薄さゆえに、その拙い繋がりを引き止めるためには、当たり障りのない言動をする他なかったためである。結果「良い子」を半ば強制的に演じることとなった。

 そして良い子は良い子でも、感情が読み取れない、喋らないタイプの良い子となってしまった。これは、家族の希薄な関係性から来る妙な恥じらいのためである。この恥じらいは、あまり関係性の築けていない友人と、街で出くわすといった類だ。

 私は家庭では喋らないが、学校では結構喋る。さらには、下ネタを会話に織り交ぜまたり、女装も進んで行ったり、ノリノリである。この気質は、つまり愛想である。この愛想が、家族の関係性の希薄さゆえに、妙な恥じらいが醸成されてしまい、家庭では発揮されないために、「喋らないが良い子」という家庭での、ステレオタイプの完成につながったのだ。

 まとめると、私は幼少期に、家族との関係が希薄になり、愛想のない良い子として、家族内部で認識が規定されたのである。この規定は、私を縛るつける鎖となった。


 話は現在に戻る。現在は正月、1月1日。私は今大学生一年生である。今年は例年とは異なり、大学の下宿から帰省してきてはじめての正月である。だから余計に恥じらいが醸成される。長い間顔を見せなかった子、孫が帰ってくると、暖かい微笑みを以て迎えてくる家族。それを理解して、規範的な子、孫像を見せる。その時に沸き立つ恥じらいだ。

 演技じみたはにかみを携えて、儀礼的な挨拶を家族、親族に施す。時給が発生しうる労苦に相違ない。しかし実際、私に時給は発生しているのである。しかも三食の賄いまで。

 お年玉。実家のご飯。もっと言うと、学費、家賃、仕送り。私は十分な程の施しを受けている。これは、先述した家族の鎖の一つだ。先程は、家族としての立ち位置を規定する鎖だったが、今回は、家族における利益の受与関係を規定する鎖である。この鎖は縛り付き、私の手足を傀儡のように動かし、リップサービスを実行させる。

 この鎖は、私に半強制的な感謝と、拭いきれない罪悪感を芽生えさせる。さらには、大学生という、非生産的な立場に身を置く自分への、怒りや悔恨、経済的な大人への憧れを募らせる。正月は自分が、親に生かされている、非生産的な大学生だと自覚する、つまり正気になる月だ。

 正気になった私は、この鎖を断ち切りたいという願望さえ生まれる。バイトをとにかく入れて、学費や家賃、携帯料金を払って、家族との損得をフラットにする。そして私は鎖に臆することなく、自由に生きるという気概を持ちたい。

 そこまで思いかけて冷静になる。正気になった途端、正気を忘れていた。本当はそんな勇気なんて無いくせに。自分が大学生という時間が有り余った状態であるから、些事を大事のように取り上げて、思考の中では賢い、雄弁な振りをして、実際に行動に表れるのは、碌に家族と話さない、脛かじりの親不孝だ。大学生なんて、偉くも、賢くも、自由でも、親しみやすくもない。暇なだけだ。


  話は逸れたが、私の心のうちはこうだ。正月という、家族、親戚が集まり、こぞってやれお年玉だ、やれおせちだと甘やかしてもらう時節は危険だ。鎖が潜んでいるから。

 一つには、希薄な家族関係の中で、喋らない良い子と規定づけられる鎖。その鎖に縛られながら、良い子を演じながら、喋らないことで親不孝、穀潰しと思われているのではないかという不安に駆られる。

 また一つには、利益の受与関係を規定づける鎖。その鎖に操られて、家族の生温い演技を行い、大学生という不甲斐ない立場を明確にさせ、自己嫌悪に陥らせる。

 最後に、私はこの鎖は解くべきではないと考える。その家族の最期まで狂おしく愛するべきだ。

 それでは皆さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


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