第30話 エンシェント系

目標の者はすぐに分かった。


デカイ。


サイズもデカイが、なにより魔力がデカイ。


警戒マックス! ここ十年で俺より魔力が多い奴を初めて見た!


ただ、魔力量が圧倒的に多いとはいえ、そこまで脅威を感じる必要はないかも知れないか? その理由は…


…相手は動きまわれない〝木〟だったからだ。


そこに居た——生えていたと言うべきか?——巨木は、もちろん普通の木ではない。直径十メートルはあろうかという幹に大きな〝顔〟が付いている。植物系の魔物。


鑑定結果は


【古代魔樹】エンシェントトレント


と出た。


マックスMPはなんと三百万超えである。


(ちなみに今の俺のマックスMPは六万を超えたくらいだ。森の中でおそらく上位に位置すると思われる魔物でもマックスMPは千単位。あの・・グレートオーガだって万は超えていなかった。もう俺より魔力が多い魔物は居ないんじゃないかと思っていたのだが、世界はやっぱり広かった。)


グレートオーガ「爺サン、久シブリ」


グレートオーガが声を掛けると、古代魔樹の目がゆっくり開いた。


古代魔樹「……おお、オマエか、鬼。故郷の村はみつかったのか?」


グレートオーガ「マダ、見ツカッテナイ」


古代魔樹「そうじゃろうな…。〝辿り着けた〟者の報告は、未だ聞いた事がないからの…」


グレートオーガ「…コノ猫モ、同ジ。迷子」


古代魔樹「…おや? 珍しいモノ・・を連れてきたな。絶滅したかと思っていたが……いや、そもそも妖精族に絶滅というのはおかしな話か」


「おいおい、いきなり色々つっこみどころがあるにゃあ。俺以外にもケットシーに会った事があるにゃ?」


古代魔樹「ちょっと前にはよく見かけたぞ? 最後に見たのは確か……二~三万年前くらいだったかの?」


「万年単位だった! それは少し前じゃないにゃ!」


古代魔樹「あ~…。 儂らの感覚ではついこの間なんじゃがの」


「スケールについていけんにゃ。おまえの樹齢はどれくらいにゃ?」


古代魔樹「正確にはもう分からんが、ざっくり言えば、およと二十億年くらいかのう?」


「気が遠くなる長さだにゃ。いや、この場合は〝木〟が遠くなると言うべきか?」


グレートオーガ「爺、長生キ。何デモ知ッテル」


「でも、鬼の故郷の場所は知らんにゃろ?」


グレートオーガ「ソウ、爺モ、故郷ノ場所、知ラナイ」


古代魔樹「確かにお前達よりは長く生きとるが、何でもは知らんぞ。見ての通り、儂はこの場所から動けんでの」


「まぁいいや。改めて……俺はカイトにゃ。あんた、名前は?」


古代魔樹「名前を聞かれるとは珍しい。まるで人間のようじゃな」


「俺はケットシーに生まれる前、人間だったからにゃ」


古代魔樹「ほう、人間からケットシーに転生したか? まぁ、よくある事じゃな」


「よくある? って万年単位の出来事をよくあると言われてもにゃ。てか名前はあまり気にしないにゃ?」


古代魔樹「植物や動物、魔物は名前などあまり気にせん。あまり会話もせんからのお」


「そうにゃ? でも、名前がないと話しにくいにゃ」


古代魔樹「…そうじゃのう、では、モルとでも呼ぶが良い。モル森のファジール守護者。一時期、儂の事をそう呼んで拝みに来ておった人間達がおったんじゃ」


「モルファジール……? モル爺でいいか」


古代魔樹「それでいいぞ」


「というか、人間、やっぱりこの世界にも居るんにゃな…?」


古代魔樹「うむ、おるぞ。樹伝いに彼らの噂をたまに聞く事がある。〝人間〟は今、西の離れた土地に寄り集まって生活しておる」


「もうモルを拝みには来てないにゃ?」


古代魔樹「今の人間達は、その一族ではない、別の種族じゃからな。儂をモル・ファジールと読んでいた人間達は五百年ほどで来なくなってしまった…。周辺の樹木からの噂話によると、全員死んでしまったようじゃな」


「滅びたにゃ? 何があったにゃ?」


古代魔樹「さぁ、理由までは分からんが、よくある事じゃよ。人間達の文明は、現れては、滅んでいく。幾度も幾度ものう。儂はただ、それを見送るだけじゃ…」


「で、ケットシーも絶滅した種のひとつにゃ?」


古代魔樹「いや、お主ら〝妖精族〟には絶滅はないじゃろ? たとえ地上から存在が居なくなっても、また何かの拍子に魔力溜まりから生まれてくる。それが妖精じゃからの。お主もそうやってこの世界に現れたのじゃろ?」


「俺は……こことは違う、別の世界に生きてたにゃ。でも殺されて、気が付いたらこの世界に居たにゃ」


古代魔樹「ほう、なるほど。そんな事もあるじゃろうな。それで、人間が恋しいから、人間の居場所を訊きに来たというわけか?」


「いや別に人間はどうでもいいにゃ。聞きたいのは人間の居場所じゃないにゃ。俺がこの世界に降り立った時、近くに不思議な泉があったにゃ。その場所が知りたいにゃ」


古代魔樹「人間の街に帰りたいとは思わんと?」


「別に? 元の世界での人生は酷いもんだったからにゃ。この世界での……泉のほとりでの生活は天国だったにゃ。でも、うっかり離れたら、戻れなくなってしまったにゃ」


古代魔樹「普通、〝転生者〟は人間の居る場所に行きたがるものなんじゃがな」


「他にも転生者にあった事があるにゃ?」


古代魔樹「何度かはある。しかし、お主はその泉に帰ってどうする? 忘れ物でもしたか?」


「いや……特にやる事はないんだけどにゃ。なんとなく、もう一度帰ってみたいだけにゃ。いつでも帰れると思っていた場所が急になくなってしまったからにゃ」


古代魔樹「その場所は、お主にとって何じゃ?」


「そこは……、この世界での俺のスタート地点、俺の原点みたいな場所かにゃ」


古代魔樹「なるほどな…お主も〝迷子〟になったようじゃな…」


オーガ「ソウ。俺ト同ジ。ミンナ、同ジ…」


「みん……にゃ?」


古代魔樹「左様。この世界に生まれた、この世界に生きとし生けるモノは、みんな・・・、旅の途中なんじゃよ…。ある者は帰る場所を探して。ある者は目的の地を探して。そうやって、みんな、死ぬまで旅をしているんじゃ。


ただ、長く生きとるが、旅の目的地に辿り着いたという話は、残念ながら一度も聞いた事がない。ぜひとも、辿り着いた者が居たら話を聞いてみたいんじゃが、今まで一度もないんじゃ」


「それは、〝辿り着いた者〟が、わざわざ報告に帰ってこないだけじゃ…?」


古代魔樹「いや、おらんのじゃ。たくさんのモノに、もし辿り着けたら、近くの植物にそれを報告してくれと頼んだ。そうすれば、植物達の噂となってやがて儂のところにも聞こえてくるはず。だが、何万年経っても、そんな噂が聞こえてくる事はないんじゃよ…。みな、求める地をみつけられず、死んでいく。それが生きるという事なんじゃろうな」


「…にゃんだか哲学的だにゃ。難しい事はよく分からんにゃ。結論としては、泉の場所は知らんにゃ?」


古代魔樹「どんな泉じゃ?」


「エリクサーが湧いてる泉が中心にあって、その周囲の森には魔物が一切入ってこないにゃ」


古代魔樹「そんな森の話は、儂は聞いたことがないの。〝森〟なら儂の耳に入ってもよさそうなもんじゃが、ないという事は、おそらくこの次元とは違う次元にある場所なんじゃろう。だとすると、辿り着くのは不可能じゃな」


「むぅ…。まぁ、別に戻っても何をするわけでもないしにゃ。気長に探すにゃ」


古代魔樹「そうじゃな。探し続けるのじゃ。それが生きるという事なんじゃよ。探し続け、生き続け……いつか死ぬ。もしかしたら、死んだ後に辿り着ける場所なのかも知れんの。だとしたら、寿命がない儂には永遠に分からんの…。ああ、妖精族であるお主も同じか」


「あ、やっぱ、俺は寿命がない感じにゃ? 永遠?」


古代魔樹「妖精族に寿命はないじゃろ。まぁ死なないわけではないからな、儂もお主も。生きのに嫌になったら死ねばよかろう」


「……今のところ死ぬ気はないにゃ」


古代魔樹「儂はそろそろ死んでもよいかと思い始めとるがの。二十億年も同じ場所におって、いい加減飽きたわ」


「…動けないにゃ? 魔樹トレントってのは動き回る植物だった気がするんにゃが…」


古代魔樹「……なるほど。言われてみれば確かに。ずっと動けないと思い込んでおったが、動ける連中・・もおるの…。連中は知性もないただの魔物じゃが」


「だったら動けるじゃないにゃ? そのでっかい顔だって動いてるだしにゃ」


古代魔樹「……どれ」


すると、ゴゴゴゴと地鳴りがし始め、大地が揺れ始めた。地面が割れていく。ちょ、おま……


翔べる俺は空中に逃げたが、下を見ると地割れにオーガが飲まれていくところだった…。


グレートオーガ「爺! ヤメロ! (地面ガ)崩レル!」


オーガが半分ほど地面に埋まったところでモル爺が動くのをやめた。


モル爺が上から枝を下ろし、埋まったオーガを引きずり出してやる。


古代魔樹「困ったの、儂が動くと影響が大き過ぎるようじゃ…」


「…一言言ってから動けばいいだけにゃ。てか根はどれくらい広がってるにゃ…?」


古代魔樹「向こうまでじゃ」


向こう・・・ってどこまでにゃ…?」


古代魔樹「ずっと向こうまでじゃ」


ずっと・・・って…どこまでにゃ?!」


古代魔樹「ずっとはずっとじゃ。何せ二十億年生きとるからの……横にも下にも、際限なく伸びとる…」


「もしかして、あの、向こうに見える山当たりまで、とか?」


古代魔樹「そんな近くなわけなかろう。もっとずっと向こうまでじゃ」


「もしかして、爺が動くと大陸が割れてマグマが出るレベル…?」



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