第2話 「うにゃにゃ!」「ん?助けてほしい人間がいる?」

■猫系神代理人


『うにゃっ! うにゃっ!』


「お? マロンじゃないか。どうした? 今日は定時報告の日じゃないはずだけど…」


人間界に行かせている使い魔のマロンが事務所に駆け込んで来て何かを訴えている。


マロン「うにゃぁ、うにゃ!」


「ん? 助けてほしい人間が居るって? お前がそんな事を言うのは珍しいね。何があった?」


マロン「にゃにゃにゃうにゃ…」


「ふむ、ほう……そんな事が…。なるほど、マロンの命の恩人というわけだね。なるほど、なるほど、気持ちは分かる…


…けど、この世界の人間に干渉してはいけないのはお前だって知っているだろう?」


マロン「なぁ~にゃあ」


「いい奴だって? そりゃそうだろうな」


マロン「にゃっ。にゃーお」


「毎日おやつ貰ってたの?! え? 毎日ではない? 2~3日に一度くらい? いやまぁ頻度はどうでもいいんだけどね。それより…マロン。君の仕事はなんだい? ―――そう、世界の “バグ” を見つけ出し、僕に報告する事だよね。そして、君たちから報告を受けて “綻び” を修繕し、世界を維持するのが僕の仕事だ。そんな僕達が、世界のバランスを崩すような事をしては本末転倒だろう?」


マロン「なぁ~?」


「たとえ君の命の恩人だったとしても、彼が今日殴られて死んだとしたら、それはその彼の運命、いわば寿命という事なんだよ。それを捻じ曲げたら、世界がおかしくなる。それは分かるね?」


マロン「うな。にゃにゃ。にゃあご」


「分かってるって? だから死んだ後に救ってやれ? 違う世界に行くやつ? ああ異世界転生ってやつか、最近流行ってるみたいだね…。なるほど…しかしそれもなぁ…。本人の意志を無視して、勝手に地球の魂の輪廻から外されてしまったら本人も迷惑だと思うよ?」


マロン「んにゃぁ。にゃんにゃ」


「え、本人が望んでた? 確認済み? へぇ、そう……なるほど。そういう事か。確かに、お前を助けてくれた恩人だしな…。猫神様も、猫に優しくしてくれた人間にお礼をするのは吝かじゃないはずだしね。


…じゃぁ、その彼が死んだら、連れてきてくれるかい? 本人の希望をもう一度確認してみよう。


…え?! もう連れてきてる?!」


するとマロンは事務所を飛び出し、彼のを引きずって部屋に戻ってきた。


まさか、外に置いてたの? なんか、普通の状態じゃないみたいに見えるんだけど?


ああ、外に置いてたかからじゃなくて、脳にダメージを受けて死んだ直後の魂を連れてきてしまったので、まだちょっと意識が混乱している状態なのか……。


普通、人は死ぬと、肉体から魂が完全に離脱し、意識の切り替えが終了するまでに少し時間が掛かる。それが完了するまで眠ったような状態でその期間を過ごす事が多いんだけど、彼はその状態に入る前に無理やり連れてこられたらしい。マロン、無茶するなよ。


え? 地球の魂の輪廻の流れに乗ってしまってからだと面倒な事になるので仕方ない? まぁそうだけど…。


まぁ丁度いい。朦朧とした状態はむしろ本人の希望を聞き出すのには好都合。おかげで、彼が地球の人間の人生とは違う生き方を強く希望している事は確認できた。


妖精猫ケットシーなら本人の希望にも沿うだろう。(我々が仕えているのは猫系の神様なので、お願いすれば猫系の種に転生させる事は割と簡単に可能。)


あまり時間もないので今の状況と今後について一通り説明しておいた。依然、半分夢を見ているような状態だけど、まぁ、後で徐々に思い出してくれればいい。


「あ、ケットシーは成長すれば最強に近い種族だけど、転生直後はレベル1からスタートだから、成長するまでは気をつけてね!


じゃぁ! マロンを助けてくれてありがとう、チート猫生ネコライフを楽しんで!」




  +  +  +  +




■妖精猫ライフ 一日目


自分の姿を確認するために小川を覗いていたら、急に嫌な予感がして慌てて飛び退いた次の瞬間、一条の光が走った。


水面から俺が居た場所を通過するように走ったそのラインは、頭上の枝を切り落とし落下させた。落ちた枝の切断面は鋭利な刃物で斬ったようにキレイだった。


枝と一緒に水滴が降ってきたので、光に見えたのは水流だと分かった。水を使った切断機のような高圧・高速のウォータージェットか。


もしあの場に留まっていたら…


すると川の中から何かが顔を出した。魚? オコゼのようないかつい顔をしているが、そいつはどんどん岸に近づいてくると、身体をさらに水面から出し上半身を起こした。魚かと思ったが足があるようだ。


そいつが俺に向かって口を開く。


走って逃げる俺の後ろをまた水鉄砲が通過していった。


足があったが、小川を離れるとそれ以上は追って来なかった。鰐のように水辺で狩りをするタイプなのだろう。


図鑑で見たことがある。地球にも水流を吹き出して狩りをする魚が居た。ただ、その水流はせいぜい虫を撃ち落とす程度で、木の枝を切り落とすような威力はなかったが。


あんな “ウォータージェット” を撃ち出す生き物が居るはずがない。あんな怪物…… “魔物” が居るという事は、やはりここは地球ではなく、異世界に転生したのは間違いなさそうだ。


最初は弱いから注意しろと言われた…気がするが、しかし、取説もチュートリアルもなしで、いきなりこんな危険な魔物が居る場所に放り出されるとか、結構酷い話じゃないか?


しかも、落ち着いて状況を整理し生き延びる手段を講じる時間は与えては貰えないようだ。


激しく争う動物の叫び声。かなり大きな音がした、木が折れて倒れるような? かなり大型の動物が争っているのか?


逃げなければ、と頭では思ったのだが、ついつい、どんな動物が争っているのか興味が出て、音がした方に行くべきか迷ってしまう。


うん、『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と古人も言った。とりあえず、離れた場所から様子を見てみるのが、この先のためにもなるはずだ。


『好奇心は猫を殺す』という言葉は思い出さなかった。。。




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