第1話 編集は誰でもできるらしい

「でさ、もう来月から来なくていいから」


打ち合わせでも何でもない、雑談みたいなテンションだった。

スタジオのソファに座ったまま、リーダー格のYouTuberがそう言った。


「……それ、どういう意味ですか?」


分かっていた。

でも、聞かないわけにはいかなかった。


「だからクビ。外注で十分でしょ、編集なんて」


隣で別のメンバーが笑う。


「最近はAIもあるしさ」

「正直、誰が編集しても再生数変わんないよね」


俺は、言葉を失った。


三年間。

企画会議の裏で構成を練り、

一本の動画に何時間もかけてカットを刻み、

サムネの色を何十パターンも試した。


視聴維持率が落ちれば原因を分析し、

再生数が伸びれば、次に活かす。


それを全部やってきたのに。


「コストに見合ってないんだよね」


そう言われて、すべてが終わった。


「俺がいなくなったら、どうなるか分かってますか」


思わず、口から出た。


すると彼らは、揃って笑った。


「大丈夫大丈夫」

「編集は誰でもできる仕事だって」

「むしろ今までが過剰だったんじゃない?」


――ああ、ダメだ。

この人たちは、本当に何も分かっていない。


俺はそれ以上何も言わず、

静かに席を立った。


帰り道、スマホを開く。

チャンネルの最新動画は、いつも通り伸びている。


※再生数:順調

※高評価率:良好

※コメント:称賛ばかり


それを見て、少しだけ安心してしまった自分がいた。


でも、その安心は長く続かない。


一週間後。

公開された新動画を見た瞬間、俺は分かった。


――編集が、雑だ。


無駄な間。

切るべきところが残っている。

盛り上がる前に、テンポが死んでいる。


コメント欄も、少しずつ変わり始めていた。


「なんか見づらくない?」

「前よりテンポ悪い」

「気のせい?」


まだ小さい。

だが、確実に“ズレ”が生まれている。


その夜、俺は自分のPCで編集ソフトを立ち上げた。

仕事を失っても、手が止まることはなかった。


――数字は、必ず結果を出す。


俺を切った判断が正しかったのか。

間違っていたのか。


その答えは、

これからすべて、再生数が教えてくれる。

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