第18話 たったひとつの冷めたしつもん
「もしかして、聞いてらしたんですか」
権力者に眼をつけられたら…… なんて話をついさっきミリアさんとしたばっかりだ。その直後にこういう展開になれば、そりゃ、そういうことなんだろう。
「ボクの所有物である七桜君が俗世のしがらみで自由に動けなくなるのはあまり気分が良くないからね。ボクはあくまでも七桜君の自由意志で生きる姿が見たいんだよ。全てを求めてもいいし、何も選ばずに生きてもいい。ま、ホンモノの馬鹿には効かないだろうけど、それがあればある程度は大丈夫さ」
ナチュラルに所有物認定されてることについては最早何も言えない。
それでも。
「ありがとうございます」
僕はこの時間を、この出会いを与えられた。その事実だけで僕がこの方に言える言葉は感謝だけだ。
「お心に添えるかはわかりませんが、この世界で精一杯生きてみます」
僕を自由に生きられるようにしてくれている。例えそれがただのきまぐれだったとしても、それはとてもありがたいことだ。僕なんかにここまでして頂ける価値があるとは今はとても思えないけれど。せめてこの上位存在さんをがっかりさせないように精一杯生きよう。
「うん、じゃ取りあえずこんなとこかな。最期に何か質問があれば一つだけ答えてあげる」
一つだけ、か。
聞きたいことは沢山あるけど、やっぱり一番聞いておきたい事は
「それでは貴方のお名前を教えていただけませんか」
「へ?」
「正直にいいますと、陰キャで凡人の僕には貴方の陽キャなノリと上位存在的な価値観は理解できないところばかりです。それでも、貴方は僕に二度目の人生をくれた。夢を叶えられる可能性をくれた。そんな大恩ある方のせめてお名前くらいは教えていただけませんか」
上位存在さん、なんて心の中で勝手に気軽に呼んでいるけど、本当ならこの存在に対してそんな事は不敬で許されない事の筈だ。それでも祈りを捧げるときに呼べるお名前が知りたい。こんなお願いはもっと不敬に当たることだろうか。
「一つだけ出来る質問がそんなことで良いの。他にもっと知りたいことあるんじゃない?」
「知りたいことはそりゃ沢山ありますけど、一つだけ教えて頂けるなら、僕は、貴方の、お名前が知りたいです」
場の空気が凍り付いたような冷たい沈黙が続く。
やっぱり失礼だっただろうか。
「うーん、ボクには名前にあたるものはもう無いんだよねぇ。主とか創造神とか大樹とか、或いは…… そこの女、直答を許すよ。君たち人はボクをなんと呼ぶ」
上位存在さんの雰囲気が代わり、神々しい威圧の籠もった声をミリアさんに掛ける。
全身が震え、僕は思わずスマホを落としそうになる。
ミリアさんはミーナさんを守るように抱きかかえていた体勢からゆっくりと身体を離し、跪き、祈りを捧げる姿勢をとる。
「恐れながらお答え致します。万物の創造主にして父たる大いなる存在を、我らはこう呼び慣わしております。『神聖なるもののその最も神聖なもの』、と」
教会で祈りを捧げるシスターのような、主に忠誠を誓う騎士のような、美しく凜とした声でミリアさんが答える。その姿には絵画や彫刻のような、芸術品めいた美しさがあった。
凄い…… 僕はまだ全身の震えが納まらないでいるのに。
僕が迂闊なことを言ったせいでミリアさんを巻き込んでしまった。
「そう呼ばれる事が多いね、でもそれは存在を指し示す言葉でボクの名前ではない。でも、そうだな…… 七桜君は本当に愉快だからボクだけを指し示す言葉を教えてあげよう。質問に答えると約束もしたしね。ボクを示す言葉とは
痛みすら覚えるような静寂、一瞬のような、永遠のような、空白の後。
頭の中に何かが流れ込んでくるような不思議な感覚があった。
これが、あの方の名前を知るということなのだろうか。
与えられた力の輪郭が、否応なく見えてくる。
その全てが理解出来るように……
いや、その全てに触れてしまった、という感覚。
怪我を治せる、病気を癒やせる、なんてこの力の一部にしか過ぎなかったんだ。
こんな大きな力、僕みたいなただの子供に使いこなせるのだろうか。
頭の中に流れ込んでくる何かが溢れて、こぼれ落ちそうで。
僕の心と意識はそれに耐えきれず、静かに昏い眠りに落ちていく。
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