第17話 届いたお知らせ 届かなかったお知らせ

「本当はね、七桜君が“さくらんぼじゃなくなった”時点でチュートリアル終了にしようと思ってたんだよ」


「……いきなり何を言い出すんですか」


「転生モノのお約束でしょ? でも七桜君、そのルートは選ばなかったからさ」




軽い口調。


なのに、言葉の端々に悪意とも好意ともつかないものが滲んでみえる。




「いいねぇ。安易にお約束に走れないそのヘタレっぷり。期待通りだよ」




走らない、じゃなくて走れない、ね。馬鹿にしやがって、僕だって! とならないのがちょっと情けない気もするけど。安易に女性の尊厳を汚すような真似は出来ない。




「それと、そこの彼女とあの犬についても七桜君が気にしてたみたいだから説明してあげようかなって。アフターケアも万全なボクに感謝すると良いよ」




僕は無意識にミリアさんの方を見る。


彼女は驚いたように目を見開いていた。




「元々あの個体は、ずっと北の魔境にいた群れのボスだった。追い出されて、彷徨って、ここまで来た」




軽い口調と声で語られる内容は、重い。




「本来の運命だと、そこの彼女はあの場で命を落とす筈だった。その後、この小屋も見つけて帰らぬ母を待つその娘も……ってね。」




言葉の先を、あえて濁したのが余計に『そうなっていたんだ』という未来を想像させる。




「それからこの近くにある同じ種族の巣を見つけて乗り込み、住民の大部分を食い散らかして、事態を重く見た国から派遣されてきた国軍に討伐される。まぁよくある話だよ、この世界では」




よくある話。


その一言が、胸に冷たく刺さった。




「で、本来そうなるはずだったところに七桜君を送り込んだってわけ。うってつけだったからさ」


「七桜君がそこの彼女を見捨てて逃げるならそれでも良かった。追っかけられてもあの犬くらいじゃ壊せないのは分かってたし、あの犬も齧り付けない七桜君のことは早々に諦めて大人しく元の食事に戻っただろうしね」




淡々と説明してくる上位存在さんがとても怖い。ノリが軽いからつい忘れそうになるけど、やっぱり根本的には人間の事なんてどうでもいいんだ。




「結果的に七桜君は、怪我の治療と身体の丈夫さと先天的な疾患の修復まで確認できた。十分なチュートリアルだったと思うけど?」


「……なんで、あの狼はあの時、大人しくなったんですか」


「君があの犬を怖がってはいたけど、嫌ったり憎んだりはしてなかったからだよ」




軽い調子で、上位存在さんは続ける。




「七桜君、犬の頭……つまり脳に近い場所を触りながら『落ち着けー、落ち着けー』ってやったでしょ。あれで鎮静が入った。まぁ、アニマルセラピー…… は違うか」




一拍置いて、少しだけ声が低くなる。




「七桜君の力はね、感情に強く引っ張られるようにしてある。


嫌悪していれば、治せても時間が掛かるし、触れた相手は不快に感じる。


逆に、助けたいと強く思えば、死んでさえいなければあっさりとどうにかなる」




嫌いな相手を癒す…… そうか、そういうこともあるのか。そしてその場合、治癒に時間が掛かる。


そこまで考えた時、背中にひやりとしたものが走った。




「それから性的な魅力を感じていれば性的な快感を、純粋に好意を持っていれば心地よい暖かさを与える、ってな具合だね」




なるほど……それがミリアさんとミーナさんの反応の違いの原因か。と言うことは、つまり……!?


あの非常時に!?




「あ、気にしなくていいよ。性的な魅力っていっても生物的な本能に根ざしてるから。基本的には子を成せるかどうか、だね。子孫を残せる対象だと本能が判断すればそれだけで快感を与えるよ。嫌いな相手だったりすれば感情の方が勝つと思うけど」


「本能的なモノってことは、僕がどれだけ心を無にしたり、抑えようとしても……?」


「うん、無駄だね。人型の雌である時点で大体快感与えるよ。あと感情の方が勝つから七桜君が特殊性癖持ちならスライムとか人面樹とか卵とか車とかでもワンチャン可能性はあるね」




平常心を保てれば抑えられる、という話でも無いのか。そんな逃げ道、残してくれるはずは無いな。


思わず溜息が漏れそうになった、その時だった。




「…… 光ってる」




ミーナさんの小さな声で、現実に引き戻される。


ずっと通話してたから見えてなかったけど、僕のスマホから神聖っぽい光が放たれてますね。


超常現象に超常現象重ねるの、もう止めない?




「神託を受けたからね。神器として覚醒しちゃった」


「僕のスマホを勝手に神器とかにしないでもらえませんか」


「スマホっていうか…… まぁいいや。大丈夫だよ。悪いことは起きない。むしろ――」




少しだけ、声のトーンが変わる。




「君が“どう生きるか”を選ぶ自由は、これでちゃんと守られる」




その言葉に、ミリアさんが静かに息を呑んだ。


この世界に於いて目覚めた神器を持っていると言うことは神に直接認められた、或いは神の意志を代行している使徒という扱いになり、本人の意思を最大限尊重され、例え相手が一国の王でも無理を言ってくるようなことは無くなると思っていいらしい。




「どっかのご隠居さんの印籠みたいなものだと思えばいい」




……例えが分かりやすすぎる。


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