第7話 くじ引き



バスが再び高速道路を走り始めた。


さっきまでのワイワイとした雰囲気が、少し落ち着いてきた頃。


スタッフが立ち上がって、マイクを持った。


「皆様、お待たせいたしました」


車内が静かになる。


「これから、大事な抽選を始めたいと思います」


「抽選?」


誰かが小さく呟く。


スタッフは白い箱を取り出した。蓋がついていて、中身は見えない。


「この中にくじが入っています。くじの中には、合宿中の特別な役割や企画の内容が書かれています」


「えー、何だろう」


「気になる!」


女性たちがざわめく。


「ただし」


スタッフが人差し指を立てる。


「ご自身の手元に全員分のくじが届くまで、絶対に開かずにお待ちください。全員が引き終わってから、一斉に開封していただきます」


「了解です!」


「わかりました!」


みんな、素直に頷く。


「それでは、お名前の50音順に引いていただきます。よろしいでしょうか?」


「はい!」


全員が答える。


誰も文句は言わない。みんな大人だ。


それどころか、期待に満ちた声ばかりだ。


「楽しみ!」


「何が書いてあるんだろう」


「ドキドキする」


スタッフが名簿を確認する。


「それでは、50音順で…最初は、遠藤様」


「はい!」


遠藤さんが立ち上がって、箱に手を入れる。


一枚引いて、座席に戻る。封筒に入ったくじを、じっと見つめている。


「次、佐々木様」


「はい!」


佐々木さんも立ち上がる。箱に手を入れて、一枚取り出す。


「開けたい…でも我慢」


佐々木さんが笑いながら座る。


「次、佐藤様」


「はい」


一人ずつ、順番に引いていく。


車内は独特の緊張感に包まれている。


みんな、手元のくじを見つめながら、ソワソワしている。


「次、高橋様」


「はい!」


「次、田村様」


「はーい」


そして。


「次、田中様」


俺の名前が呼ばれた。


「はい」


立ち上がる。


前に進む。


スタッフが箱を差し出す。


白い箱。中には、まだ何枚かのくじが入っている。


俺は、恐る恐る手を入れた。


指先に、紙の感触。


何枚か触れる。


どれにしよう。


いや、どれも同じはずだ。


一枚つかんで、引き出す。


白い封筒。少し厚みがある。


「ありがとうございます」


スタッフが笑顔で言う。


俺は座席に戻った。


手のひらに汗をかいている。


封筒を見つめる。


中に何が書いてあるんだろう。


特別な役割?企画?


まさか、りおと二人きりで話せるとか?


いや、そんなうまい話があるわけない。


でも、もしそうだったら。


心臓が早鐘を打つ。


「次、中村様」


くじ引きは続く。


「次、山田様」


「はい!」


山田さんが最後の一枚を引く。


「それでは、全員引き終わりました」


スタッフが箱を片付ける。


車内が静まり返る。


みんな、手元のくじを見つめている。


「それでは…」


スタッフが微笑む。


「一斉に、開けてください!」


一斉に封筒を開ける音が響く。


ビリビリ。


俺も慌てて封筒を開ける。


中から紙が出てくる。


広げる。


そこには、こう書かれていた。


『おめでとうございます!

あなたは特別企画に選ばれました。

詳細は到着後にご説明いたします。

これから、あなたの新しい物語が始まります』


新しい物語?


どういうこと?


周りを見渡す。


「え、私『グループ写真撮影』だって」


「私は『メンバーと夕食』!やった!」


「私『サイン会』だ!嬉しい!」


みんな、それぞれ違う内容らしい。


そして、みんな嬉しそうだ。


でも、俺のくじだけ。


何だか、抽象的すぎる。


「田中さん、何でした?」


佐々木さんが聞いてくる。


「あ…特別企画、って書いてあります」


「へー、何だろうね。楽しみですね!」


楽しみ。


そうだ、楽しみなんだ。


でも、何だろう。


胸の奥に、小さな不安が芽生えた。


『新しい物語』


その言葉が、頭の中でグルグルと回る。


バスは高原へと、どんどん近づいていく。


俺の運命を乗せて。

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