35話目:ロスタイム・終業式

 話をしよう。

 忘れもしない、あれは昨日の……いや、一昨日だったか?


 ばあさんや、朝ごはんはまだかのぅ。

 もう食べた?

 いいや、今から食べるのはお前だよ赤ずきん!


 まぁそんなことはなかったわけだが、色々あったのは確かだ。


 まず≪ドルイド≫のムグを無理やりブラック職場に就職させた件で始まった裁判。

 弁護人がいなかったので開幕から処刑方法について検討するほどのアウェイだった。


 しかし!

 俺は奴らの情を利用して生き残った!


 ムグとお別れするのがツライと思って!

 だから俺、なんとかしようとしただけなんだ!


 と言ったら懐疑的な目を向けられた。

 慣れないことはするもんじゃないね。

 だが、彼女が学園に残るという事実一点を貫き通したことで、一応は執行猶予を勝ち取ることに成功した。


 なので、一先ず命の危機は去ったというわけだ。

 ……なんでダンジョンの外で命の危機が訪れてんだよ、おかしいだろ。


 とりあえずムグには定期的にコミュニケーションをとって、<羽化>に関する情報を集めることにする。

 あと≪ドルイド≫へのコミュニケーション能力育成の側面もあったりする。


 あいつら話が通じないというか、変なところで律儀……いや、クソ真面目?

 とにかく良いと悪いの境界線がハッキリしすぎてる。


 だから購買店で働き強制的に色々な人物とコミュすれば、そこら辺が改善すると……する、か……?

 したら……いいなぁ……


 あとあった事件は……指輪問題か。

 エメトから無理やり押し付けられた、敵の攻撃を一度だけ防ぐ指輪のことである。


 最終決戦の時、ムグに希釈した<レベルダウンポーション>をぶっかけようとした。

 俺がポーションぶっかけ役をやってもよかったのだが、いくつか懸念があった。


 もちろんCEROは関係ない。


 俺自身はいくらでもリスポーンする気だったが、<レベルダウンポーション>が割れたら俺がレベルダウンしてしまう。

 その場合、弱体化した状態であいつを殺さなきゃいけなかった。


 時間制限がある中でそんな危ない賭けはできなかったので、トゥラちゃまに託したというわけだ。


 指輪とポーションをトゥラちゃまに託し、音を出して攻撃をこちらに誘導。

 トゥラちゃまに攻撃が飛んでも、保険として指輪で一撃は防げる。


 その後、攻撃と音で最大限こちらに注意を引きつけて、意識の外からトゥラちゃまが奇襲するという作戦。

 結果、見事に成功したわけで……あのあと指輪を返してもらった。


 ただし、その現場をエメトに見られてしまって……それはもう、凄い目で見られた。

 ビームとか出てたんじゃないかって思うくらい見られた。 


 まぁね、深い意味があったって聞いてたからね、良くないってのは知ってたよ?

 でもね、キミの大事な友達の為に必死に考えた作戦なんだよ?


 って感じで言ったら納得してもらえた。

 訂正、言葉では納得してたけど感情では全然納得してなかった。


 手遅れになるかどうかの瀬戸際だったんだから、飲み込んでくれよ!

 これだから≪ドルイド≫は!


 とか言ったらトゥラちゃまにはたかれた。

 あとクラスメイトが信じられないものを見るような目を向けてきた。


「いや、理解はできるけどね?」

「一言くらいあっていいだろ……」

「<混沌の墜とし児>に人の心は分からない」


 ……とか散々な言われようだった。

 人の心があるから、あそこまで作戦がハマったんだよバカタレ共め!


 なんにせよ、俺は悪くない。

 悪いはずがなかったのだ。


「――――というわけでヒビキ、お前を学園から追放する!」

「なんでだよおおおおぉぉぉ!!!!」


 何故かエトルリア先生に追放を言い渡されてしまった。


「いや、冗談だ。普通にあちらの世界に戻る日だから知らせに来ただけだ」

「マジのガチで驚いたんですけど!?」

「なんだ、追放されるようなことでもしたのか?」

「………してない、はずです」

「そこは断言してほしかったのぅ」


 いやもう、各所に厄介事やら面倒事が出たり埋まったりしてるせいで、何があるのか分かんないんですもん。

 本当は自分で蒔いた種は管理できてたんすよ!?


 でも≪ドルイド≫連中が来たせいでしっちゃかめっちゃ!

 もうどこに地雷があるのかも分かんなくなっちゃった!


 アーッハッハッハッハァー!

 ……笑いごとじゃないのよ!?


 とはいえ、流石に夏休みを経ればある程度の問題は沈静化してるはず。

 してなかったら?

 未来の俺がなんとかするでしょう。

 なんとかなれぇー!!


「まぁいいや。実家に帰らせてもらいます!」

「うむ。逃げるなよ? 逃げたら追手を出さねばならんからな」

「俺ぁ保釈される犯罪者か何かっすか!? そんな悪いことは――――」

「<黒の遺産>破壊事件」

「あれは、そのぉ……先生が責任とってくれたじゃなっすか……」

「あと<羽化>の件もあるからな。逃げられると思うなよ」


 そんなことを言われ、見送られた。

 顔は笑ってたけど目はガチっぽい気がした。


 そんなこんなで帰省!

 俺を縛るものは、もう何もない!


 ――――そう思っていた時期が、俺にもありました。


「音無さん。そちらの書類が終わりましたらこちらもお願いします」


 はい、異世界へのゲート付近で絶賛足止め中です。

 なんか検査の他にも活動報告的なやつとか誓約書とかサインとか拇印とかボインがどうのこうので一時間以上ここで書類地獄です。


「もしかして日本政府さんは俺に帰ってきてほしくなかったんですかね!?」

「いえ、そんなことはありません。我々一同、あなたのお帰りを心待ちしておりました」

「前、会議の時に隣に座ってた政治家さんがすっげぇ脂汗を流してたと思うんすけど。それでも帰ってきてほしかったと?」

「……私は流しておりませんので」


 中々にいい空気を吸ってる自衛隊のお人である。

 どっちの意味でもとれる発言から、中々訓練されているようだ。


「それと異世界食べ歩き奇行でしたか? あの情報も検閲が入りますので、それに関する書類もあとでお渡しします」

「なんでぇ!?」

「ああいった情報から、異世界に関する様々な秘密が漏洩する恐れがありますので」

「うん。だからいっぱい売れて重版されるかなって」

「……意図的な情報漏洩ですと、これからさらに数時間はこちらに拘束されることに――――」

「やだなー! ぼかぁ優等生ですよ? そんなことあるはずがー!」

「事前に聞いている情報と差異がありますが……とりあえず、そうですね」


 クソッ、夢の印税生活がパーだ!

 ゆくゆくは漫画、アニメ、ドラマにハリウッドにまで進出するつもりだったのに!


 ……いや、ただの食べ歩き日記みたいなもんでそこまで言ったら怖いな。

 絶対に原作破壊というか存在しない記憶のオンパレードになってるぞ。


 そんなことをしている間に、仮設テントへもう一人誰かが入ってきた。


「天星(あまぼし)さん、こちらで書類の記載をお願いします」


 そう案内されてやってきたのは、女子であった。

 俺と同じような服装をしていることから、異世界側から来た人物だということが分かる。


「自衛隊さん! ちょっと大きい声じゃ聞けないんですけど、隣の美少女さんって誰ですか!?」

「かなり大きい声で聞いてますね。そちらは天星 赤祢(あまぼし あかね)さん、音無 響さんと同じく異世界へ留学されてる方です」

「え~、知らなかった~! さすが~! すご~い!」

「事前に共有された情報のはずなのですが……。あと、無理に"さしすせそ"は使わなくて大丈夫です」

「男が"女性のさしすせそ"を使ってもいいじゃないですか! 差別ですか!?」

「いえ、そういうわけではなく……」


 まぁ自衛隊さんはおいといて、こちらから挨拶もしておこう。


「初めまして。スティーブン・ジョン・マッツ・ノーマン・ジョンソンです」

「初めまして、音無さん。同じ留学生の方と出会ったのは初めてなんですよね。よろしくお願いします」


 こちらのボケを華麗にスルーされるが、第一印象は悪くなさそうだ。


「そっちの学園はどうですか!? こっちはもう、大変で大変で!」

「異世界も、ダンジョンも初めてだから大変ですよね」

「いや、そっちはどうでもよくて。こう、人と人の関係というか、種族間のコミュニケーションとかそういうのが!」

「そうなんですね。アタシの学園は、みんな良くしてくれて楽しいですよ」

「う、ウソだぁ! そんな学園が……皆仲良しな学園生活があるなんて、信じられない!!」


 こんな感じで軽く雑談しながら気分転換したことで、書類作業はなんとか終わらせることができた。

 俺よりも後に来た天星さんはまだ色々と手続きが残ってるらしく、俺だけ送迎場所まで送ってもらえることになった。


「音無さん。初めての同級生の方と会いましたが、どうでしたか?」

「あぁ、ありゃヤバイ人っすね。監視しといた方がいいっすよ」

「――――――は?」


 自衛隊さんの目が点になってしまっている。

 俺との会話を聞いてたらヤベーことが分かると思うのだが。


「いや、だって……天星さん、一度でも向こうの世界での悪い所とか言いました?」

「言っていた記憶はなかったような……」

「普通の女子学生が日常的に死ぬような環境にいて、ずっと良い子とか変、異常ですよ」

「つまり、精神的に何かしら問題がある可能性が……?」

「問題というか、精神テストしても異常は出ないんじゃないっすかね。本性を化粧で隠すどころか、あれセメントで塗り固めてますよ」


 俺がラインを見極める為にわざとバカみてーなこと言っても、セクハラまがいなこと言っても、ぜーんぜん表情変わんねーもん。

 ありゃ筋金入りだ、ワイヤーで型取りしたマスク被ってるレベルだよ。


「その理論ですと、音無さんも問題があるような気が……」

「なんでぇ!?」

「いえ……日常的に死に晒されている環境にいて、変化がないように見えましたので」

「変わってますよ! 体重とか! タダ飯だからめっちゃ食ってましたもん!」

「極限の環境にいたら、普通は痩せるのでは……?」

「そこは、ほら……ストレス解消のためにいっぱい食べてたとか、そんな感じで……」

「どうして自分のことなのに、そんなに自信がなさげなんですか」


 でも実際、二キロくらいは体重増えたと思う。

 成長期で身長伸びたとか筋肉ついたとかかもしれんけど。


「っと、どうやら保護者の方が到着されたようです。では、良い夏休みを」


 そう言って自衛隊さんが見送ってくれた。

 俺は久々に会う両親に、笑顔で駆け寄る。


「ただいまー!」

「おぉ、おかえり響! お前のことが心配で、ずっと通帳を見て保険金がおりてないか確認していたんだぞ」

「お金じゃなくて息子の心配してくれる!?」


 嫌な生存確認の方法だなヲイ!


「まったくもう、お父さんったら。私はちゃんと心配してたわよ? 本当よ。響は良い子だから信じてくれるわよね? お母さんのこと、疑ったりしないわよね?」

「そこまで念押しされると逆に信用できねぇのよ!」


 うん、この人らも何も変わってない。

 変わらなさ過ぎて逆に怖いわ。

 ちょっとくらいは変わっててくれよ、まともな方に。


「響! 今日は帰省祝いとしてお母さんが手料理を用意してくれたぞ!」

「そうよ、家族で久々のご飯だもの。あ、お父さんと私はさっきお寿司を食べたから、あなたが好きなだけ食べていいわよ」

「家族団らんの話がどっかに飛んでったんだけど!?」


 自分らは寿司食っといて、俺だけ家で飯かよ!

 普通は逆じゃねぇの!?


「コラ! お母さんの手料理が嫌だって言うのか! 気持ちは分かるが!」

「お父さん、あとでベッドでお話があります」

「!?!?!?」


「ハハッ、ざまぁ」

「響、あとで罰ゲームがあります」

「何で!?」


 なんで帰省したのに罰ゲームがあるんだよ!

 おかしいだろ!


 ……よく考えたらこの人らがオカシイのはいつもの事だった。


 ―――――あぁ、だから俺も変わってないのか。

 最初から変わってたら、変わりようがないもんな。


 なんにせよ、これで一学期も終わりだ。

 二学期は問題が起こりませんように!

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