34話目:残響の一節と延長戦

「あーさーだ! あーさーだーよー!」


 めっちゃ疲れてから寝たおかげか、目覚めがとても良い。

 快眠で絶頂するかと思うレベルだ。


 いや、流石に言い過ぎだったわ。

 寝起きでエクスタシーしたら流石に異常だわ。


 そういえば、なんか夢っぽいものを見た気がする。

 なんだったっけと思い出そうとするが、何やら違和感があった。


 なんだろう……匂い?

 俺の部屋が俺のモノじゃない匂いがする。


 なんか変なモンでもこぼしたのかと思い、周囲を見てみると――――。


「スゥ……スゥ……」


 在り得ないモノがいた。


 なんで俺のベッドに!!

 ≪ドルイド≫の奴が寝てんだよ!!


 いや待て、確か寝る前に何かったような……ダメだ思い出せねぇ!

 とにかく眠くて寝たくてってことしか頭になかった!


 いや、原因はどうでもいい!

 今考えるべきことは、どうやってこの場を切り抜けるかだ!


 こんなところを他の男子に見られたら――――。

 いや、よく考えたら今男子寮のほとんど人いねえじゃん。

 クラスの奴らは治療室に放り込まれてるし、他の人も帰省してるだろうし。


 んじゃもう適当でいいか。


 こいつは寝かせたままにして。

 書置きに部屋の鍵だけ閉めといてって書いて鍵置いといて。


 そして他の奴らが来る前に脱出!


 そして無事に食堂に到着!

 これでもう俺の勝ち確だ!


 奴が俺の部屋から出てくるところを目撃されても、勝手に侵入されたってことにすればいい!

 そしたら見つかっても怒られるのはあいつだけ!

 ヨシ!


 ということで、優雅に朝飯……というか昼食を貪っていると、何人かの快復したクラスメイト達がヨロヨロとやってきた。


 適当に挨拶をして、各々が勝手に食事を摂る。

 そこへ、かの問題児……≪ドルイド≫のエメトが入ってきた。


 こっちに来るなと必死に頭の中で祈るが、ものの見事にそれを裏切り俺のところへとやってきた。


「こちら、鍵をお返しいたします」

「あぁ……そういやそうか」


 戸締りしたなら鍵を俺に渡さないとアカンか。

 そりゃそうか~アッハッハッハ~…………失敗したァ!!!!!


「え……なんでエメトさんがアイツの部屋の鍵を……?」

「というかなんか親しげな感じ……?」


 うん、それは間違いなく気のせいだ。

 そんな空気も雰囲気もノリもない。


「そういえばヒビキ、治療室にいなかったよな」

「エメトさんもいつの間にか出ていったし……」

「……え? 朝帰り……って、コト?」


 その一言で、血の気の多い奴らが一斉に立ち上がってこちらに飛び掛かってきた!


「おいゴラァ! どういうことだオラァ!」

「やったんか!? 大人の階段上って、そのまま絞首台の階段上るかァ!?」

「どういうことだヒビキ! 説明しろォ!」


 アカン! ワンミスで死ぬぅ!

 おおお、おちち、おちちけつつつ!!

 まだあわてるような時間じゃあない!


 正確には慌てようが冷静だろうが死ぬかどうかの瀬戸際というだけだ!


「いやいや! 君たちは勘違いしている! 別にあいつが俺の部屋の鍵を持っててもおかしくは……いや、おかしいな!?」


 いかん! 言い訳が全然出てこない!

 こういう時は……適当に煙に巻くに限る!


「大丈夫! 俺は紳士だ! 彼女には指一本触れたりはしていない!」

「いえ、指は触れられましたが」


 問題の元凶が、あろうことかこちらを刺してきた。

 しかもナイフどころじゃない、ドリルだ。


「「「エメトさん! あいつに何されたんですか!?」」」


 血気盛んな奴らが、一斉にエメトに向かって詰め寄っていく。

 何かを言おうとしたエメトと俺の目が合った。

 エメトが「何もなかった」と一言いうだけでなんとかギリ逆転できる。


 だから俺は一縷の望みを託し、アイコンタクを送った。


「…………黙秘、します」


 それは何かあったって言ったも同然だよバカぁぁあああああ!!!!!


「こいつ! オレ達が動けない間になんてことを!」

「殺しますか!? それとも死なせてから埋めますか!?」

「やはり裏切者の処刑か。いつ執り行う? 私も手を下そう」


 アカン! もう命を失うことが確定しつつあるぅ!


もはや俺の命の灯火は風前の灯火……いや、溶鉱炉の中に放り込まれるアイスのように、一瞬で溶け消える寸前だ。


「ねーねー、エメトさん? 実際、何があったのか教えてくれない?」


 と思ったら、援軍のトゥラちゃまがやってきてくれた!

 これで溶鉱炉の前のアイスが、新幹線で販売されてるアイスくらいには強化されたぞ!

 ……あんま変わんないと思ったけど、ないよりはマシだ!


「申し訳ありません。言えません」

「えー、クラスメイトの仲じゃんか。仲良くしたくないってことなのかなぁ~」

「いえ……そんなことはありません」


 いいぞ、トゥラちゃま!

 ≪ドルイド≫の連中には今、心の負い目という傷跡がある!

 傷口破壊して一気に火力を叩き込むんだ!


「じゃあ教えてよ! ねっ? ヒビキがどんな変態的なことしてたか知りたいんだよ~」

「…………やましいことは何も。ヒビキ様はすぐに就寝され、私は子守歌を歌っただけでしたので」


 ちょっと語弊があったけど、マジでトゥラちゃまナイス!

 無罪の証言を引き出してくれたから、命が繋がった!

 アイスのように俺の命が蒸発する寸前で助かった!


 おかげで俺を十三階段に上らせようとする奴らも手を止めてくれた。


「……いや、それはそれとして羨ましくね?」

「確かに。許せんわ」

「よし、吊るせ。裏切者にはお似合いの末路だ」


 いやだー! 死にたくなーい! 死にたくなーい!

 誰か助けてくれー!


 そうして数時間後……クラス一同が食堂に会した。

 ちなみに俺はホルンに下ろしてもらって、なんとか事なきを得た。


「ありがとね、ホルン。あのままだと干し人間になって出汁にされるところだった」

「いいえ、お気になさらずに。ヒビキさんはそんなことしないって信じてましたので」

「ええ子や、ホルン。……ところで、それならスグに下ろしてくれても良かったんじゃない?」

「…………ワタシ、ヒビキさんのこと信じてましたよ?」

「じゃあスグ下ろしてくれてよかったよね!?」


 チクショウ、もう何も信じられない!

 ポテト増量キャンペーン中のMサイズとLサイズの違いくらい信じられない!


 まぁそんなことはさておき、改めてクラス一同を眺める。

 まだちょいと≪ドルイド≫連中はギクシャクしてるが、馴染めるように努力しているようだ。


 仲間内でやってりゃ楽だろうけど、ここは学園なんだから失敗する前提でコミュする力を身に着けてくれ。

 俺なんか失敗だらけだぞ。

 それでもなんとかなってんだ、甘えるなよ!


「えぇー! ムグさん、学園辞めて故郷に戻っちゃうの!?」

「はい……先ほど、学園長様にもその申し出を受け入れて頂きました……」

「せっかく仲良くなれると思ったのに、もうお別れなんて~! いつ帰っちゃうの?」

「準備もありますので、来週にはと思っております」


 どうやら問題を起こしたムグとやらは、実家に帰るらしい。

 まぁ妥当なとこだろう。


 またマジカル☆ビーストに変身されたらたまったもんじゃない。

 厄介事になったのは同情するが、実家で大人しくしててくれ。


「そういえばムグさん、どうやってあの姿になったの?」

「それが、あまり覚えてなくて……何か聴こえたのは覚えているのですが。エメト様は覚えてらっしゃいますか?」

「いえ、私には聴こえませんでした。どのような音だったのですか?」

「確か……♪:*:・・~♪・・:*:・♪・:*:・……といった感じの曲だった気が――――」


 それを聞いた瞬間、俺は矢のように飛び出しそいつに迫った。


「お前いま言ったか!? 曲が聴こえたって!!」

「えっ、あ……は、はい……」

「どんな曲!? メロディーは!? 何拍子だった!?」

「あ、あの、その……まだ記憶に靄が掛かっている感じがしまして……もう少し時間を頂ければ、少しは思い出せると思うのですが……」


 前言撤回!

 こいつを家に帰しちゃイカン理由ができた!


「こっちゃ来い! 退学を取り消してもらうぞ!」

「え? えぇ!?」


 狼狽する女子を無視し、俺は無理やりそいつを引っ張りエトルリア先生の私室へダイビングした。


「せんせぇ! こいつの自首退学を取り消して!」

「えぇい、いきなり入って来るなアホウ!」


 勢いよく空の酒瓶をブン投げられたが、さっと回避する。

 悪いがわざと喰らって留飲を下げる手間すら惜しい!


「自主退学を取り消せだと? 残念だが学園長に申し出たのであればもう手遅れだ、諦めよ」

「諦められるわけねぇでしょうが! こいつ<羽化>の前に曲を聴いたって言ってんすよ!?」


 それを聞き、エトルリア先生の顔色も変わった。


「ムグよ、それは真実か?」

「はい……聴こえはしましたが、それが何か?」

「むぅ~……むむむ……むぅ~ん……!」


 エトルリア先生が珍しく唸って悩んでいる。

 どうやらそれだけの事態だということを理解してくれているようだ。


「エメトには聴こえなかったようですが、こいつは聴けました! もしかしたら、あの音楽隊は人為的に人を<羽化>させてます!」

「<羽化>の素質がある者にだけ聞こえる音楽ということか。これまた厄介な……」

「証人の確保というか、手がかりはこいつの頭の中にあります! ≪ドルイド≫の連中に回収されたらどうなるか、分かったもんじゃありませんよ!?」

「ヒビキ、お前は≪ドルイド≫にどんな偏見を持っとるのだ」

「偏見じゃありません! 絶対に厄介事を引っ提げてくるという確信です!」

「そうだな、偏見ではないな。偏執といった方が正しいかもしれんな」


 えぇい、そんなことはどうでもいい!

 とにかく今はこいつを引き留めるのが最優先だ!


「自主退学を取り消せないなら、エトルリア先生が匿うとかはどうですか!?」

「教職者が未成年を囲っておったら、それはそれで大問題であろう」


 女性同士でもアカンのか!?

 アカンか……一理どころか百理あったわ。


「じゃあ……部屋だけそのまま借りて滞在してもらうとかは!?」

「寮は学園生だけのものだ。退学したならば、出ていかねばならん。というか生活費はどうする気だ?」


 その問題もあった!

 どうする……どうする……≪ドルイド≫の連中に言って、無理にでも引き留めてもらうか?


 いや、ダメだ。

 恐らく実家の方が力が強い、学園生じゃないなら無理やりにでも連れ戻されるだろう。


 何か引き留める理由、そして金策の二つの条件を満たせれば―――――。


「思いついたぁ!」

「なぬ!?」


 俺は再びムグの手をひっつかみ、今度はアウルム購買店へと突撃した。


「ここで働かせてください!」

「……はい? ヒビキさん、頭おかしくなりました?」

「ここで働かせてください!」


 アウルムさんの罵倒を受け流し、ひたすら強引に押す!

 ゴリ押す! これしか手がない!


「お金がないならダンジョンに潜ればいいじゃないですか☆」

「ここで働かせてください! こっちの子を! 俺は働きません!」

「意味が分からないんですけど~? ちゃんとお話ししてくれません?」


 嫌だね!

 まともに交渉なんかしたら断わられるって分かってんだ!

 だからまともじゃなくなるしかねぇんだよこっちは!


「ここで働かせてください!」

「はぁ~……残念ながら無理です☆ そもそも、こちらにメリットありませんし☆」

「全ての経営者の夢……賃金の要らない従業員……それが手に入るとしたら?」


 それを聞き、あちらの目の色が変わった。


「賃金が要らないということは、いくらでも働かせていいと?」

「衣食住の保証だけでオッケー! それくらいなら、ここにある在庫やらでやりくりできますよねぇ~?」

「ふっふっふ、あなたもワルですねぇ。ところで、それ本人も了承しているんですか?」


 そうだった、そういえば肝心の本人には何も言ってなかった。

 まぁ今から許可とればいいか。


「あ、あの……ヒビキ様? いったい何のお話を――――」

「ムグさん! キミはこのまま帰って本当のいいのか!? せっかくクラスの皆と仲良くなれそうなのに!」

「え!? そ、それはもちろん残念だとは思いますが――――」

「そうだろう! せっかくの人の縁をここで切るってしまうだなんて、どうかしている! そもそも実家に帰って何がある!? 何を得られる!? 何もない! 飼い殺しにされるだけに決まっている!」


 ちなみに実家がどういうところなのか俺は知らないので、決まってるかどうかは不明である。

 あと別にここで働いたとしても、アウルムさんに言われるがままに働くことになることは変わらない。


 だが! そんなこと些事だ!

 ここでうんを言わせれば俺の勝ちなのだから!


「ムグさん! 僕らはまだであったばかりだ! 一緒の思い出すらない! そんな状態でお別れするだなんて、皆が寂しがるぞ! キミはそれで本当のいいのかい!?」

「え、えっと……その……そういうわけではないのですが……」


 こういうタイプには、他人をダシにすると誘導しやすい。

 自分以外の誰かを大切にしてる良い子だからこそ、騙しやす……導きやすいのだ!


「なら、ここで働こう! 楽しい思い出を、いっぱい作ろうじゃないか! クラスの皆……いや、友達の為にも!」


 ちなみに、後ろの方でアウルムさんがドン引きした目で見てくるが無視する。

 というより、ここで止めないということはこの人も共犯だ。

 違うと言われても共犯者に仕立て上げてみせる、絶対に。


「お願いだよ~ムグさん~。助けると思ってさぁ~? うんって言ってくれないと、本当に困るんだよぉ~!!」

「そ、その……微力ではありますが、お手伝いできるなら……」

「よーし、言質取ったぁ! ということで、今日からキミの職場はここだ! 逃げることは許さんぞ!」

「!?」


 驚愕しているが、もう遅い。

 自分の発言には、しっかり責任を持たないとねぇ?


 ガハハハハハ!

 恨むなら己の人の良さを恨むんだな!


「―――――ヒビキ様? 少し、お話よろしいでしょうか」


 氷のように冷たい言葉と共に、肩に手を置かれた。

 逃げようにも、空間そのものが凍てついてるのか、振り向くこともできなかった。


 俺は己の弱さを恨むことしかできなかった。

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