第1話:先行投資

私はこの国の王――つまりあの王子の父君、

エタール5世を、驚くほどあっさりと脅した。


ゲームをカンストしていた私は、

王の“致命的な弱み”を二十個以上把握していたのだ。

それも小さな事ではなく、王座が吹き飛ぶほどのレベルのものばかり。


そして エタール5世の正体について 私は知っていた。

彼は 王家の血筋でも何でもない。 本当の王が急死した事を良い事に

見た目が似ていた事で入れ替わった男。 


それが 今のエタール5世だった。


王は一度青ざめると、次には真っ白になり、

最後には土下座のように私に頭を下げた。


「な、何でもいたしますから……どっどどうか……うううっ!」


本来 王家だけが入れる式場の個室で 

私は腕を組み 土下座する王の頭を尖ったヒールで踏みつけ


鏡に映る不敵な笑みは、

なかなかの悪役令嬢らしく 自分のクズッぷりが気に入った。


◆放置された土地。

ゲーム内では、何かのイベント用に用意され未完成のまま残った地域。


それが「辺境都市ダブレ。」


予算の問題か?。開発期間の問題か?

結局 なにも無く 不自然に残ったダブレ。


私はこの地域に興味があった。 

なので ここを私の野望の地とする事にした。


エタール5世は、私を辺境に追いやる事が出来る事。

またを ダブレをどうでも良いと思っていた事で

あっさり承諾してくれた。 



「中流貴族令嬢の小娘が都市の領主に・・・」。


こうして私は望みどおり、辺境の都市ダブレの領主に任じられた。

だが、このダブレという都市――想像以上にひどかった。


メイン通りはそれなりに栄えているものの、

一歩裏通りに入った瞬間、そこは地獄だった。


下水は詰まり悪臭が充満し、路上には病人が倒れ、

子どもたちは痩せ細り、目の光さえ薄い。

家屋は傾き、商人は逃げ、治安は崩壊していた。


私の野望には とにかく まずは 資金が必要だった。


(……こんな状態で、どうやって重税を取れというの?)


悪役令嬢である私は、将来的には民から

税金を搾りに搾り取って大悪党になりたい。


しかし、路上に転がっているような民から税など取れるはずもない。


仕方なく、まずは民に“配給”を行うことにした。

もちろん慈悲ではない。


あくまで、将来 鬼の様に重税を取り立てるための“先行投資”である。

パンとスープを配り、最低限の衣類と毛布を渡した。


治安維持のため兵士を派遣し、まずは裏通りからゴミを排除。

詰まっていた下水をどうにかして流し、井戸の清掃も行った。


病人には薬を配った。

これも仕方なく、である。


働ける身体を取り戻させて、数年後、いや数か月後には、

しっかり税金を絞りとってあげる。


それまでは我慢よ。


だが――。


配給を受けた民は涙を流し、子どもたちは震える手で食事を抱え、

私を見ると、まるで聖女でも見るようなまなざしを向けてくるではないか。


1人の やせ細った 女が 私の前で膝まづき 

震えながら 声も無く 涙を流してる。


(えっ なに この人っ  どうゆう事よ? 意味が解らない)。


「領主様……ありがとう……!」

「この街に、神様が来てくれた……!」


(いやいやいや、違う! 私は悪役令嬢よ!?

将来あなたたちからどっさり税金むしり取る大悪人よ!?)


だが、民はそんなこと知る由もなく、

ダブレの街は少しずつ、私を“慈悲深い領主”と崇め始めていった――。


まあ いいわ 後でガッツリ返してもらうから 

その時、血の涙を流すと いいですわ。


彼女は酷い 悪党顔だった。

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