癒しの男

人を助けたかった。

だから必死に勉強して、医者になった。


選んだ専門は心臓外科。

人間の核である心臓こそが、大切だと思ったからだ。


研修医の頃から積極的に手術を見学させてもらい、

論文も読み漁り、日々のトレーニングも欠かしたことはない。


医療従事者たる者の宿命に、

やりがいを感じていた。


「先生、本当にありがとうございます」


手術の後、患者さんにそう言われる度に、

心臓外科医になってよかったと思う。


前向きに生きてほしい。

少しでも、苦痛から解放されてほしい。


心臓外科医は、僕の天職だ。



勤務を終え、

総合病院から近くの自宅へ帰っていた時だった。


「きーめたっ!」


振り返ろうとした瞬間、

視界が暗転した。



ここは……?


ぼうっとする意識の中、目を開くと、

黒い天井が見えた。


左右に目を向けて、

自分が檻の中にいるのだとわかる。


体を起こし、周囲を見渡した。


少し離れたところに、

見たこともない女が椅子に腰をかけている。


僕を見ながら、微笑んでいた。


「意識が戻りましたか?」


優しい声。

僕が、患者さんに語りかけるときと、同じ調子で。


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