偽物の女

そう言って女は私の目の前まで歩み寄り、私の顔をじっと覗き込んだ。

距離が近い。

その視線が、たまらなく不快だった。


「すーっごい、いじったね!」


無邪気な声。

まるで私の顔そのものを笑うみたいに。


苛立ちが、腹の底から湧き上がる。

この顔になるために、どれだけの金と痛みを注ぎ込んだと思っているの。

生まれつき綺麗な女には、絶対に分からない。


「だから? 何?

整形って悪いことじゃないでしょ。

自己満足だから、黙って。」


私は冷たく言い放った。

もう誰にも、私の顔を評価させない。


女は一瞬、きょとんとした顔をした。

けれど次の瞬間――


「え? この顔で本気でいいの?」


鼻で、笑った。


私の顔を。

やっと人並みになれた、この顔を。


冗談じゃない。

許せない。


言い返そうとした、その前に。

女は少し離れた場所にある椅子の横、積まれたダンボール箱へ向かった。

中から何かを取り出し、また私の前へ戻ってくる。


「はーい! どうぞ!」


満面の笑み。

女が差し出したのは――鏡だった。


ただの鏡のはずなのに。

そこに映っていたのは、酷く歪んだ私の顔。


反射的に顔を背けた。

見たくなかった。


それでも、女は楽しそうに言葉を重ねる。


「あなたの将来の顔だよー」


心臓が、嫌な音を立てた。

これは何の嫌がらせ?

私は今の顔で満足してる。

……してる、はず。


「将来なんて関係ない!

今がよければ、それでいいの!」


若いうちに、謳歌すればいい。

老いた自分のことなんて、考えたこともなかった。


女は、にこりと微笑んだ。


「じゃあ今、死ぬー?」


意味が分からなかった。

混乱する私に、女は静かに銃を向ける。


やめて。

死にたくない。

助けて。



目を覚ましたとき、

私は知らない公園のベンチに座っていた。


夕方の風。

行き交う人の声。

すべてが、現実だった。


手の中に、何かが握らされている。


整形前の――私の顔写真。


あの女は、誰だったのか。

なぜ、私は捕らえられたのか。

あのやり取りは、何だったのか。


疑問だけが、脳裏に焼き付いている。


夢だったと、思いたかった。


それでも。


向けられた鏡と、銃口の感触だけが――

あれがすべて、現実だったことを、

静かに、確かに、告げていた。

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