卑屈な男

自信がない。

人の目が、怖い。


僕なんて、大した人間じゃない。

何をしても、人並み以下。

お世辞ひとつ、うまく言えない。


どうしたら、みんなみたいにできるんだろう。

僕なんて、いてもいなくても変わらない。


自信がある人が、羨ましい。

僕にも、何か特別なものがあればよかったのに。


せめて、人並みなら。


どうせ僕なんて、価値のない存在だ。


今日も仕事で、上司に叱られた。

確認ミス。

連絡ミス。

打ち間違い。


なぜ、僕はこんなにもできないのだろう。


……僕なんて、いなければいいのかな。


「きーめたっ!」


女の声が聞こえた。

振り返ろうとした、その瞬間、視界が暗転した。


───冷たい。


コンクリートの床。


僕は、どうなった?


そうだ。

女の声がした。


這いつくばったまま、顔だけを動かす。

少し離れた場所で、女が椅子に座り、こちらを見ていた。


───誰だ。

知らない人だ。


僕が黙っていると、先に口を開いたのは女だった。


「おはよう」


優しい声。


……少し、安心してしまった。


僕は檻の中で、そっと座り直した。


「あなたは、誰ですか?」

「僕は……なんで、ここに連れてこられたんでしょうか……」


女の機嫌を損ねないように、言葉を選ぶ。

何をされるかわからない。

怖かった。


「んー、どうしてだと思う?」


女は首を傾げ、笑っている。


こんな状況なのに、


……女のことを、可愛いと思ってしまう自分が、

いちばん怖かった。

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