第2話 沈黙する吹雪

 声を凍らせられた私は、もう言葉を発せなかった。

 代わりに、雪が私の代わりに喋り始めた。


「私は私だ」

「私はまだ来ていない」

「私はもう行ってしまった」


 雪の声は私の口からではなく、部屋そのものから響いている。

 壁が喋り、机が喋り、冷蔵庫が喋る。

 彼らは私の言葉を雪から奪い、好き勝手に並べ替えていた。


 私は耳を塞いだが、音は頭の中に直接降り積もった。

 雪は次第に大きくなり、一片ごとに椅子ほどの大きさを持ち、

 やがて部屋いっぱいに積もり上がった。


 外に逃げようとドアを開けると、そこには雪原が広がっていた。

 ただし雪原は上下逆さまになっていて、空から降ってくる雪ではなく、

 大地そのものが天井に向かって降り積もっていた。


 私は逆さまの雪に吸い込まれ、宙に浮いた。

 そこで見たのは、雪でできた“私自身”だった。

 顔も声も、昨日までの私と同じ姿をしている。


 雪の私は静かに言った。

「本物はどちらでしょうか」


 その声は、私の凍った声だった。

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