探偵は死ななきゃ、治らない
夜野 舞斗
絶対絶命
老若男女が集ったのは推理ショーを聞くためではない。皆が刃物を持っていることから理由は明白。探偵を殺したい程、憎んでいるのだ。
人気のない田園でどれだけ叫ぼうとも無意味。
僕の一番近くにいる少女がペティナイフをこちらに放り投げた。睨みつけることで威嚇と正気を保つのが精いっぱいな僕に対し、彼女は酷く余裕な笑みで会釈。
その状況で彼女は告げる。
「貴方のお爺様。かつて世界を震撼させた名探偵、
「えっ……?」
突如として泣き出す周りの男女。泣きだしたかと思えば、こちらにナイフやら、
洒落にならない異常な空間。異常な感情。異常な少女。異常な世界。異常な人達。
これでも動かねばならないと歯を食いしばって、決意する。反論せねば、と。
「何が……言いたいんだっ!」
声を出した少女は優雅に語る。
「うちのおじいちゃんは君に殺されたってことだよ? 探偵さん?」
意味が、分からない。
「何言ってるんだ!? 僕は人殺しなんてしたこと……! 許したことすら……!」
「ない」と断言したかった。もしかしたら、探偵として殺したことはあるかもしれない。死刑台を送りにしたことか、自殺させてしまったことか。
突如少女の後ろにいた男が出刃包丁を握ったまま、叫び出す。
「嘘をつくな! あれだけ、故人の尊厳をぶち壊しておいて……」
「壊す……!?」
「ああ……骨だって粉々になって……!」
まるで意図的に殺されたかのような言い方だ。
圧倒されているうちに少女が振り返る。男の顔が真っ青に。怯えた様子から察するに彼女はとても恐ろしい顔をしていたのだろう。「黙って」との一声で、男は後ずさりしていった。
それでも、刺身包丁を持った年増の女が元々男のいた場所に入り込む。逃げることは不可能だ。
説得でも無理かもしれない。男が発言したことを加味すれば、
「本当に何のことだか、分からない。僕の記憶にアンタのおじいちゃんどころか、人を殺した記憶すらないんだっ!」
幻覚や幻聴で訳の分からないことを喋る集団だろうか。そんな不審者集団に囲まれたのか。
今までの事件でも全員犯人なんて展開は存在しなかった。
だから対処法も何も分からずに断念する。
もはや、ここまでかよ、と。
少女は足元までナイフを蹴った。回り回った後で刃がこちらに向いた状況に心臓が止まりそうになる。今にも吐きそうな僕に対し、選択を迫ってきた。
彼女が指したのは一人の少女。僕と共にこの地へやってきた。あの子は動かず、縄で囚われた状態で。
「……いいわよ。あたし達の後ろにいるメイドさんが殺されちゃってもいいのなら、逃がしてあげる」
「くっ……卑怯すぎるだろ!」
「探偵さん、選んで。そのナイフを使ってこの場で貴方が命を絶つか、それとも、貴方の大切なメイドを見殺しにするか……!」
この耳に何かが、誰かが呟いた。頭の中で再生された。「大事な使命がある。いつでも、家政婦など切り捨てて。代わりのいる人間より、優秀な自分の身を守れ。いいな。それが最優先だ」と。何度も何度も壊れたラジオカセットのように再生されていく。
自分の両手を見つめつつ、そんな自分を後ろから眺めているような感覚を覚えながら。僕は口を開いた。
「ぼ、僕は……僕はやらなきゃ、いけないことがあるんだ……!」
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