2−1 ギルドでクエスト争奪騒動
「頭痛いよぉー」
窓から朝日が差す中、質素なベッドの上で悶え苦しむネモ。
「だから飲み過ぎだ」
呆れた様子でティーパックを湯に淹れるジェラルド。
「いやぁ、辛さも楽しさも臨界点を超えてつい……」
「ほんとお前しょうもないな」
「しょうもないはこの短期間に何度も言われたのでもうやめてください……」
「知らねぇよ、改めろ」
手際良く茶をネモに配膳するとジェラルドはネモに語り掛ける。
「さて……これからどう動こうか……」
茶を啜りながらネモは俯く。
「ギリギリ正体隠し通せたとは言え目立っちゃったしね……向うの神官さんにも一人勘付かれちゃったしな……余程の事が無ければ黙っててくれそうな人だったけどね」
「まあ……それはしゃあないとして、ここに暫く留まるか、直ぐに他所行くか何だが」
「僕はすぐ他所行くべきかと思うけど」
ジェラルドは顎に手を当て考え込む。
「だがなネモ……まだここの近くに炭の棺があるとしたらどうするよ」
「うーん……今のうちに見つけといたほうが良いのかなぁ」
ジェラルドは少し黙った後語りだす。
「お前がここに来た時にな、ワイバーンを倒したと言ったろ」
「うん」
「アレよりデカい、色々なワイバーンがお前が寺院に潜入してる時に六回来たそうだ」
「大体一日一回のペース、日替わりランチかなにか?」
「そんだけ来ると犠牲者も多くてな……で何でそんなにワイバーンがこの街に来ると思う」
「わかんない」
「少しは考えろ」
ネモは痛む頭を捻りながら考える。
「うーん……ワイバーンは基本的に生態系の頂点だし、そいつらが大移動してくるって事は……地殻変動なんてここ最近なかったし……もっと強い奴が暴れてとか……もしかして、
「そうだ、一月前に東の山で今までどこにも観測されていなかった灰色隻眼のドラゴンが大暴して手当たり次第に他のワイバーンを捕食しまくってるらしい、」
「へぇ、でもドラゴンって大体その地域で元から有名な位聡明で強い子が精霊とゆっくり同調して変異するものだし……そういう風に目立つ暴れ者が急に現れることってなくない?」
「そうだ、不自然、それに元々ドラゴンは龍禍対策院が常に探知調査分析し龍禍を起こさないように徹底している、たまに抜けもあるが今回みたいな目立つ暴れ者が突然現れるってのはほぼあり得ない」
「あぁ……だから炭の棺が原因かもと」
「そうだ……そして今、マウントアンダー併設の
「公務官がギルドに依頼なんて珍しい、でも僕ら登録してないじゃん?」
「俺は今までの捜索の一環で登録していくつか課題をこなして準二級の組合員になってる」
「さっすが」
「むしろお前登録してなかったのか? 魔法関係の揉め事とか見つけやすいぞ」
「細かい手続き嫌いだし」
「ほんとお前……まあ良い、とりあえず今日はこれからこの課題の話を聞きに行こうと……」
「まあ、頑張ってね、僕は二日酔いで頭痛いから待ってるよっ!」
ネモは手をひらひらと振りながら再度毛布に潜り込む。
「来るんだよっ! お前も、そしてついでにギルドに登録しろ」
ジェラルドはネモの毛布を引き剥がし頭を掴んでベッドから引き摺り出す。
「いやぁぁー、ケダモノぉーっ!!」
「あぁまあ俺は
ネモを引き摺りながらジェラルドはマウントアンダーに向かう。
「まだ寝てたいよぉーっ!」
「おう、昨日は良く飲んだな二人とも」
先日、二人の再開の場に居たマウントアンダーのマスター。
相変わらず綺麗な布で酒のグラスの手入れをしている。
「はい……昨日は世話になりましたね……特にコイツが」
ネモがマスターの前に引き摺り出される。
「すいやせん…」
項垂れるネモ。
「まああの見事な踊りに免じて許してやるよ」
「いやあぁーっ!!」
一人で悶絶するネモを尻目にマスターはジェラルドに話しかける。
「今日は飲みに来たわけじゃあなさそうだな」
「ああ……これの用事さ」
ジェラルドは槍の装飾3本が入った懐中時計をマスターに見せる。
「ギルド会員として受けたい依頼があるんだ」
「路銀稼ぎかい? まあ沢山金使ってくれたもんなぁ、そりゃ足りなくなるよなぁ」
「…………ああ、そんな所だ……で、例のドラゴン関連のの課題を受けたいと思ってな」
「……確かに、市政の奴等からの妙に金払いの良い仕事だが……」
歯切れの悪そうなマスター。
「どうかしたのか?」
「こういう金払いの良い仕事は近所住みの荒くれ魔法使いが独占まがいの事しててな、少しばかり素直にいかんと思うぜ」
「おいおい、そんなんでいいのか?」
マスターは頭を掻く。
「俺が管理してんだったんならそんな事させないんだがな……俺はギルド併設の酒場のマスターなだけで、ついでに受付手伝ってるだけだ……最終的な依頼に対する冒険者への任命権限はコネで入ったあのボンクラが握ってんのよ……」
マスターが指を指した先、そこにはこじんまりとしたクエスト受付カウンター、中には気弱そうな青年がどこかおどおどと筆仕事をしている。
「ま、話しかけたら解ると思う、あと面倒事を避けたいなら、クエストそのものを諦めた方がいいぜ、路銀稼ぎなら安いがもっと楽なのもある」
「そうもいかんのでな」
「何だか路銀以外の理由がありそうだな」
「……まあな」
そういうとジェラルドは席を立ち、その青年に声を掛ける。
「君がここのギルド長か?」
「ひぇっ……あっ……はいっ」
俯いて書類と向き合っていた青年はジェラルドのその
ジェラルドは銀時計を見せながらわざとすこし大声で青年に問う。
「例のドラゴン調査の依頼を受けたい、なんなら報酬は半分でいい、是非受けさせてほしい」
酒場に一気に緊張が疾走る。
「あ……はひ……あの……その……そのいらひはぁ……」
戸惑い困惑する青年。
そのときジェラルドの背後から雄叫び一つ。
「いけねぇなあ! 獅子面の旦那ぁっ!」
スキンヘッドのニメートル近い、軽鎧をまとい斧を背負った大男がジェラルドに近寄る。
「何がいかんのかな?」
とぼけながら尋ねるジェラルド。
「その依頼はうちのチームが引き受けることになってんだよ! 横取りは許さねえ」
「ふぅむ……ギルドのクエスト担当者は希望者の中からギルド長の総合的な審査で行われるはずだが?」
スキンヘッドは手を広げて大声で酒場に吹聴するように説明する。
「それは! 俺たちがここらで一番優秀で強えからよ! 数々の実績もある! 選考の余地はねぇ! ここは俺らで回ってるギルドなのよ!」
ジェラルドは様々な事情を察しながら言葉を選ぶ。
「そうなんだな、素晴らしいな……だが、我々は報酬半分で受ける、これは十分、選考の要素に値するはずだ、なあギルド長、まさかこれだけの条件を出す組合員を無碍にはしないだろうな」
突然の飛び火に焦る青年。
「え……えぇと……はいぃ」
そしてジェラルドは挑発的に一言。
「それに……我々の方がそいつらより遥かに強いぞ……それこそ、選考の余地は無いはずだ」
スキンヘッドは激怒する。
「何だとテメェ!」
無視してジェラルドは続ける。
「半額で受けると言う強者よりも、満額で受ける弱者を選ぶ……そんな真似をするようなギルド長はきっと、とても上官から非難されるぞ……そうだよな?」
「は……はひぃ」
ワタワタと困惑する青年。
周り全てを挑発するように薄笑いを浮かべるジェラルド。
その首にスキンヘッドが斧を構える。
「てめぇーっ!! この野郎! 弱者たあ聞き捨てならねぇなあ!? テメェそこの青髪の連れと外出やがれ、俺等のチームを舐めた落とし前付けさせてやるよ」
斧に微塵も怖じけずジェラルドは笑う。
「おいおい、いきなり暴力とは怖いねぇ……いったい我々をどうするつもりかな?」
(この手の奴らは……扱いやすくて助かるぜ……)
ジェラルドは笑みがこぼれそうな表情筋を必死で真剣な表情に取り繕う。
自身の思うように【障害】が踊り、行進していく。
それを導き叩き落とすその快楽に、魔王の軍師であったジェラルドは脳を焼かれ、もはや中毒になっているのだ。
そんな愉しげなジェラルドの様子を横目で見るネモ。
「獅子軍神、悪意の人形使い、混淆獣帝、魔王を嗤わす作劇家、恐れの異名は数知れず……全く食えない男だねぇ」
ひっそりこっそり呟くとネモは迎え酒の赤ワインをクイッと飲み干す。
「いや……流石にジェラルドの旦那に怒られねぇかソフィちゃんよ……」
ジェラルドを取り巻く事態とネモの意識は混迷を深めていく……。
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